教室に金日成・正日親子の肖像写真-拉致問題が影、揺れる朝鮮学校

東京都北区にある東京朝鮮中高級学 校で学ぶ、18歳のキム・ヤンスンさん。自転車通学する姿は日本の高校 生と変わらないが、学校では朝鮮の民族衣装であるチマ・チョゴリを着 用。北朝鮮の最高指導者だった故金日成・正日親子の肖像写真が見守る 教室で学んでいる。

教室をのぞくと、生徒たちは数学や英語、ハングルを勉強している が、韓国の朴槿恵大統領に関する日本語のドキュメンタリー映像を鑑賞 しているクラスもあった。カリキュラムの大部分は日本の高校と同じ で、卒業生の約40%は日本の大学に進学するという。

18歳のキムさんは「この学校で学ぶことができるのは祖国のおかげ です」と語る。第2次世界大戦後の「一番難しかった時代」に「私たち のことを助けてくれたのも祖国」と述べ、「日本に住んでいるけど、祖 国とのつながりを今でも感じています」と話す。

キムさんが学ぶような朝鮮学校は、50万人ほどの在日韓国・朝鮮人 のコミュニティの子どもたちを対象に教育を行っている。安倍晋三政権 は、朝鮮学校を国の就学支援金制度の対象から除外する方針を決定。大 阪府などの地方自治体も近年、公的支援をカットし始めており、朝鮮学 校を取り巻く環境は悪化している。

東京朝鮮中高級学校の慎吉雄校長は、取材に対し、学校では北朝鮮 も韓国も祖国だと教えており、生徒たちは北朝鮮の現状と社会主義経済 についても学んでいると説明。どちらの政治体制を支持するかは生徒の 自主性に任せており、北朝鮮のやることすべてが正しいとは教えていな いと説明している。

北朝鮮

朝鮮半島の国際関係論などが専門の武貞秀士拓殖大学特任教授は朝 鮮学校のカリキュラムはイデオロギー色が強く、金正恩第一書記の指導 に従うべきだと教えている、と指摘。テンプル大学現代アジア研究所の ディレクター、ロバート・デュジャリック氏も朝鮮学校は金一族の支配 体制のプロパガンダを行う存在だとの見方を示している。

同校では校内では生徒に日本語を使わないように指導。日本語の教 科書を翻訳したカリキュラムで学んでいるが、近現代史だけは朝鮮民族 の視点で教えているという。

下村博文文部科学相は9月の記者会見で、朝鮮学校を支援対象から 除外したことについて「朝鮮総連と密接な関係にあり、教育内容、人 事、財政において、その影響が及んでいることから、法令に基づく学校 の適切な運営が行われているとの確証が得られなかったため不指定処分 としたということ」と説明。

その上で、朝鮮学校が学校教育法に定める高校になるなどすれば支 援対象となるほか、日本の高校に在学する在日韓国・朝鮮人は現行制度 の対象となっていることを挙げ、「差別に当たらない」との見解を示し ている。

ビビンバ

カフェテリアではビビンバやキムチなど朝鮮半島の料理を食べるこ とができる。女子生徒の多くは朝鮮舞踏を習う。最終学年の夏休みには 北朝鮮を訪問する。

朝鮮学校は、35年間の植民地時代に日本に渡り、朝鮮戦争など第2 次世界大戦後も続いた混乱を避けて日本に残った朝鮮民族の人々によっ て作られた。植民地時代に朝鮮語を学ぶことができなかったことから、 北朝鮮から教科書や資金の提供を受けて学校を各地に作った。最終的に は朝鮮半島への帰還を想定していたという。

日本には約70のこうした施設があり、幼稚園から大学まで8000人ほ どが学んでいる。1961年には4万人以上いたが、少子化や日本国籍を取 得する人たちがいたことで減少しているが、それでも4施設しかない韓 国系の学校よりも多い。

拉致問題

日朝間には日本人拉致問題という懸案があり、この問題を解決でき るかどうかに朝鮮学校の命運もかかっている。日本は先月、平壌に外務 省の伊原純一アジア大洋州局長らを派遣。北朝鮮の特別調査委員会の幹 部と協議したが、具体的な進展はなかった。

50歳になるパク・スウォンさんは、子どもたちに罪はない、普通の 高校生なのに、なぜこのような差別を受けないといけないのかと訴えて いる。パクさんは文部科学省の前でデモを行っている朝鮮学校に子ども を通わせている母親のグループのリーダーだ。

日本政府は学校側に北朝鮮との関係を絶つよう促しているが、慎氏 は朝鮮総連がなかったら、朝鮮学校を持つことはなかっただろう、と指 摘する。

国連

慎氏によると、朝鮮式の教育を受けさせたいにもかかわらず、経済 的な理由で日本の学校に子どもを通わせざるを得ない家庭もある。同氏 の学校は比較的余裕があるが、地方にある学校は先生たちに十分な給料 を支払う余裕もないという。

多くの地方自治体も資金面での支援を廃止している。大阪府は在日 朝鮮人が多く住む地域だが、年間で1億8500万円出していた補助金をカ ットした。

国連人種差別撤廃委員会は8月、朝鮮学校を支援金制度の対象から 除外する方針を見直すよう勧告。下村文科相は9月、国連委の見解は 「わが国の状況を十分に理解していないという判断ではないかというこ とで、誠に遺憾」とコメントしている。

日本国内ではこのほか、在日韓国・朝鮮人に対するヘイトスピーチ と呼ばれる人種差別的な街宣活動も社会問題化。国連人種差別撤廃委は これについても日本政府に対策を求めている。いわゆる従軍慰安婦問題 などで日韓関係も悪化する中、韓国や朝鮮民族に対する批判的な書籍が 平積みされている書店も少なくない。

それでも多くの在日の人々は、今後も日本で暮らす道を選ぶ。慎氏 によると、朝鮮学校はもはや生徒たちが祖国に帰ることは想定せず、日 本の地域社会にも貢献できるような人材に育てる教育を行っているとい う。

「統一したら、祖国に帰りたいと思うかもしれませんが、やっぱり 日本にずっと住んでいるので、日本のほうが便利だし、住みやすいのは 日本」と18歳のキムさんは語った。

--取材協力:広川高史、渡辺漢太.

    最新の情報は、ブルームバーグ端末にて提供中
    LEARN MORE