火力発電所を海上に-浮体式設備で津波や近隣住民の懸念を回避

国内外のメーカー間で、浮体式の設 備を建設する技術を応用した火力発電所を共同で開発する動きが始まっ ている。沖合に設置することで津波の影響を受けにくくできるほか、発 電所の用地買収という課題も回避できることから注目が集まっている。

検討が進められているのは、海上の油ガス田の生産用設備として利 用されている浮体式の海洋構造物や液化天然ガス(LNG)用のタンカ ーで活用されている技術を、火力発電所の海上設置に応用する方法。造 船重機大手のIHIは、ノルウェーのセバン・マリンや独シーメンスと 共同で洋上火力発電設備の開発に取り組むことを検討している。

陸上での用地確保が不要になるため、実用化されれば、こういった 施設の建設に反対する周辺住民との間の摩擦を避けることができる。さ らに環境影響評価だけで3-4年かかるなど、計画策定から運転開始ま で10年以上を要する発電所の工期短縮化につながる。従来にはない形の 浮体式火力発電所が誕生すれば、新たな市場を生みだす可能性もある。

東日本大震災では、東京電力の福島第一原子力発電所だけでなく、 東北地方の太平洋沿岸の火力発電所も津波でダメージを受け、電力需給 をひっ迫させる一因となった。津波に対するリスクの軽減は、電力の安 定供給維持のための重要な課題となっている。

IHIの海洋・鉄構セクター長の安部昭則氏はブルームバーグ・ニ ュースとのインタビューで、「われわれは日本で海洋を引っ張っていこ うという意思がある」と述べ、「洋上で発電をやるなど浮体設備のアイ デアはたくさん出ている。われわれの技術でベストなデザインができる のなら考えたい」と、セバン・マリンが計画する事業への参画に前向き な姿勢を示した。

原子炉1基相当の出力

セバンの資料によると、同社は直径106メートルの円筒上に大型ガ スタービンなどの機器を据え付けた浮体式火力発電設備を開発中で、出 力は70万キロワット程度と原子炉1基に匹敵する。同社は建造費を1基 あたり1500億円程度と試算している。シーメンスが大型タービンなど発 電機器を納入し、セバンは基本設計作業を担当する。IHIなど日本企 業からLNGタンクや船体部分の生産で協力を得たい考えだ。

セバンのフレデリック・メジャー氏は電子メールによる取材に対 し、海洋構造物分野におけるこれまでの実績から日本企業との協力を目 指しており、とりわけLNGタンクの建設ではIHIがノウハウを持っ ていることから、同社に強い関心を持っていると説明した。

メジャー氏は、浮体式のメリットは5-50キロメートル沖合に停泊 させることで地震や津波の影響を受けにくくなる点だと指摘。「われわ れがこの案を提示した背景には、福島原発事故後の日本の電力市場の状 況がある」と述べた。ガス供給のインフラが整備されている地域での発 電事業や、古い石油火力発電所からガス火力発電所への設備更新時など にこの技術を活用することができるという。

石油生産設備やLNGプラント

海洋構造物については、これまで海底ガス・油田開発向けに浮体式 石油生産・貯蔵・積み出し設備(FPSO)がすでに実用化されている ほか、浮体式LNG液化設備(FLNG)も豪州やマレーシアで操業開 始に向けた準備が進められている。東京大学の鈴木英之教授(海洋技術 環境学専攻)は、浮体式火力発電所は既存の技術の延長線上にあること から実用化は難しくないとみている。

鈴木氏によると、天然ガスを燃料にする船はすでに利用されてお り、「出力を船の推進に使うのではなく発電に使うだけなので、基本的 に安全性には問題ない」という。その上で、陸上への送電線の耐久性 と、大型の発電所を乗せるために浮体が大型化した場合の揺れへの対策 が今後の課題になると指摘した。

国土交通省の関係者もブルームバーグの取材に対し、浮体式構造物 の開発は日本企業が持つ造船技術などいろいろなノウハウが生かせる分 野だとし、浮体式火力発電所を実現させたいとの見解を示した。この共 同事業には関心を持っており、経済産業省の協力を得ながら、国内外で の売り込みを支援したい考えだという。

韓国企業も進出

浮体式の火力発電所をめぐっては韓国勢も開発に乗り出しており、 新市場の開拓に向けて国際的な競争も高まりそうだ。現代重工業や韓国 中部発電、ポラリスシッピングは、昨年12月にシーメンスと移動式発電 船の開発に着手することで合意。2017年に稼働予定で将来的に東南アジ アやブラジルなどに売り込む計画だ。

IHIは10年に愛知工場を海洋分野向け中心の生産拠点に改修し、 FPSOの船体部分やLNG船、FLNGプラント向けのタンクを中心 に手掛けている。IHIの安部氏によると、海洋開発案件向け構造物の 需要が世界的に伸び始めており、IHIの受注規模は500億円程度に拡 大。同社は中期的に現在の水準を維持することを目指している。

愛知工場では、受注増に対応すため今後1年かけて300人程度新た に従業員を採用する方針で、過去最盛期と同じ1000人体制で生産性の向 上を計画している。増員のうち半分を政府の外国人技能実習制度を活用 してベトナム人を雇用する予定で、国内の人材不足にも対応する。工場 への機器導入を拡大し、能力を3割から5割程度増強することも計画し ている。

国内造船所との提携も視野

安部氏はさらに次の目標として、個人的な考えとした上で「やはり ひとつのセクターとして海洋事業をやるときに、売り上げで1000億円は 欲しい」と述べた。売り上げを拡大するため、船体ブロックの建造を委 託できるような国内造船所との提携も模索する。

IHIや三菱重工業など日本の造船会社は1980年代、世界に先駆け て海洋分野へ進出したが、円高などにより損失が発生、撤退を余儀なく された苦い経験がある。近年では韓国勢が先行しており、IHIは巻き 返しを狙っている。

国内造船業界には過去の経験から海洋への本格進出に慎重なムード もある。安部氏は、「われわれもトラウマがあったが、不退転の決意で 突っ込んできている。そこにようやく光が見えてきた」と述べた。海洋 分野へ進出したいとの思いを持つ国内の造船会社に対しては「いろいろ な協力関係を築きたい」と他社との提携に意欲的な考えを示した。

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