日本株の風物詩、日経業績予想記事に飛び付く-正解率を信頼

日本株市場の時価総額トップ、トヨ タ自動車の株価も大きく動かすのが企業業績の予想記事だ。四半期ごと の決算発表期に訪れる市場の風物詩は、予想数値に対する投資家の厚い 信頼感から成り立っている。特定メディアの報道と株価の密な関係に見 覚えのない海外投資家の一部からは、批判の声も上がる。

ブルームバーグ・ニュースが直近で日経平均株価採用の225社につ いて調べたところ、国内経済紙の日本経済新聞が営業利益を中心に業績 観測記事を報じたのが45社。このうち、82%に当たる37社で示された数 値・レンジが正しいか、あるいは会社側公表の実績値に対する乖離(か いり)が10%以内に収まっている。

さらに日経新聞による予想数値は、報道日時点で会社側が示してい た計画値に対し、84%の企業でより実績に近いか、もしくは同じだっ た。一方、証券会社のアナリストによる予想数字が会社側計画より実績 値に近かった比率は61%となっている。

いちよしアセットマネジメントの秋野充成執行役員は、「日本市場 では、業績観測記事は会社側のガイダンスの一部と受け止められてい る」と指摘。報道の建前はメディア側の推測だが、「会社側が話してい る可能性がある」とみる。日経新聞の報じる業績予想記事は、そのほと んどで情報の出所は明らかにしていない。

トヨタの2014年3月期の連結営業利益に関する記事は、1月30日と 5月1日の2度にわたり報じられた。1月時点のアナリスト予想は2.5 兆円、会社計画が2.2兆円、日経新聞は「2.3兆円を超えるのはほぼ確実 とみられる」と伝えた。報道当日の株式市場では、アナリスト予想に届 かないと投資家に受け止められ、トヨタ株は前日比2.3%安と急落、5 カ月ぶりの安値を付けた。

2.3兆円予想に2.29兆円

5月のケースでは、営業利益が前の期に比べ約7割増え、2.3兆円 前後で最高益を6年ぶりに更新するもようと報道。会社側が1週間後に 発表した実績値は2.29兆円だった。1日のトヨタ株は、業績安心感か ら2.2%上昇した。

このほか日経新聞は、1月9日にはキヤノンの13年12月期の営業利 益が当時の会社計画(3600億円)に届かなかったようだと報じ、同日の キヤノン株は2%下落。4月24日は、NTTドコモの14年3月期営業利 益が2%減の8200億円程度になったもようと伝え、翌日発表の実績値 は8192億円で、当時のアナリスト予想より報道数値の方が近かった。報 道当日のドコモ株は1.3%安と、1%安の日経平均より大きく下げた。

ブルームバーグの調べでは、同紙が業績予測記事を報じた日経平均 に採用される45社の株価は、報道を受けた最初の営業日の変動率は平均 で1.6%と、日経平均の0.9%より大きい。

リークの可能性否定、数値外れるケースも

企業の広報担当者らは、市場の一部で指摘される会社側からの情報 リークの可能性について一様に否定している。トヨタの山田詩乃氏はブ ルームバーグの取材に対し、日経新聞報道の予測数値について「われわ れからは出していない」と回答。ドコモの石井元美氏は、「社内の規定 に基づいて情報管理は徹底している」と述べた。キヤノンの三角潤氏 は、「数字を出したということはない。いろいろな記者が普段から取材 を重ねる中、推測を含めて書かれたと理解している」とした。

もっとも、業績予想記事が常に正しい数値とは限らない。4月23日 に報じられた中部電力の14年3月期の最終損益は推定750億円程度の赤 字で、28日発表の実績値は653億円の赤字。ミョウジョウ・アセット・ マネジメントの菊池真・最高経営責任者(CEO)は観測記事が外れる ケースについて、「恐らく会社側からの情報であったのだろうが、情報 が古いなど発信者が正しい数字を把握していなかった」と推察する。

菊池氏は、感覚的には20回のうち1回程度しか外れておらず、「も のすごく正確。セルサイドのアナリストは分析して業績予想を作るが、 分析が専門ではない新聞記者がアナリスト以上に精度の高い予想ができ るとは思えない」とも話した。

相場操縦に当たらず

日本のメディアが企業業績の予想記事を報道することは、ディスク ロージャー・ルールによって制限されず、金融商品取引法上の相場操縦 にも当たらない正当なものだ。意図的、差別的な情報開示を禁じる「レ ギュレーションFD」を2000年に定めた米国でも、ジャーナリストは対 象外となっている。

早稲田大学大学院・法務研究科の黒沼悦郎教授は、日本の金商法に 相場操縦の規定はあるが、「観測記事は規定に触れたことは一度もなか った」と指摘する。東京証券取引所・上場部の林健太郎統括課長は、決 算情報が事前に漏れることを禁ずるルールはないとし、「結果として漏 れてしまったと思われる状況が生じた場合、公平に情報が伝わるように 状況を説明して下さいというルールがある」と説明した。

有価証券の投資判断に重要な影響を与える企業情報について、東証 では1974年から企業に適時開示を要請してきたが、99年にこれを規則 化。東証は、決まったことがあればすぐ開示すべきとの立場をとる。

業績観測などがメディアで報じられると、企業は「当社が発表した ものではない」とのニュースリリースを公表するケースが多い。「答え が否定と似たようなものだが、完全な否定ではない。情報は恐らく正し いという良いシグナルになる」と、インダス・キャピタル・アドバイザ ーズの日本ヘッドを務めるハワード・スミス氏は指摘する。

一方、BGCパートナーズの日本株セールス担当マネジャー、アミ ール・アンバーザデ氏(シンガポール在住)は仮に企業がメディアに情 報をリークしていたとしても、問題ないとの立場。「情報はパブリック になっているため、皆に公平。私にとって役に立つ。観測記事がなけれ ば、情報が減ってしまう」との認識を示した。

解決すべきの声も

これに対し、香港のサンライズ・ブローカーズでアジア株の責任者 を務めるベンジャミン・コレット氏は、特定メディアで事前に業績観測 記事が頻繁に出る状況は「他のマーケットで見ることはない。良いこと ではなく、解決すべき」との考えだ。

投資家がその近辺で売買するという点で決算発表日には意味があ る、とコレット氏。発表日より早い段階で業績動向が突然伝わること で、「損した人たちは1回文句を言うが、だんだんと日本株市場がどう なっているのか分かってくる。これはリスクの一部であると受け入れな ければならない」と言う。

日本経済新聞社の経営企画室広報グループは、業績予想記事に関す るブルームバーグ・ニュースの取材に対し、編集方針に関わる質問には 答えられず、当社は適切な取材に基づいて報道していると文書で回答し た。経済、金融ニュースを配信するブルームバーグは、日経新聞を含む 日本のメディアと競合関係にある。社団法人日本ABC協会による と、13年下期の日経新聞の総販売部数は朝刊が278万部、夕刊が140万 部。全国紙5紙の朝刊で最も多いのは読売新聞の987万部。

--取材協力:Anna Kitanaka.

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