伊藤教授:GPIFは黒田緩和と「美しき調和」、次はガバナンスの攻防

年金積立金管理運用独立行政法人( GPIF)が国内債を大幅に削減する新資産構成の発表と日本銀行の国 債購入を大規模に増額する追加金融緩和の決定が同日に重なったのは偶 然ではない-。政策研究大学院大学の伊藤隆敏教授は、両者は国債市場 の安定をめぐって絶妙なコンビネーションの関係にあるとの見解を示し た。

伊藤教授はGPIFをはじめとする公的・準公的資金の運用・リス ク管理を見直す政府の有識者会議で座長を務めた改革推進派。前週末の インタビューでは、GPIFと日銀は「美しき調和」を果たしたと評価 した。両者は「以心伝心の間柄だ。意図するとせざるとに関わらず、見 事に示し合せた政策対応だった」と述べ、「私はこれをハロウィーンの 奇跡と呼びたい」と続けた。

伊藤教授は、黒田東彦総裁が率いる日銀は政府から独立した存在で あるため、追加緩和に踏み切ったのはあくまで、2%を目指して押し上 げを図っている消費者物価の上昇率が鈍化してきたためだと指摘。GP IFのためではないが、結果的に市場で大量の国債を売却しやすい環境 を整えることにもなると説明した。

GPIFは厚生年金と国民年金の運用資産127.3兆円を抱える世界 最大級の年金基金。先月31日に発表した新資産構成は、国内債の目標値 を従来の60%から35%へと大幅に下げる一方、日本株は12%から2倍超 の25%に、外国債券は11%から15%へ、外株も12%から25%に引き上げ るものだった。5%だった短期資産は廃止し、適宜保有。オルタネティ ブ(代替)投資は案件の特性に応じて各資産に区分し、全体の5%を上 限とした。

金利上昇シナリオ

目標値からの乖離(かいり)許容幅も変えた。国内債は従来の上下 8%ずつから同10%ずつに、国内株式も同6%ずつから同9%ずつに拡 大。外国債券は同5%ずつから4%ずつに縮小し、外国株式は同5%ず つから8%ずつに広げた。大規模な資産入れ替えが市場に悪影響を及ぼ さないよう、移行期限は設けず、乖離許容幅からの超過を容認する。

政府と日銀が経済活性化と2%インフレを目指す中、GPIFは将 来の金利上昇で評価損を被りかねない国内債の削減と収益向上を求める 圧力に直面。昨年6月には資産構成を2006年の創立後、初めて変更した 。政府の有識者会議は昨年11月、国内債偏重の見直しやリスク資産の拡 大を提言。安倍晋三首相は資産構成の早期見直しを求めていた

GPIFは資産構成の見直しに当たり、経済・金融環境が2023年度 までは大きく変わるという年金財政検証の前提を踏まえ、今後10年間の 金利上昇シナリオを想定。長期デフレを背景とした国内債中心の構成か ら、内外の株式と債券が半分ずつ、国内資産が6割、外貨建て資産が4 割という分散型に変えた。

「伊藤説」が的中

GPIFの新たな資産構成の目標値は、外債以外で伊藤教授が示し た水準と一致した。14日のインタビューでは、現時点で望ましい資産構 成は国内債が35%、日本株と外株が25%ずつ、外債が11%程度だと述べ ていた。オルタネティブ投資資産を5%程度で新設する可能性があると も指摘。乖離許容幅の拡大もかねてよりの持論だった。

GPIFの6月末時点の保有実勢は国内債が53.36%、日本株が

17.26%、外債が11.06%、外株が15.98%だった。同法人が目安として いた短期資産を5%と仮定した場合の構成割合は国内債が51.91%と乖 離許容幅の下限を割り込み、国内株は16.79%、外債は10.76%、外株は

15.54%となっていた。

伊藤教授は前週末のインタビューで、国内金利の歴史的な低水準と 有識者会議の緩やかなインフレ環境への移行を見込んだ分析に基づけば 国内債比率を大幅に引き下げて内外株式を思い切って増やす推計結果が 得られると説明した。

GPIFの三谷隆博理事長は先月31日の記者会見で、市場への悪影 響を避けるため、巨額の資産入れ替えは急がないと言明している。ただ 伊藤教授は外債と外株の保有実勢は足元で、新たな乖離許容幅の下限に 達した可能性があると試算。国内債はなお15兆-20兆円の残高圧縮が必 要だが、日銀の巨額購入を追い風に「一気に売ってしまい、目標値に近 づけるのが適切だ」と述べた。日本株や外貨建て資産の買い増しは「ゆ っくり考えればよい」と言う。

GPIFは今回の資産構成見直しとともに、ガバナンス体制も強化 する。運用委員会の下に「ガバナンス会議」を設置し、投資原則と行動 規範の策定・監視。コンプライアンス(法令順守)の責任者を任命し、 三谷理事長が委員長を務める「コンプライアンス委員会」に報告する。 また、マクロ経済や市場予測に関するコンサルタントを採用。専門人材 の採用に向け、給与体系の見直しも進めている。

伊藤教授は、GPIFの運用改革に一定の結論が出たことで「次の 攻防は、いよいよガバナンスだ」と指摘。リスク資産への投資拡大と高 度な運用に欠かせない複数の常勤理事による合議制などの抜本的な組織 改革を推進する考えを示した。

厚生労働省は先月29日、社会保障審議会の年金部会に設置するGP IFのガバナンス体制を検討する作業班の初会合を、きょう午前9時か ら開くと発表した。委員は10人で、4月までGPIFの運用委員長だっ た東京大学大学院の植田和男教授が座長、伊藤教授は座長代理を務める 。

作業班の委員には有識者会議メンバーから3人が入る。伊藤教授に 加え、GPIFの運用委員会で委員長代理を務める堀江貞之野村総合研 究所上席研究員とJPモルガン証券の菅野雅明チーフエコノミストだ。 日本投資顧問業協会の岩間陽一郎会長も選ばれた。

政府は6月に閣議決定した改定版日本再興戦略で、GPIFの運用 見直しを求めるだけでなく、ガバナンス強化についても運用委員会の体 制整備や専門家の確保などに加え、法改正の必要性も含めた検討を行う と明記した。

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