GPIFのリスク資産増にはガバナンス改革が不可欠-塩崎氏

年金積立金管理運用独立行政法人( GPIF)が国内債券に偏った資産構成の見直しを進める中、自民党の 塩崎恭久政調会長代理(元官房長官)はGPIFがリスク資産への投資 を拡大するには法律改正を伴う抜本的なガバナンス(組織統治)改革が 不可欠だと主張する。

自民党の日本経済再生本部・金融調査会合同会議で本部長代行を務 める塩崎氏は5日、ブルームバーグ主催のセミナーで講演し、GPIF の「運用改革とガバナンス改革は車の両輪だ」と述べた。「運用を大転 換するなら、そのリスクを管理してできる限り安全にリターンを上げて いく強固なガバナンスの仕組みを法律に書き込む」のが筋だと指摘。秋 の臨時国会では必要な法改正に取り組まなくてはならないと語った。

GPIFは長期投資が可能な強みを生かして将来の年金受給者に貢 献するため、短期的な相場変動はあっても「10年単位」で高い収益率が 期待できる対象に投資すべきだと、塩崎氏は指摘。緩やかなインフレに 見合った将来の金利上昇を視野に国内債保有を減らす必要はあるが、専 門的な判断が求められる案件に「責任の所在が不明確な中で分散投資を 無節操に行うわけにはいかないのではないか」と説明した。

ブルームバーグ・ニュースが5月に実施した市場調査では、 GPIFが新たな資産構成で国内債の目標値を現在の60%から40%に下 げ、国内株は12%から20%に増やすとの回答が中央値だった。3月末時 点の実勢から国内債を約19.5兆円減らし、日本株は約4.5兆円増やした 水準だ。TOPIXは4月11日に付けた年初来安値から、先月31日の約 半年ぶり高値まで16%上昇。GPIFに先回りした買いが膨らんでい る。

株価目的ではない

塩崎氏は、GPIFの運用は「安全かつ確実」ではなく、「安全か つ効率的」であるべきだと述べる一方、安倍晋三内閣が資産構成見直し を株価支援策に利用しているとの見方を否定。「GPIF改革は株価目 的ではない」とし、具体的な資産構成比率や投資対象はガバナンスを確 立したGPIF自身が決めるべきだと話した。「7人の侍」と称される ほど少ない運用の専門家を増やす必要性にも言及した。

自民党の日本経済再生本部の金融資本市場・企業統治改革グループ で主査を務める柴山昌彦衆院議員は5月のインタビューで、GPIFに 複数の専門家からなる理事会を設置し、株式などへの積極投資を促す改 革案を政府への提言に盛り込む方向で調整していると発言。理事には 「アクティブ運用の経験がある民間人」が入るのが望ましいとも述べ た。

政府は6月24日、日本再興戦略の改訂版を閣議決定した。GPIF の資産構成について、5年に1度の年金財政検証の結果を踏まえ、長期 的な健全性を確保するために適切な見直しをできるだけ速やかに実施す ると明記。ガバナンス体制強化に関しても、運用委員会の体制整備や専 門家の確保などに加え、法改正の必要性も含めた検討を行うとした。

厚労省からの独立

塩崎氏は5日の講演で、GPIFには三谷隆博理事長の独任制では なく、専門知識が豊富な複数の常勤理事による合議制が必要だと主張。 法改正では「透明性や説明責任、独立性、自主性」などを確保すべきだ と述べた。GPIFのガバナンス改革には「厚生労働省からの独立」の 意味合いもあるため、社会保障審議会に任せ切りにせず、「内閣官房が 音頭を取るべきだ」とも話した。

安倍内閣と日本銀行の黒田東彦総裁が日本経済の活性化を目指す 中、GPIFは金利上昇で評価損を被る恐れのある国内債の比率引き下 げと収益向上を求める圧力に直面。公的・準公的資金の運用・リスク管 理を見直す政府の有識者会議は昨年11月、国内債偏重の見直しやリスク 資産の拡大検討、ガバナンス改革などを求める提言をまとめた。

政府は昨年12月24日の閣議決定で、GPIFの職員数や給与水準の 弾力化、運用委員会に複数の常勤委員などを認める方針を示した。田村 憲久厚生労働相は3月25日、GPIFの中期目標を変更し、資金運用を 見直すための専門家確保に必要な経費は政府が独法に課した経費節減の 対象外とした。

残された課題

政府の有識者会議で座長を務めた伊藤隆敏政策研究大学院大学教授 は5日、塩崎氏による講演後の討論会で、GPIFに「複数の専門家に よる理事会を設置するには法改正が必要だ」と指摘。「理事会設置で大 胆な資産構成の見直しに結び付けていくのが、GPIF改革で残された 課題だ」と述べた。

伊藤教授も塩崎氏と同じく、GPIFのガバナンス改革は資産構成 の抜本的な見直しと「車の両輪だ」と主張。独自の投資戦略で市場平均 超えを狙うアクティブ運用や自主運用を大幅に増やすのは「現在の GPIFの体制では無理だ」と指摘した。このため、秋の臨時国会には 改革法案を提出し、議論してもらう必要があると語った。

GPIFと所管官庁の厚労省が法改正を伴わずに進めたガバナンス 改革もある。田村厚労相が先月18日、新たな運用委員に任命した英プラ イベートエクイティ(PE、未公開株)投資会社の首脳、水野弘道氏 だ。政府関係者によると、水野氏は豊富な実務経験を買われ、GPIF で初となるアドバイザーにも就任。組織統治の在り方について助言する ことになった。

11兆円の新たな株式需要

厚生年金と国民年金の積立金126.6兆円を抱えるGPIFの基本ポ ートフォリオは国内債の目標値が60%、国内株は12%、外債11%、外 株12%、短期資産が5%だ。3月末時点では国内債が55.43%、国内株 は16.47%、外債は11.06%、外株は15.59%だった。

4月に就任した米沢康博委員長は先月9日のインタビューで、新た な資産構成は「まだ何も決まっていない」とした上で、国内債が「30 -50%という水準には違和感はない」と発言。見直し結果は「秋までに 公表できる見通しだ」と話した。

5日の討論会には、独立系運用会社スパークス・グループの阿部修 平社長、日本取引所グループ(JPX)傘下の東京証券取引所の小沼泰 之執行役員も参加。スパークスの阿部社長は「今回のGPIF改革の短 期的意味は需給の問題」とし、公的・準公的資金の日本株比率が「市場 で言われている20%で動いた場合、この2-3年で11兆円の新しい株式 需要が生まれる」との試算を示した。

東証の小沼執行役員は、今年から算出したJPX日経インデック ス400を指標とする運用資金がGPIFを含めて約4000億円に達したと 説明。企業のガバナンス改革に関連し、「独立した社外取締役採用の企 業ほど高収益の傾向がある」とも述べた。

公的年金制度は09年度以降、高齢化で膨張する給付額を保険料や税 金などで賄い切れず、GPIFの運用益や積立金の取り崩しに依存して いる。年金財政への拠出金は今年度、約5.5兆円となる見通しだ。

塩崎氏は講演で、GPIFの収益向上は少子高齢化社会で安心した 老後を送るためにも大事だと指摘。ガバナンス改革を実現した後なら、 GPIFによる株式の直接投資や有望なベンチャー企業への投資もあり 得るとの考えを示した。

--取材協力:伊藤小巻.

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