【FRBウオッチ】米国から見た危うい日銀-バブルの上の雲

 日本銀行の黒田東彦総裁は10月31 日、米金融当局が量的緩和の終了を決めた直後という絶妙のタイミング で量的緩和の拡大に踏み切った。

円相場は急落し、株価は急騰。有力ヘッジファンドを創立したジュ リアン・ロバートソン氏は「世界中で金融当局が自国通貨を安くするた め競争している」と指摘。世界は「通貨戦争」という「危険な状態」に なっているとの警告を発した。

黒田総裁は通貨政策をつかさどる旧大蔵省そして財務省の財務官と して、為替市場介入で豊富な経験を積んできたが、今回は量的緩和の拡 大を武器に実弾介入以上の円押し下げ効果を挙げている。

為替市場介入を嫌う米国政府も、インフレ目標付きの量的緩和を錦 の御旗とした円押し下げを正面切って批判することはできない。この金 融政策が連邦準備制度理事会(FRB)を中核とする米国の中央銀行シ ステムの政策に倣ったものだからだ。財務官としては手にすることがで きなかった強力な武器を、黒田総裁は確保したわけだ。

では黒田総裁がQQEと名付けた質的・量的緩和の拡大による円相 場押し下げは、本当に日本経済を改善することができるのだろうか。

確かに一部の輸出企業にとってはプラスの面もあるが、自動車メー カーを中心に海外進出が進み、円安の恩恵はさほど大きくない。円建て 輸出比率も40%以上に伸びている。むしろ原子力発電所の長期停止やこ れまでの円安で原材料の輸入額が急増してきており、これ以上の円安は 日本経済にとってマイナス効果の方が大きい。

重税、物価上昇

そもそも円安でインフレをあおろうという政策は、実体経済から乖 離(かいり)している。日銀が目標とする生鮮食品を除くコア消費者物 価(CPI)は消費税引き上げにより既に3%台に乗せており、実質家 計消費支出は急減してきた。消費者は重税と物価上昇の挟撃にあって、 財布のひもを締めざるを得なくなっている。

日銀は増税分を除いた消費者物価指数を2%に押し上げると公約し ているが、生活者に増税分を逃れる術はない。日銀のインフレ目標値は 前年同月比であり、増税実施から1年が経過すれば、比較上、増税分は はく落する。しかし、消費者の負担は続く。

消費者はあらゆる商品・サービスの平均値に過ぎない消費者物価指 数を目安にしながら買い物をしているわけではない。

フィクション化する金融政策

消費者はあらゆる要素を加味した現実の個々の製品あるいはサービ スの価格を目安にしている。このように生活実態からかけ離れた平均値 は参考にこそなれ、絶対的なものではない。しかもその平均値に過ぎな い指数、それも前年からの変化率を使って政策を決めるなど、まさにフ ィクションの世界で思考を凝らしているようなものだ。

このように実体経済から遊離した政策が機能するわけがない。だか らこそ、当初に公約した2年間でのインフレ目標の達成どころか、景気 が失速してきたため、追加緩和に追い込まれたわけだ。もっとも日銀の 2%インフレ目標が達成されれば、生活者の負担はさらに重くなる。賃 上げが物価上昇に追いつかないことは既に実証済みではないか。

大部分の生活者は消費増税と円安による物価上昇で支出を切り詰め ている。その一方で、富裕層が大部分を保有する株式などの資産価格は 高騰しており、いずれバブル崩壊につながり経済全体に大打撃を与える ことになろう。

旧大蔵省では、市場を動かせると過信した黒田氏ら通貨当局者が力 任せの実弾介入を実施。さらに同省の支配下にあった日銀に緩和策をと らせ、土地・株式バブルを醸成してきた。その破裂により「失われた10 年」と呼ばれる経済活動の低迷に陥った。第1次マネー敗戦である。

量的緩和、「サプリ」に過ぎず

今回は安倍晋三首相が旧大蔵省、そして財務省で通貨戦略を主導し た黒田元財務官を日銀に送り込み、大規模量的緩和で資産インフレをあ おっているのだから事は重大だ。自ら「異次元」と名付けたということ は、自身の思考形態が異次元ということに等しい。「言葉は人なり」だ から。

量的緩和により巨大バブル醸成を主導してきたバーナンキ前FRB 議長は自らの政策を「大規模資産購入」と命名した。異次元よりも単純 でまだ地に足が付いていた。その証拠に、バーナンキ氏は退任間際の会 見で「量的緩和はサプリだった」と認めていた。実際は異形の麻薬と比 喩すべきところだったが、直接の効果がなかったと認めたことは学者と しての実直さを示している。

米金融政策の最高意思決定機関である連邦公開市場委員会 (FOMC)の主流派が量的緩和を終了させたのは、サプリ効果がもは や完全になくなり、害の方が大きいと判断したからである。

第2次マネー敗戦へ

正貨発行権を有する金融政策をつかさどる者には慎重の上にも慎重 な姿勢が求められる。この神聖な金融政策を「異次元」にまで飛躍させ たのだから、その反作用は測り知れず、未曾有のバブル膨張を招くこと になるだろう。バブルは人々の慢心の集合体であり、今回はその中核で 正貨発行権を持つ中央銀行が「異次元」思考で操縦している。

異次元バブル崩壊とともに訪れる第2次マネー敗戦の惨禍は第1次 を上回るどころか、当然ながら「異次元」へと広がっていく。QQEに よりすでに株価は急上昇しており、バブルの様相を深めてきた。QQE のさらなる量的拡大はそのバブルの頂上の上空に暗雲を配置したように 見える。

(【FRBウオッチ】は記者個人の見解です)

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