【クレジット市場】超長期債はギリシャに次ぐ乱高下、黒田ショックで

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日本銀行の黒田東彦総裁が打ち出し た追加金融緩和で超長期国債の相場が荒れている。米国などと日欧の間 で金融政策の方向性に違いが出ており、相場の変動率を示すボラティリ ティでは、日本は瞬間的ながら債務問題を抱えているギリシャに次ぐ大 きさに達している。

ブルームバーグ/EFFAS指数によると、日本の残存期間10年超 の超長期国債はヒストリカル・ボラティリティ(10日ベース)が10日に

10.465%と昨年4月以来の水準に急騰。追加緩和の直前は2%未満だっ た。欧州債務危機の発火点となったギリシャは23%前後だ。

日銀は先月末、長期国債買い入れ額を従来の月6兆-8兆円から同 8兆-12兆円に拡大することを決定。政府が今年度に市中発行する国債 の大半を買い入れることになる。1回当たりでは、残存期間1-5年の 購入額は計1.1兆円と緩和前に比べて3割増、5-10年は4000億円と変 わらないが、10年超25年以下は2400億円と2倍、25年超は1200億円と3 倍以上に及ぶ。

米連邦準備制度理事会(FRB)のイエレン議長は7日、パリでの 討論会で、金融政策の「正常化は金融の不安定さの増大につながる可能 性がある」と発言。イングランド銀行(英中銀)のカーニー総裁も「移 行期は浮き沈みが激しいかもしれない」と述べた。

プルデンシャル・インベストメント・マネジメントの坂口憲治取締 役・投資運用本部長は、相場変動は異次元緩和が導入された昨年4月以 降の経験も踏まえ、徐々に落ちついていくとみるが、追加緩和でインパ クトを受けたのは超長期ゾーンで、今後もしばらくは影響が続くと分析 。特に30年債や40年債は「足元ではボラティリティが高いため、リスク 対比で考えると、今は買うタイミングではない」とみている。

昨春の教訓

黒田総裁が2%の物価目標を2年程度で達成するため「量的・質的 金融緩和」を導入した昨年4月。超長期債のボラティリティは2週間足 らずで18.785%と過去最高に達した。長期金利の指標となる新発10年物 国債利回りは緩和導入翌日の4月5日に0.315%と過去最低を記録した 後、5月23日には約1年1カ月ぶりに1%まで急騰した。

損保ジャパン日本興亜アセットマネジメントの平松伸仁シニアイン ベストメントマネジャーは、市場が昨年4-5月ほどは不安定にならな いと予想。昨年の教訓として「金利はいったん上がったが、最終的には 下がってきた」ため、今回むやみに売るのは賢明ではないと見る向きも 少なくないだろうと語った。

今回の追加緩和は、マネタリーベースの増加ペースを年60兆-70兆 円から約80兆円に加速。うち、長期国債を年50兆円から約80兆円に増や し、短期国債などは年10兆-20兆円の残高を維持した。長期国債の買い 入れ平均残存年限は7-10年程度と、従来より最大で3年程度延びる。

サプライズと現実

日銀による毎月8兆-12兆円の長期国債買い入れを年換算すると、 政府が今年度に入札を通じて機関投資家に販売する国債の市中発行額

155.1兆円に対し、最大で9割超に及ぶ規模となる見込みだ。

日銀は10日までに行われた公開市場操作で、長期国債を全て予告額 通りに落札している。昨春は市場金利の急騰を受け、市場関係者と対話 を重ねて買い入れ方法を「より頻繁、より少額ずつ」に修正し、事態の 収拾にこぎ着けた。

マスミューチュアル生命保険運用戦略部の嶋村哲金利統括グループ 長は、残存期間25年超は追加緩和による増額率が6区分で最も高い半面 、政府の市中発行額と比べた買い入れ規模は61.5%となお最低にとどま ると推計。超長期債の利回りは購入額の大幅な変更を織り込むまで当面 、追加緩和のサプライズと現実の間で「振り子のように揺れ動く」と予 想する。

