【コラム】デフレ恐れるなかれ、スイス式克服術-バーシドスキ

ユーロ圏の4-6月(第2四半期) の惨憺(さんたん)たる経済状況を受け、欧州中央銀行(ECB)にイ ンフレ喚起の刺激策を求める声が再び強まっている。だが欧州の問題は 単なる物価上昇の欠如というより、幅広い経済運営ミスに起因する可能 性がある。スイスを例に説明しよう。

スイスの消費者物価上昇率は4年余りにわたり、年率で1%を優に 下回ってきた。2012年と13年にはデフレさえ経験した。それでも経済の 成長は着実で、今年は2%の成長率が見込まれている。失業率は3.2% という低さだ。

スイス経済がうまくいっているのは、生産性の向上と大きく関係し ている。1時間当たりの生産が増えれば、インフレ加速を伴わずに経済 が成長できる。財政均衡と低い債務負担も政府の借り入れコストを抑 え、一助となってきた。スイスはまた、家計貯蓄率が先進国では最も高 く、所得配分の不平等さを測る尺度の一つであるジニ係数も世界有数の 低さだ。

天然資源に恵まれているとは言えないスイスで、最も価値ある資産 は恐らく良識だろう。これはビジネスに有利な税制のほか、人気取りの 政策提案がなされても国民投票で否決される直接民主制に見て取れる。 国際政治で対立を引き起こす問題へのスイスの対処も同様だ。例えばウ クライナをめぐり、スイスはロシアの特定の個人や企業を対象とする制 裁に踏み切ったが、米国や欧州連合(EU)のようなセクター全体への 制裁は行わなかった。これで貿易戦争まがいの状況を回避し、フランス と違ってスイスのチーズはロシアの輸入禁止を免れた。

フラン高は賢明な運営の結果

スイスにとって最大の問題は賢明な経済運営のおかげでスイス・フ ランがマネーの避難先になってしまったことだ。フランに上昇圧力がか かるため、スイスの輸出競争力は低下し輸入コストが高まる。そのため スイス国立銀行(中央銀行)はゼロ金利の継続と、フラン上限を1ユー ロ=1.2フランとする政策の維持を余儀なくされている。

スイスがこれだけうまくデフレを乗り切れるなら、ユーロ圏はこれ を恐れる必要があるのだろうか。米ミネアポリス連銀のエコノミスト が04年にまとめた研究は、デフレが過剰に恐れられていることを示唆し ている。これによれば、デフレと不況の連関性が認められるのは米国を 襲った大恐慌時のみであり、日本の「失われた20年」の間にも見られな かった。

ここで、ロンドンの金融街シティーで働くファンドマネジャー、リ チャード・ウールナフ氏が今年述べた言葉を記しておきたい。

「デフレが悪いものとは思わない。むしろ、良いと思っている。例 えば、誰かに家の修理を頼んで請求される額が前回より安ければ、良い ことだ。インフレ同様、デフレにも良いデフレと悪いデフレがあり、こ れをめぐる通説はたくさんある」。

同氏はこう語ってから、低インフレでも経済が成長する国としてス イスを挙げたのだ。手本に値する国ではないだろうか。

(レオニド・バーシドスキー氏はベルリン在住の作家で、ブルームバー グ・ニュースのコラムニストです。このコラムの内容は同氏自身の見解 です)

原題:Swiss Deflate the Deflation Theory in Europe (抜粋)

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