高級ワイン偽装は冒瀆行為-米富豪がハイテク鑑定武器に逆襲

フランス南西部のジロンド県にある ボルドー大学のキャンパスは別荘地のようだ。広大な庭園はゼラニウム の香りに満ち、点在するシャトーが教室や実験室として利用されてい る。木々の陰に隠れ、その風景に不釣り合いな近代的研究所がボルド ー・グラディニャン原子力研究所(CENBG)。物理学者のフィリッ プ・ユベール氏の研究室がある建物だ。

ユベール氏は放射能研究を専門とし、研究室には3台の放射線測定 器がある。この測定器は通常、病院の排水や原子力事故に伴う放射性降 下物を測るために利用されるが、現在そこにはボルドー地方を代表する 高級ワイン「シャトー・ラフィット・ロートシルト」のセカンドワイン 「カリュアド・ド・ラフィット1905年」が入っている。ユベール氏の役 目は中身のワインが本物かどうかを鑑定することだ。ブルームバーグ・ マーケッツ誌別冊の高級ライフスタイル誌「ブルームバーグ・パースー ツ」2014年秋季号が報じている。セカンドワインはシャトーの名前を冠 したファーストワインの非常に厳しい基準には適合しなかったワイン。

鑑定では、ワインに放射性物質セシウム137が含まれているかどう かを調べる。セシウム137は自然界には存在せず、1945年に最初の原子 爆弾が広島市に投下された際に放出された。ユベール氏は論理的に、そ れ以前に生産されたワインにセシウム137は含まれていないと考える。

このような鑑定作業の需要は増加している。昨年12月、ユベール氏 の鑑定結果が名の知れたワインディーラー、ルディ・クルニアワン氏を 相手取った訴訟で一つの拠り所となった。同氏の逮捕は、ワイン業界で 誰もが話題にしたがらないある問題を白日の下にさらした。それは、収 集価値のあるワインの偽物がはびこっているという実態だ。

後を絶たない

「偽物の市場が拡大している。衰える兆しを見せていない」。サザ ビーズのワイン部門の元ディレクターで、ワイン鑑定の第一人者である マイケル・イーガン氏はそう語る。

2005年、コッチ・インダストリーズ幹部のデービッド・コッチ氏の 双子の兄弟であるビル・コッチ氏は偽物のワインを所有していることに 気付いた。かつて第3代米大統領トーマス・ジェファーソンが所蔵して いたとされる1787年産のボルドーワイン4本が価値のない偽物であるこ とが判明した。コッチ氏(74)はこのワインをオークションで50万ドル (現在のレートで約5400万円)で落札していた。この詐欺事件をきっか けに、自身のセラーにある4万3000本のワイン全てを鑑定することを決 心した。

同氏が調査を依頼した鑑定人らは、当時ロサンゼルス在住だったイ ンドネシア人、クルニアワン氏を通じて購入した211本について、本物 かどうか疑わしいと判定した。これらのワインにコッチ氏が支払った総 額は200万ドルを超える。あらゆる生産年のワインのサンプルが検査の ためCENBGの科学者らの元に送られた。検査で本物と鑑定されたワ インは皆無だった。

驚くべき光景

コッチ氏はクルニアワン氏を提訴。ワイン関連の詐欺撲滅を目指す 個人としての取り組みが本格化した。コッチ氏は詐欺による被害額 が2500万ドルを超えると推計している。同氏の資産評価額は43億ドル。

同氏はコロラド州パオニア郊外にある自身の牧場から電話インタビ ューに応じ、今回の取り組みのきっかけについて「多分、子供のころに さかのぼる話だ」と説明。「私はだまされるのが大嫌いだ。弱く無防備 だった幼いころ、何度もだまされた」と振り返った。

クルニアワン氏を追い詰めていたのはコッチ氏だけではなかった。 米連邦捜査局(FBI)の捜査官らが2012年3月8日にカリフォルニア 州アルカディアにある同氏の自宅を家宅捜索した。室温はワインセラー の標準的な温度であるセ氏15度に保たれていた。捜査官らはそこで、驚 くほど入念な偽装作業の現場を目にした。ワインのボトルはラベルのの りがはがれやすくなるよう流し台の中に沈められていた。再び封をする ための新旧のコルクのほか、世界の最高級ワイン27種の偽のラベルが1 万9000枚。レストランから回収された空のボトルに再びワインが注がれ 販売されていたほか、全く初めから偽造されるワインもあったという。

名前も偽り

さらに、「ルディ・クルニアワン」という名前さえ偽りであること が分かった。コッチ氏が依頼した私立探偵によれば、巨額詐欺事件で服 役中のバーナード・マドフ受刑囚にちなんで「ボルドーのバーナード・ マドフ」と呼ばれるこの人物の本名はツェン・ワン・フアンだった。コ ッチ氏はクルニアワン被告の裁判で検察側の証人として証言。同被告に は8月7日に禁錮10年の判決が下された。代理人のジェローム・ムーニ ー弁護士によれば、クルニアワン被告は上訴する可能性が高い。

米専門誌ワイン・スペクテーターによると、世界のワイン収集関連 業界の規模は2002年には9000万ドルだったが、13年には3億ドルを超え た。背景には、中国で拡大した富裕層からのボルドー産とブルゴーニュ 産をはじめとする高級ワインへの抑えきれない渇きがあったようだ。た だ、価格が上昇するに従い、偽物も増えていった。

コッチ氏はワイン偽装について「これは冒瀆(ぼうとく)だ。美し く素晴らしいものを卑劣な理由で破壊している。誰かが名画『モナリ ザ』を燃やしたら、あなたはどう感じるだろうか。私は自分の愛情が侵 害されていると感じる」と述べた。

原題:Billionaire Bill Koch Fights Fake Wine With High-Tech Team (1)(抜粋)

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