自問するイエレン議長:突然の賃金急上昇の可能性にも言及

米連邦準備制度理事会(FRB)の イエレン議長はこれまで、賃金の伸び悩みは米経済が完全雇用から程遠 いことを意味するとの持論を展開してきた。しかし今回、かつて自身が 総裁を務めたサンフランシスコ連銀の新たな調査論文を基に、このよう な論理の運びに自ら疑問を投げ掛けてみせた。

イエレン議長は先週、ワイオミング州ジャクソンホールで開かれた カンザスシティー連銀主催の年次シンポジウムでの講演で、6.2%の失 業率で示されているよりも米労働市場の実態が弱いことを裏付ける証拠 として、賃金の伸びが小幅にとどまっている点を挙げ、あらためて低金 利政策を維持する論拠とした。

だがその上で、同議長はこうした論理展開に用心しなければならな い理由にも言及した。そのうちの一つはサンフランシスコ連銀のエコノ ミストらが「ペントアップ(抑圧された)賃金デフレ」と呼ぶ現象だ。

それによると、リセッション(景気後退)とその後の時期に、従業 員の士気を保ちたいと望む雇用者が賃下げを控えることで、景気の深刻 な落ち込みの後も、賃金は通常よりも高めに推移する。その結果、労働 市場が改善しても、雇用者は労働者を引き付けるための賃上げを迫られ ない可能性があると、調査論文の著者の1人で同連銀上級副総裁のメア リー・デーリー氏は説明する。

同僚である上級調査アドバイザー、バート・ホビジン氏と共に論文 をまとめたデーリー氏は「リセッション時に賃金デフレは見られず、失 業率が低下しても賃金インフレの緩やかな加速も経験することはない」 と解説。その代わりに、賃金の伸びは当面小幅にとどまるが、経済がい ったん完全雇用状態になると突如、加速することになるという。

インフレ高進リスク

FRBが金融政策の引き締めに転じるのが遅れ、不注意でインフレ 高進を招く事態になりかねないと主張する一部のエコノミストや連邦準 備制度の当局者にとって、デーリー氏の議論はこうした批判の材料を提 供することになるかもしれない。

これに対するイエレン議長の答えは、自身は同僚の金融当局者と共 に広範にわたる指標を観察しているというものだ。

JPモルガン・チェースの米国担当チーフエコノミスト、マイケ ル・フェロリ氏は、労働市場のスラック(たるみ)の指標としての賃金 上昇率の有効性について、同議長の懐疑論に言及。そうした態度は、連 邦準備制度が完全雇用の実現という責務の達成にどの程度近づいている かを測定するには、当局者は幅広い情報を調べなければならないとの同 議長のメッセージを補強するものだと語った。

イエレン議長は22日の講演で、「仮にペントアップ賃金デフレがそ の伸びを抑制しているとすれば、現行の極めて緩やかな賃金の伸びは残 存するスラックの程度について、誤解を招くようなシグナルを発する恐 れがある」と述べるともに、「ペントアップ賃金デフレがいったん消化 されてしまえば、より急速なペースで賃金が著しく上昇し始める可能性 がある」と言明した。

原題:Yellen Labor-Slack View Muddied by Pent-Up Wage Deflation Thesis(抜粋)

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