お目当ては地ビールか気球体験か-「ふるさと納税」拡充で

動機は地ビール、熱気球体験、特産 牛肉や果物、それとも地域への想いか。ふるさと納税に参加する人が増 えている中で、地方再生のローカルアベノミクスの切り札として安倍晋 三政権もてこ入れに動いている。

2008年にスタートしたふるさと納税制度は、故郷や応援したい都道 府県や市町村に寄付金を払えば2000円を超える部分について個人住民税 や所得税が一定の上限まで控除される仕組み。第1次安倍政権の総務相 時代に制度導入を主導した菅義偉官房長官は7月5日、控除額引き上げ の方針を表明、政府は来年度実施へ年末の税制改正で具体策を固める。

人気の理由の一つが寄付者への特産品の贈呈だ。自治体のほぼ半数 が実施し、特産品を集めたサイトもある。山形県天童市では4月からサ クランボなどの提供を始めたところ、昨年度3件、11万5000円だった寄 付が1万件を超え、金額では約1億2000万円(申し込みベース)に急増 した。自治体は歳入増と特産品のPRが期待できる。ほとんどの自治体 では寄付金の使途も選べる。

「おいしい物に巡り合えるうれしさがある。期待以上だった」。都 内在住の税理士、吉田久子さんは昨年末、6つの自治体に寄付し特産品 が相次いで届いた。北海道当麻町のトマトジュースが想定外においしか ったという。仕事の必要性から「体験」のつもりだったが、今夏も別の 自治体に寄付する予定。寄付者、自治体ともに「ウィンウィン」の制度 で、「税金を有意義に使ってほしいという気持ちにも沿える」と話す。

育ての親に

北海道上士幌町では大口寄付者に対する特典として熱気球体験を提 供している。兵庫県淡路市では1万円以上の寄付者が選べる特産品に地 ビールの「あわじぢびーる」セットを用意している。

12年度分の寄付者約10万6000人のうち東京都、神奈川県、大阪府の 大都市の居住者が全体の4割を占める。制度の提唱者である福井県の西 川一誠知事は「何千億円も動くわけではないが、大都市と地方のつなが りができる。生みの親の菅官房長官が今度は育ての親になってもらわな ければならない」と話す。毎年3000人の人口流出が続く同県にとって も、将来帰って来てほしい県民をつなぎとめる重要な施策だ。

西川氏は、個人住民税の税額控除の上限1割を2割に拡大するよう 提案している。ふるさと納税による12年度分の全国の寄付金額は130億 円。導入した08年度の73億円からはほぼ倍増したが、西川氏は500億円 を目標額に掲げる。東日本大震災が発生した11年度は過去最高の650億 円だった。

第二の故郷

東京都出身・在住の川名廣義さん(64)にとって北海道東川町は第 二の故郷。キヤノンに勤めていた川名さんは、「写真の町」として町起 こしを始めた同町で販促イベントを仕掛け、1988年から20年間、毎年訪 れていた。

「東京では近所付き合いもほとんどない。東川町は離れているの に、皆が集まると温かみがあり安心できる」。川名さんは町へ向かう道 すがら、田んぼやそば畑、そしてその向こうに望む山並みを見るたびに 「帰ってきたなあ」と懐かしさを感じている。慣れ親しんだ町が立ち上 げた写真事業を応援する気持ちで寄付を始めた。

東川町の年間予算約50億円強のうち寄付額は2500万円程度。同町企 画財政室の吉原敬晴室長は「財源的にプラスになるように始めたのでは なく、交流人口を増やすことに主眼を置いている」と説明する。町では はふるさと納税を「株主制度」と呼ぶ。株主は配当として町の農産物を 受け取ったり、優待として町内の宿泊施設を無料で利用できたりする。

ふるさと納税制度の研究で東川町を訪れた昭和女子大学の保田隆明 准教授も寄付している。同町には上水道も鉄道、国道もない。それでも 保田氏は「街づくりのグランドデザインとフィロソフィーがある。町の ストーリーにひかれた」という。

増田ショック

保田氏は「地方は人口減少に直面しており、町の衰退、村の衰退を 止めるのは困難な課題」と指摘。「交流人口や訪問客を増やし、広い意 味での町のサポーターを増やすというのが非常に重要。10人なり20人な りのサポーターがつくだけでも 非常にインパクトはあるはずだ」とふ るさと納税の意義を語る。

安倍政権が地方に着目するきっかけの1つは、増田寛也元総務相が 全国約1800の自治体のうちほぼ半数の896自治体が消滅する恐れが高い と警鐘を鳴らした「増田ショック」だ。40年までに20歳から39歳の若年 女性が50%以上減少し、地方の人口が急激に減ると予想、東京への一極 集中に歯止めを掛けるため地域の拠点都市への投資を促す報告書をまと めた。

安倍政権は各省庁に分散している地域活性化策を一括して実行する 司令塔「まち・ひと・しごと創生本部」の設置を決め、先月、準備室を 発足させた。来月に行う予定の内閣改造で担当相も指名する考えだ。

滋賀県知事選

7月に行われた滋賀県知事選では、自民・公明両党が推薦した候補 が民主党系候補に敗北した。集団的自衛権の行使を可能とする憲法解釈 変更の閣議決定を行った後で内閣支持率が下落傾向にある中での選挙 で、安倍政権にとって手痛い結果となった。来春には統一地方選が控え ている。

慶応大学大学院の岸博幸教授はふるさと納税制度について、日本で 寄付文化を定着させる意義を指摘した上で、政策としては主流でなく地 方を強くする「根本的な解決にはならない」と話す。「地方に景気を浸 透させる観点から地方を重視するのは方向として間違っていない」とし ながらも、安倍政権の地域政策は「地方の生産性を高める構造改革では なく、公共事業中心のバラマキ路線になる可能性が高い」とみている。

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