【FRBウオッチ】物価百年史が語る超緩和「出口なし」(上)

金融市場では米連邦公開市場委員会 (FOMC)による初回利上げの時期をめぐる予測が焦点になっている が、ここで忘れてはならないのは「2%のインフレ目標」の達成度合い であろう。

FOMCで副議長を務めるダドリー・ニューヨーク連銀総裁は22日 に開かれたブルームバーグ・サミットで、「インフレが2%未満にとど まれば、金利に対する辛抱強さを正当化することになる」と述べ、物価 上昇率が2%を下回っている限り、事実上のゼロ金利政策を継続する考 えを明らかにしている。市場関係者は初回利上げ予測に傾斜している が、FOMCが掲げる物価目標を下回る状況が続けば、異次元緩和から の「出口」は一段と遠のくことになる。

今回のシリーズは(上)でFOMCの二つの責務のうち物価安定か ら「出口」作戦の問題点を探り、次回(下)でもうひとつの責務である 最大限の雇用確保から実態に迫る。タイトルの「出口なし」は加藤出氏 の近著、「日銀、『出口』なし!」を参考にさせていただいた。日米欧 の先進諸国は程度の差こそあれ、どこも成長の限界に直面しており、 FOMCも超金融緩和策に閉じ込められるリスクに直面している。

9月17日のFOMC定例会合後に発表された声明では、「委員会 は、特にインフレが引き続き中長期的な目標である2%を下回ると予測 される場合、資産購入プログラムが終了した後も相当な期間、FF金利 誘導目標を現在のレンジで据え置くことが適切であろうと想定してい る」と明記した。市場関係者は「相当な期間」が削除されるかどうかに 注目するあまり、その前段にある2%のインフレ目標を下回ると予想さ れる限り、事実上のゼロ金利政策が継続されるという部分を見過ごして いるようだ。

物価目標、達成間近は幻想か

しかも、最新の声明は最重要項目であるインフレについて、「委員 会の中長期的な目標を下回る状況が続いている」と指摘。7月30日の前 回声明に掲げていた「委員会の中長期的な目標にやや近づいた」から下 方修正したのである。利上げ予測に前のめりの市場はこの変化に気付か ないか、あるいは気付いても軽くみているのではなかろうか。

この下方修正からは、FOMC参加者がインフレ目標の達成に強い 意思で臨んでいるものの、今一歩のところで再び低下に転じてきたこと に焦っている様子がうかがわれる。状況を分かりやすく記述すれば、 「インフレ率はいったん目標に近づいたものの、再び低下に転じてき た」となる。

FOMCがインフレ目標の基準として採用している個人消費支出 (PCE)の価格指数は、7月に前年同月比1.6%の上昇と目標を0.4ポ イントも下回っている。しかも同指数は今年5月の1.7%上昇で当面の ピークを打った可能性がある。

インフレ、長期低下トレンド

後段で詳述するが、米国のインフレ率は1980年代前半から緩やかな 低下トレンドを形成してきているが、その長期低下トレンドの中での小 幅な上昇局面が終わった兆候が表れてきた。

PCE価格指数に先行して発表される消費者物価指数(CPI)は 8月に1.7%上昇と、7月の2.0%から0.3ポイント低下している。同指 数は各項目の構成比率が固定されているため、消費動向に応じて構成比 率が毎月修正されるPCE価格指数に比べ変動が大きくなる傾向がある が、両指数とも方向性は一致する。

このようにCPIも5月の2.1%で、小幅上昇局面のピークを付け た可能性がある。8月のCPIは5月に比べて0.4ポイントも低下して いる。

CPI百年史が語る真実

米国経済は超長期トレンドの転換点に接近しており、過去100年に 及ぶCPIデータから現在を映し出すと、さまざまな現象が一つの線上 に収れんされてくる。

1913年から1950年までは物価は急激な上下動を繰り返しながらも強 い上昇力を発揮。このピーク圏で米帝国が覇権国となりドル基軸体制が 確立されたわけだ。それから1980年までインフレ加速トレンドが続 き、80年-82年のスタグフレーションを克服した後、インフレ率低下ト レンドに転換した。

 バーナンキ前米連邦準備制度理事会(FRB)議長が主導したイン フレ目標を掲げた異次元緩和は、1930年代の大恐慌研究に基づくもので ある。当時の米国経済は大恐慌に見舞われながらも、現在のような異次 元金融緩和も実施せずに、克服する若さに満ち溢れていた。しかし、バ ーナンキ前議長率いるFOMCがインフレ目標を設定した2012年は、戦 後ベビーブーマー世代のリタイアが増え米経済も老齢化に差し掛かって きた時期と一致する。

2009年6月を谷とする現在の景気拡大局面では、PCE価格指数で みたインフレのピークは2011年9月の2.9%だった。インフレ目標が導 入された12年1月は2.5%。その後も小幅の上下動を繰り返しながら、 低下トレンドをたどり、インフレ率が目標の2%に一致したのは12年4 月のわずか一カ月だけだった。翌5月には一気に1.6%に低下。その後 2%を継続して下回ってきた。

インフレ目標、実態経済とかい離

バーナンキ前議長は大学教授時代に没頭した大恐慌の研究から、金 融政策の要諦としてバブル崩壊後は金融機関の破綻を防ぐとともに、金 融市場に最大限の流動性を注入すべしとの学説を打ち立てた。同氏が最 も警戒したのはバブル崩壊に伴うデフレである。デフレ圧力阻止への決 意を示すために2%のインフレ目標を掲げ、この水準に達する目途が着 くまでは異例の金融緩和を継続するとFOMC声明に明記してきたわけ だ。

前議長は80年以上も前の状況を基にシナリオを描いてきたために、 金融政策が現状に合わず、齟齬(そご)を来すようになったとみえる。 米国経済はインフレが長期低下トレンドに入ったにもかかわらず、なお 若い経済のつもりでインフレ目標を2%と決め打ちしたため、この水準 に達することが困難になっているわけだ。

このようなインフレ低下トレンドの下で、FOMC声明に従って、 「特にインフレが引き続き中長期的な目標である2%を下回ると予測さ れる場合、資産購入プログラムが終了した後も相当な期間」事実上のゼ ロ金利を継続すると、その結果は火を見るよりも明らかだろう。

これは「相当の期間」を削除すれば済む問題ではない。2%のイン フレ目標自体が経済実態にそぐわない恐れがある。

金融当局の過信、資産インフレ

このように時代錯誤の目標を掲げる異次元緩和は、実体経済に必要 以上の資金を注ぎ込み、行き場を失ったお金が資産市場に流れバブルを 醸成することになる。ダドリー総裁は「資産バブルをリアルタイムで特 定できるよう努力する必要があるだろう」と述べているが、この発言は まさにバブル膨張を立証しているともいえよう。

なぜなら、バブルは人々の過信が背景にあるからだ。そして同総裁 の発言はバブルの元凶である異次元緩和を追求するFOMC主流派の強 い自信を見事に裏付けている。

次回は低インフレ下で実行に移された米金融当局の異次元緩和が、 資産バブルにつながってきたメカニズムに迫る。「リアルタイムのバブ ル特定」は困難だが、その方向性はある程度把握できるかもしれない。

(【FRBウオッチ】は記者個人の見解です)

ワシントン 山広 恒夫 +1-202-624-1968 tyamahiro@bloomberg.net 記事についてのエディターへの問い合わせ先: ニューヨーク 西前 明子 +1-212-617-2601anishimae3@bloomberg.net

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