【コラム】ウォール街目指す学生に告ぐ職業上の危険-ルイス

米ウォール街の大手金融機 関が世界有数の大学の卒業者の確保が難しいようだといった話は、ここ 数十年でほんの数回しか聞かない。1990年代の初めの「ドット・コム・ ブーム」と世界的な金融危機の直後がそのケースだ。そうしたたびに、 米ハーバード大学とエール大学で卒業を間近に控える学生たちの多くが モルガン・スタンレーで働くというのではない人生を選択したいと決断 するかもしれないと思われた。しかし結局、いつもそうはならなかっ た。

米シリコンバレーは再びバブルの様相を呈しつつあり、それに対応 し大手金融機関は初任給を引き上げ、労働時間を削減し、新卒者採用に 努めている。しかし、今回がいつもと違うという理由を見つけるのは難 しい。テクノロジー業界は米国の若者の中枢神経においてウォール街の 金融機関にとって代わる力を得ることはないだろう。

「私はゴールドマンに入社する」ということは依然として実社会で は「私はハーバード大学に入学する」というのに近い。少なくとも、特 に何かを成したいという願望があるわけではないものの、極めて野心的 な若者にとってはそうだ。

キャリアの選択肢に際限がないように見えながら、結局、金融機関 に職を得るこうした大勢の若者たちに対し、私が常に抱く疑問は次に何 が彼らに起きるのかだ。彼らは「個性(キャラクター)」を持ってい て、この個性は状況がどうであれ持続すると世間は考えたがる。だが現 実は違う。人間は置かれた環境の誘因に左右されやすい。適切なマナー で振る舞いたいと考えれば、しばしば最善の策はその個性が活かせる環 境を慎重に選ぶことである。

職業上の危機

米国トップクラスの大学で大勢の卒業生が誕生する瞬間、彼らは野 望は秘めているものの依然として若々しく、理想と実り深い人生を歩み たいという希望を持った若者たちだ。しかしその後、ミスリードするよ うな格付け会社で働いたり、購入を勧めた投資家を破滅に追いやりかね ない種類の証券を設計したり、より広範な社会に犠牲を強いて複数の市 場で不正操作をしたりして、彼らは「老いた」人間になる。

職業上の危険(オキュペーショナル・ハザード)は全ての職種に存 在する。しかしウォール街の場合は、ハーバード大で卒業を控える学生 の半数が依然としてそこで働くことを希望するという理由だけでなく、 特に興味深い。分かりやすい例を挙げると、自らの振る舞い方を考える 際、極めて短期に重点を置き過ぎ長期には配慮が十分でなくなるという 誘惑だ。あるいは、大きく儲けたいと思うと、金融界での成功を人生の 他の全ての側面における失敗の口実にするという衝動だ。しかし、ウォ ール街の職業上の危険の一部はこれほど明確ではない。

他人事ではない

現時点では特に意味があると思う例を少し挙げてみよう。

-金融業界で働く人々は、少なくとも最初は、本来の自分より多く を知っていると振る舞う必要があるという圧力を感じるだろう。

-大手金融機関で働く人は誰もが自分自身に対して以上に何かに深 い愛情を抱くことは極めて困難だと知るだろう。

-より一般的には、大手金融機関に働く人は皆、従来の取り決めに 異議や疑問を呈さないよう求める大きな圧力を感じるだろう。

ウォール街の新人は、こんな話は自分とは関係がないと感じるかも しれない。それは間違いだろう。社会人生活をスタートする際には、世 界を変えてやろうと考えるかもしれないが、世界があなたを変える可能 性の方がはるかに高い。

よく自分自身を見つめるべきだ。他の誰もそうしてはくれないのだ から。(マイケル・ルイス)

(マイケル・ルイス氏はブルームバーグ・ビューのコラムニストで作家 です。著書にベストセラーの「フラッシュ・ボーイズ」などがありま す。このコラムの内容は同氏自身の見解です)

原題:Occupational Hazards of Working on Wall Street: Michael Lewis(抜粋)

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