PIMCOの読み

米パシフィック・インベストメント・マネジメント(PIMCO) のポートフォリオマネジャーであるサチン・グプタ氏と日本部門、ピム コジャパンのポートフォリオマネジメント責任者、正直知哉氏は7日付 のリポートで、今回の追加緩和は昨年4月の実施時と同等の影響力を持 つと指摘した。

両氏は大胆な追加緩和は残存期間が長い国債の利回りを顕著に押し 下げ、投資収益は短期的にはアウトパフォームを続けると分析。本格的 な金利上昇は日銀が量的・質的緩和の縮小に転じる可能性が高まるまで は考えにくく、デフレ脱却の鍵となる円安傾向はまだ続くとの見通しを 示した。

国債の10年物と20年物の利回り格差は追加緩和発表があった日の翌 営業日に当たる4日に75ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)と 昨年4月以来の水準に縮小。新発20年債利回りは昨年4月8日以来初め て1.17%に低下したが、7日には1.26%と先月31日以来の高水準を付け た。

円安と物価目標

大規模な追加緩和は外国為替市場でも波紋を呼んでいる。ドル・円 相場では1カ月物オプションのインプライド・ボラティリティ(予想変 動率)が6日に11.4575%と昨年10月以来の水準に上昇。年初来の平均 は約7.2%で、7月17日には4.3050%とデータでさかのぼれる1995年以 降で最低を記録していた。円相場は対ドルで7日、1ドル=115円59銭 と2007年11月以来の安値を付けた。

プルデンシャル・インベストメント・マネジメントの坂口氏は「こ れ以上円安が進めばインフレ圧力は高まる」だろうが、「それだけで2 %の物価目標を達成するには至らない」と読む。

日銀は先月31日公表した「経済・物価情勢の展望」(展望リポート )で、15年度のコアCPI予測値を1.7%と7月時点の見通しから0.2ポ イント下方修正した。16年度は2.1%で据え置いた。マネタリーベース は先月末に前年比36.7%増の259.5兆円。昨年3月末の146兆円から、今 年末には275兆円程度に増える見通しだ。

それでも、全国消費者物価指数(生鮮食品を除いたコアCPI)の 上昇率は9月に前年比3.0%。2カ月連続で伸びが鈍化し、4月に実施 された消費税率引き上げの影響を除くと1.0%と昨年10月以来の低い伸 びで、黒田総裁が掲げる物価目標の半分にとどまる。

PIMCOの前最高経営責任者(CEO)で現在は独保険会社アリ アンツのアドバイザーを務めるモハメド・エラリアン氏は7日、パリで の討論会で、金融政策の方向性が主要中銀によって異なる状況は特に為 替市場で変動要因となるだろうと述べた。

黒田総裁は日本では日銀だけが行動しているわけではなく、安倍晋 三内閣が約束した取り組みを成功させるために措置を講じていると説明 した。一方、欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁は必要になれば追加 緩和も辞さない構えだ。

ブルームバーグの金利予想確率では、FRBが政策金利を来年9月 までに少なくとも0.5%に引き上げるとの確率が5割を超えている。10 月の米雇用統計では非農業部門の雇用者増が9カ月連続で20万人を超え 、失業率も5.8%と08年7月以来の水準に低下した。

FRBが10日発表した10月の労働市場情勢指数(LMCI)の変化 率は4ポイントの上昇。前月分は4ポイント上昇と、速報値の2.5ポイ ント上昇から上方修正された。

岡三アセットマネジメントの山田聡債券運用部長は、日銀は長期国 債買い入れで「量やタイミングなど市場との対話が引き続き必要だ」と 指摘。残存期間が長い債券のボラティリティは当面は高い状態でも、い ずれ収束していくなら「利回りの状況局面では買い場を探すことになる 」と言う。ただ、ボラティリティが「いつまでも高いままならリスキー だ」とも語った。

財務省がきょう実施した表面利率1.7%の30年利付国債(44回債) の入札結果によると、最低落札価格は104円35銭と事前の市場予想を5 銭下回った。小さければ好調なテール(落札価格の最低と平均の差)は 14銭と前回の9銭から拡大。投資家需要の強弱を示す応札倍率は3.02倍 と10年6月以来の低水準となった2.59倍から上昇した。

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