【FRBウオッチ】時間軸でバブル醸成、超緩和「出口」なし(中)

前回は「2%の物価目標」が金融政 策を歪めていると分析したが、さらに大きな問題は金融政策により「雇 用の最大化」を実現できるという幻想であろう。この金融政策に対する 過度な期待がバブルの源泉と言ってもあながち的外れではあるまい。

ニューヨーク連銀のダドリー総裁は22日に開かれたブルームバー グ・サミットで、金融政策を決定する連邦公開市場委員会(FOMC) 参加者らの経済や政策金利予測を「過信するべきではない」と、市場参 加者に注意を喚起した。

しかし、米金融当局は市場の期待に働きかける政策を追求すると公 言してきたのだから、この警告は理屈に合わない。「市場の期待に働き かける」政策とは、金融当局の政策意図を正確に市場に伝達し、政策効 果を高めるものである。

金融政策は当局者の予測に基づいて実行されるものなので、その予 測に対して市場参加者が信頼を置かなければ政策効果は得られない。ダ ドリー総裁の苦言は「市場の期待に働きかける」政策が効き過ぎて、市 場が当局者に過度の信頼を置くようになったことに対する焦りを反映し ている。それではなぜ、市場の金融政策への期待が過信へと様変わりし たのだろうか。

「われらは声明を信ずる」

米国の金融当局に対する市場の信認は、2008年9月のリーマン・シ ョックにより大爆発を起こした住宅・金融バブルの崩壊でいったん地に 落ちていた。しかしFOMCが決定した事実上のゼロ金利政策と大規模 資産購入(LSAP)により資産価格が急騰するに及び、信認回復から 過信へと舞い上がってきてしまった。つまり、資産価格の高騰で市場参 加者が金融政策を過信するようになり、資産価格を相乗的に押し上げ、 バブルへとつながってきたわけだ。

連邦準備制度が異次元金融緩和で増刷しているドル紙幣には、"In God We Trust"(われらは神を信ずる)と刷り込まれている。同様に市 場参加者の多くがFOMC声明を読む目は、短い文言に神が宿っている かのように真剣そのものだ。

しかしFOMC声明を時系列で比べてみると、これが信頼に足るか どうか大きな疑問が湧いてくる。前回は2%のインフレ目標の問題点を 指摘したが、今回は事実上のゼロ金利政策の時間軸に関するガイドライ ンを振り返ってみる。

時間軸7回変更、なお「相当の期間」

FOMCが事実上のゼロ金利に踏み切ったのは08年12月。それと同 時に「弱い経済状況が一定の期間(for some time)、FF金利の異例 な低水準を正当化する可能性が高い」という時間軸を設定した。この最 初の時間軸の寿命は4カ月。09年4月のFOMCで「長期にわたって (for an extended period)異例の低金利を正当化する可能性が高い」 へと引き延ばされた。FOMCはその根拠としてスラック(労働者や生 産設備の余剰)を挙げていた。

この「長期にわたって」の時間軸は11年8月まで2年4カ月継続。 同月の会合で、「13年半ばまで」と期間明示型の時間軸に変更。この時 間軸の寿命は半年。12年1月会合では「14年遅くまで」に延長された。 さらに、同年9月には「15年半ばまで」と再延長。

それも束の間、3カ月後の12年12月には期間明示型の時間軸が取り 除かれ、初めて資産購入プログラムが終了した後も、「相当の期 間」(for a considerable time)非常に緩和的な政策スタンスが引き続 き適切になる、とのガイダンスが採用された。

さらに、このガイダンスを補強するために、事実上のゼロ金利政策 について、「失業率が6.5%を上回っている限り適切になる」と初めて 失業率を時間軸に関連付けた。同時にインフレ率についても目標の2% を0.5ポイント上回らない限り異例の低金利を継続する姿勢を示してい た。こうした時間軸の延長あるいは変更は、金融当局者の経済見通しが 楽観に傾き過ぎ、時とともに下方修正を余儀なくされてきたためだ。

このように声明を時系列で振り返ってみると、政策の行き詰りが浮 き彫りになり、声明で記述されている「政策緩和」(Policy Easing) の出口作戦への過信は少なくとも修正できるだろう。米金融当局は仮に 出口を抜けることができたとしても、日銀が経験したようにさらに長い トンネルが待ち受けている可能性が高い。

予測が裏目に

12年12月に時間軸に採用された失業率は同月に7.9%と、目安を1.4 ポイント上回っていた。同時に発表されたFOMC参加者の失業率に関 する予測(平均傾向)は、6.5%の目安を下回る時期が15年第4四半期 (6.0-6.6%)に訪れると示唆していた。つまりFOMCはゼロ金利解 除時期を引き続き2015年後半と予測しながらも、期間の明示を避けるた め、失業率という統計による裏付けに移行したのである。

しかしこの狙いは裏目に出る。失業率の低下ペースが予想より速ま ったのである。失業率は11カ月後の13年11月には7%、12月には一気 に6.7%まで下がり、目安の6.5%割れが目前に迫ってきた。FOMC主 流派の念頭にある初回利上げの時期はあくまで2015年後半である。

労働市場の構造問題

ここでFOMC主流派は失業率の急速な低下を労働市場の構造変化 のせいして、14年3月の定例会合で失業率の目安を削除。現行のように 「特にインフレが引き続き中長期的な目標である2%を下回ると予測さ れる場合、資産購入プログラムが終了した後も相当な期間、FF金利誘 導目標を現在のレンジで据え置くことが適切であろうと想定している」 と、インフレ目標ならびに「相当の期間」を時間軸として残したのであ った。

イエレン議長は失業率の低下が予想より速かったことについて、再 就職をあきらめた失業者が職探しをやめて、失業者にカウントされなく なったことや、パートタイム就労が増えてきたことなどを指摘。「まだ 完全雇用には程遠い」と指摘している。

労働年齢人口に占める労働力人口(就業者+失業者)の比率である 労働参加率は、今世紀に入って低下トレンドを明確にし、特に今回の景 気拡大局面での低下がきつくなってきた。これはいったん失業すると再 就職が難しく、職探しをあきらめて労働市場から退出する人が増えてい るからである。

暖簾に腕押し

これはまさに労働市場の構造変化の象徴である。金融政策は景気循 環を均すことはできても、構造変化には対応できない。現在のように構 造変化の真っ只中で「最大限の雇用確保」を目指せば、暖簾に腕押しと なり、ダブついた金融は資産市場に向かいバブルを醸成。貧富の差拡大 など社会的な病弊の悪化につながっていく。

米金融当局は「雇用の最大化」に間違った手法を使って経済の混乱 を増し、さらに時間軸といった市場操作でその混乱を相乗的に高めてき たわけだ。もっとも、これは金融当局だけの責任ではない。連銀法によ り「最大限の雇用確保」が義務付けられているのだから。次回は誤った 金融政策により、バブルが膨張、もはや後戻りできないところまで突き 進んできた実態に迫る。

(【FRBウオッチ】は記者個人の見解です)

ワシントン 山広 恒夫 +1-202-624-1968 tyamahiro@bloomberg.net 記事についてのエディターへの問い合わせ先: ニューヨーク 西前 明子 +1-212-617-2601 anishimae3@bloomberg.net

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