インド最強の女性バンカーは首相に物申す-資産42兆円の潜在力

インドでは融資が政治問題化するこ とがあり得る。2008年にチダムバラム財務相(当時)が農業従事者 約4000万人向けの融資7100億ルピー(約1兆2500億円)の返済を最終的 に免除するスキームを導入したケースが代表的な例だ。国民会議派所属 のチダムバラム氏は多額の負債に苦しむ小規模農家を救済するためだと 説明したが、政府が09年の国政選挙を前に農村部貧困層の支持を取り付 けようとしたとの批判も出た。

インド当局は1990年以降、農業融資でこうした債務免除のスキーム を複数回実施してきたが、インドの銀行最大手インドステイト銀行 (SBI)のアルンダティ・バタチャルヤ会長はこれをやめさせたい考 えだ。ブルームバーグ・マーケッツ誌10月号が国際金融に最も影響力の ある50人に関する特集で報じた。

債務免除は与信のカルチャーを堕落させるとバタチャルヤ氏は指摘 する。政治家がローン債務を帳消しにする可能性もあると借り手が期待 すれば、返済はストップするからだ。

「規律が必要だ」と主張するバタチャルヤ氏は、ムンバイにある同 行本店18階のオフィスで行われたインタビューで、「私は債務免除につ いて非常にはっきりした考えを持っており、インド準備銀行(中央銀 行)や政府に異議を伝えている」と語った。

バタチャルヤ氏はこうした立場についてインド中銀のラジャン総裁 から支持を得ているが、5月の総選挙で30年ぶりの大勝利を収めたイン ド人民党(BJP)のモディ首相は態度を明確にしていない。モディ首 相の陣営は今年の総選挙で農家向け融資最大58億ドル(約6200億円)相 当の免除を公約していた。

マンモス銀行

バタチャルヤ氏(58)は、モディ首相による経済プランの遂行を支 援したいと述べ、「経済再生を後押しするために銀行ができることは多 い」と話す。モディ首相は海外からの投資を奨励するとともに税制を簡 素化して成長を促進させると公約している。インドの昨年度(2013年4 月-14年3月)の国内総生産(GDP)は前年比4.7%増と、過去10年 余りの最低に近い伸びにとどまった。

SMCグローバル・セキュリティーズの銀行アナリスト、ビシャ ル・ナルノリア氏は「困難に直面するインド経済でバタチャルヤ氏と SBIが果たす役割は大きい。インドの銀行システムの約4分の1を占 めるマンモス銀行の経営者には果たすべき非常に大きな仕事がある」と 指摘する。

インド亜大陸に1万5946支店を展開するSBIは、これまで金融シ ステムを利用したことのない人々にもサービスを提供できる潜在的な能 力を備えている。これはモディ首相が掲げる目標の1つでもある。首相 は8月15日の独立記念日の演説で、銀行サービスを利用するよりも携帯 電話を所有するインド人が多いことを嘆き、貧困世帯による銀行口座の 利用拡大を望む考えを表明した。

果たすべき役割

バタチャルヤ氏は、預金口座に資金が増えれば貸し出しの財源も増 えると主張し、銀行システムのカバー範囲拡大で期待される経済的恩恵 を強調する。SBIはすでにインドの融資全体の23%を占め、同行の資 産額は2位以下4行の合計を上回る4000億ドル(約42兆8800億円)に達 しており、雇用創出につながるインフラなどのプロジェクト資金調達に 貢献できるとバタチャルヤ氏は説明している。

同氏の最も差し迫った課題は、インド政府が59%出資し、創業200 年余りの老舗銀行でもあるSBIを全面的に刷新することだ。 ICICI銀行やシティグループといったライバル行と肩を並べるに は、顧客サービスや技術の向上が求められる。同氏によると、不良債権 比率を低下させる必要もある。

1977年に管理職候補生としてSBI入りしたバタチャルヤ氏にとっ て、在職中の最優先課題は、同行を「機動性に富むより効率的な銀行」 につくり変えることだという。

より大きな課題

SBIが機動性に富むとか、効率的だといわれることはめったいな い。プラティプ・チョードーリー前会長は、21万8000人が労組に加入す る組織の生産性と顧客サービスを向上させるため、全ての支店にエアコ ンを整備するという控えめな目標を掲げた。一部店舗は電力供給も不安 定なへき地にあるため、この目標ですら達成は決して容易でなかった が、空調整備は昨年完了した。

バタチャルヤ氏はより大きな課題に取り組んでいる。13年10月にイ ンド財務省から会長に指名された際、同行の不良債権は増加しつつあっ た。同氏は法人融資の基準を厳しくする一方、消費者向けの住宅・自動 車ローンなどデフォルト率の低い分野を強化した。この取り組みは奏功 しつつあるようだ。今年4-6月期末時点の不良資産は全体の4.9% と、13年末の5.73%から低下した。

SBIの株価はバタチャルヤ会長就任後に大幅に上昇し、13年10月 から今月10日までのリターンはプラス45%と、指標のセンセックス指数 (32%)を上回っている。

SBI債の最大の保有者であるパシフィック・インベストメント・ マネジメント(PIMCO)で新興国株担当責任者を務めるマーシャ・ ゴードン氏(ロンドン在勤)は「バタチャルヤ氏のこれまでの努力に感 心している」とした上で、SBIが人員を増やさずに融資を拡大してい ることに言及し、「収益性の高い成長に重点を置き、効率を実現してい る」と評価した。

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