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後継者難の日本企業救え、CITICや米ゴードンが承継ビジネス

静岡市清水区で豆類や海藻などを扱 う乾物屋「蒲原屋」を営む金子武さん(71)は2年前まで、父親の代か ら60年余り営む家業の存続に悩んでいた。3人の娘が「外に嫁いで店か らいなくなった」結果、後継ぎ不在となったからだ。

かつては神奈川や愛知の店にも卸売りしていたこともあり、「麻袋 に代金の100円札を詰め込んでいた」と話すほど売れた時もあったが、 スーパーなどの参入で年商はピーク時の8分の1に激減。しかし、これ までに築いた顧客のことを考えると店を「消したくない」との思いが勝 り、外部に人材を求めた。2年前、静岡県などの仲介で食関連の起業を 望む新谷琴美さん(41)への事業譲渡を決断した。

金子さんはなんとか後継者に巡り合えたが、世界的にも少子高齢化 が進行する日本では、後継ぎ不在で家業の廃業が続出。伝統的な事業や 優秀な技術が途絶えかねず、事業承継の必要性は増すとみて、中国中信 集団(CITIC)や米ゴードン・ブラザーズなど国内外の金融会社が M&A(買収・合併)関連ビジネスに乗り出している。

東京商工リサーチの調べでは昨年の中小企業の休廃業・解散件数は 2万8943件と過去最高を更新。同社取締役の友田信男氏は、将来の事業 展望への不安や「後継者難という理由が大きい」と話す。総務省が発表 した日本の総人口は1億2643万人で、5年連続で減少。別の統計による と、総人口に占める65歳以上の割合は25%に対し、14歳以下は13%。

事業存続を模索する動きも見られ、M&A助言会社レコフによる と、承継に絡む13年のM&Aは233件と10年比で倍増した。CITIC 傘下のシティック・キャピタル・パートナーズ・ジャパンの日本代表、 中野宏信氏は「年200-300件ほど案件を見ているが、承継絡みは約8割 を占める」と話す。

中国とつなぐ

後継ぎ不在に直面した同族会社には、存続に向けて社員や外部の人 材から後継者を選ぶか、身売りという手段がある。金融業界としては、 買い手企業に仲介したり、いったん投資して企業価値を高めた後にシナ ジー効果のある企業へ売却したりするM&Aビジネスが発生する。

中国系プライベートエクイティ(PE)ファンドのシティック・キ ャピタルの中野代表は、後継者難の中小企業のうち、「内需だけではや っていけない」という考えの会社を中国市場につなげようとしている。 CITICグループは金融以外にも不動産、機械などを手掛けるコング ロマリット。グループ企業に販売協力してもらうなど、「リソースを活 用して日本企業が中国市場で抱える問題を解決できる」と強調する。

同社は10年、後継者難の同族企業でタッチパネル向けフィルム加工 の東山フィルム(本社・名古屋市)を引き受け、投資した。中国子会社 の再編や工場の生産性向上など合理化を実施。中国人労働者の削減とい う微妙な問題に直面したが、シティックには中国人と日本人のスタッフ がおり、「両者の話を聴いて融和できる」と同代表は話す。

合理化に加えて、折からのタブレットや携帯端末の需要急増の追い 風もあって、経常利益は引き受け当初の4倍に拡大し、将来の売却に展 望が見えてきたという。同代表は、中国で社会問題化している福祉、環 境、医療などの分野でも日本企業の技術移転につなげたい考え。

ゴードン・ブラザーズ

米系のゴードン・ブラザーズ・ジャパン(GBJ)は低利融資で攻 勢をかける邦銀との競争が激化し、新規分野として、後継者難の中小企 業に投資するPE事業を検討。ホームセンターやアパレルなどを対象に 総額で最大100億円程度を投資する考えだ。

在庫など資産処分で身売りを助ける事業のほか、「やむなく廃業や 清算を行う場合にも、事業の手仕舞いを全面的にサポートできる」と田 中健二社長は話し、あらゆるケースを想定してサービスが可能という。

日本の金融機関でも事業承継M&Aビジネスに積極的に取り組むと ころがある。浜松信用金庫法人営業部の島津一暁氏は、買い手候補仲介 などで後継者難の企業を助け「地域経済が維持されると、信用金庫の業 績も安定する」と指摘。顧客との関係が良好になり「資金需要を発掘で きる」とも述べ、金融機関同士の激しい競争の中で生き残りをかける。

身売りへの不安も

一方、国内独立系PEファンドのインテグラルの代表取締役パート ナー、佐山展生氏は「米国のようにM&Aが当たり前の世界だとオーナ ーが変わっても違和感がないが、日本はM&A市場が成熟していない」 と指摘。創業者や従業員にとって、ファンドの転売先が最大の不安だと し、出口での売却先選定時も社員の意見を最優先に聞くと述べた。

中小企業白書によると、事業承継を形態別(12年時点)にみると買 収の割合は4%にとどまっているが、25年前の2.4%に比べわずかに上 昇。親族継承は42.5%で一番多いものの、少子化を反映して急速に減少 し、内部昇格39%や外部招へい14.6%に追い上げられている。

レコフの澤田英之リサーチ部長は、事業承継に絡むM&Aが伸び悩 んでいる背景として、買い手のニーズが満たされる案件が多くないこと を挙げたが、先行きについては、少子化の進行や内需の伸び悩みに加え て、徐々に「M&Aに対する認知度が高まりつつあり、市場は大きくな る可能性がある」との見方を示した。

待ったなし

政府は今年の「骨太の方針」で、中小企業の承継やM&Aの支援を 行うとしている。中小企業庁企画課調査室の大山健一郎氏は、99年か ら12年にかけて全国の中小企業が2割減少しており、このままでは「地 方経済を支えていけなくなる」と指摘。東京商工リサーチの友田氏は、 中小企業の廃業が進むと「日本の技術がすたれ、商品開発力にも影響が 出てくる」と懸念を示した。

大山氏は成長戦略の観点では、事業承継は産業の新陳代謝を促す狙 いがあると説明。後継ぎのいない企業でも、やる気のある人材が見つか りさえすれば「環境にアジャストして、今までよりも成長力のある企業 に生まれ変わることは可能だ」と話す。

蒲原屋の場合、県事業引継ぎ支援センターの公募を通じ新谷さんが 応募者26人の中から3回の審査を経て後継者に選ばれた。「店の信用や 顧客、仕入れ先を継げるのは有利」と店の伝統に注目するだけでなく、 乾物の料理教室に加え、将来は惣菜や甘味のカフェ併設を目指すなどア イデアも豊富。修業しながら完全に任される日を心待ちにしている。

同白書によると、日本の自営業者の年齢構成は12年時点で、70歳代 が最も多く、大山氏は「経営者としては肉体的に限界に近い」と指摘。 後継の人材をどこに求めるのか、見つからなければ身売りするのかどう か、といった決断は待ったなしだと話している。

--取材協力:持田譲二.

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