長引く原発の停止と円安のダブルパンチ-景気の足かせに

安倍晋三首相ほど停止している原子 力発電所の再稼働を望んでいる人はいないだろう。約1年前に最後まで 稼働していた原発が停止して以降、火力発電用燃料、とりわけ液化天然 ガス(LNG)の輸入が貿易収支の赤字拡大に拍車をかけている。それ が4-6月期に実質国内総生産(GDP)で前期比年率マイナス7.1% という、2009年以来で最悪の水準への落ち込みを記録した景気の足かせ となっている。ブルームバーグ・ビジネスウィーク誌9月22日号が報じ ている。

安倍首相が原発の再稼働に前向きな姿勢を見せる一方で、福島第一 原発事故による放射能汚染の記憶は色あせておらず反対の声も根強い。 規制当局の監視が十分でなかったことが事故につながったとの認識が広 がり、地方自治体の一部からは原発再開に懸念を示す声もある。現在、 国内に48基ある原子炉がすべて運転を停止している状態だ。

事故後に生まれた原子力規制委員会は、ゆっくりとしたペースで再 稼働に向けて動き始めている。これまで規制委により安全対策が新規制 基準に適合していると判断されたのは九州電力川内原発の2基のみ。 JPモルガン証券の西山雄二アナリストは、再開できるのは48基の半分 程度とみていて、それも18年までかかるかもしれないと予想している。

多額の費用

運転開始から40年を経た原発は原則として廃止することが決まって おり、今後5年で12基の原子炉が40年の節目を迎える。さらに、福島第 一原発から約10キロメートルしか離れていない福島第二原発の4基の原 子炉の再開も現実的ではない。既存の原発を新たな規制基準に適合させ るためには、多額の費用が必要になる。

震災以前、原発は日本の電力需要の約3分の1を賄っていた。事故 後、失われた原子力発電の穴を再生可能エネルギーでは埋めることがで きず、電力各社はLNGなど火力発電用の燃料に頼らざるを得なくなっ ている。ニッセイ基礎研究所の斉藤太郎経済調査室長のリポートによる と、13年までの3年間で貿易収支は18兆1000億円悪化。このうちの55% にあたる10兆円が原油やLNG、石炭といった鉱物性燃料の輸入による もの。その結果12年6月以降貿易赤字の状態が続いている。

菅義偉官房長官は原発の再稼働について「燃料輸入による膨大なコ スト高がいま、わが国の国民生活や経済活動に大きな支障をきたしてい る。そういうことからみれば稼働させていくことは大きな意味がある」 との認識を会見で示している。

円安が影響

安倍首相の政策が事態のさらなる悪化を招いている可能性もある。 「大胆な金融政策」、「機動的な財政政策」、「成長戦略」と3本の矢 で構成されるアベノミクスの目標のひとつが円安による輸出競争力の強 化だ。12年11月末から円はドルに対して23%下落。ニッセイ基礎研の斉 藤氏の試算によると、LNGの輸入価格の上昇を招いた円安や商品市況 の上昇がなければ、貿易赤字額に占める鉱物性燃料輸入の割合はわず か7.7%だった。

貿易収支の赤字は、対外直接投資などの所得収支を合わせた経常収 支の赤字につながる可能性もある。最近までは国内企業による海外での 投資収益が経常黒字の維持に貢献し、日本国債の信用裏付けの一因とも なっている。

コストの高い燃料輸入の結果、6月の経常収支は3991億円の赤字に 転落。SMBC日興証券の森田長太郎チーフ金利ストラテジストは、経 常赤字が常態化すれば円安につながり、その結果インフレ率が上がる可 能性があると指摘。国内のインフレ率の大幅な上昇は金利上昇を後押し する可能性もあるとの見方を示した。GDP比244%に達した政府の債 務残高は今後さらに膨らむと予測されているなかで、金利負担の上昇は 財政に大打撃を与えることになる。

海外への移転

生産拠点の海外移転が進み、輸出産業を中心に据えた産業構造はす でに過去のものになりつつある。財務省の統計によると、円安になって いるものの12年の9月以降、輸出に大きな変化はない。コンサルティン グ会社クラビス・エナジー・パートナーズの玉水順蔵代表は、長く続い た円高により、すでに多くの企業が海外移転を進めたと指摘する。

さらに、日本はLNGの輸入でも他国と争う立場にある。ブルーム バーグ・インテリジェンスのアナリスト、ジョセフ・ジャコベリ氏は 「中国がガス需要の予測を繰り返し上方修正している」とし、最大の LNG輸入国である日本の価格交渉の努力を阻害することにつながると 話した。

原発が再開できなかった場合、今後のエネルギー市場改革の進展だ けが日本経済のよりどころになる。現在は発電から送電、小売りまでを 一貫して電力会社が握っているが、16年に小売市場が完全に自由化され ると、新規参入の事業者が自由な価格で家庭向けに電力を販売できるよ うになる。こういった改革が電気料金の引き下げや再生可能エネルギー の利用拡大につながる。米国の消費者が9月に払った電気料金は4年前 の10年9月と比べてわずか8.1%増だったのに対し、日本の場合は28% 増だったことを考えると、消費者にとって喜ばしい状況になる。

原題:Japan’s Loss of Nuclear Power, Weak Yen Carve Hole in Trade(抜粋)

--取材協力:Isabel Reynolds、高橋舞子.

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