年金積立金管理運用独立行政法人( GPIF)は、保有国債を直ちに売却すべきだが、国内株式などの高値 づかみは避ける必要がある-。伊藤隆敏政策研究大学院大学教授は、債 券を売却した後は、リスク資産への運用時期を見極めるまで現金などで 一時保有することも一案だと話す。

公的年金の運用などを見直す政府有識者会議で座長を務めた伊藤教 授は19日のインタビューで、国内債71兆円を抱えるGPIFは「国債を とにかく早く売ることが重要だ」と指摘。日本銀行が巨額の国債を買い 入れている今なら、「日銀と『以心伝心』で、市場で安心して売ること ができる」と説明した。インフレ率が来年後半に2%の物価目標に達し たら、日銀はそうした債券売りに対処しづらくなると言う。

国債の売却と、日本株や外貨建て資産に投資する時期には「ズレが あっても仕方がない」と、伊藤教授はみる。GPIFの資産構成見直し に先回りした投資家の買いでリスク資産が割高化した場合には、慌てて 後追いせず「ひとまず現金や国庫短期証券(TB)で保有し、投資機会 をうかがうのが賢明だ」と言う。

GPIFは金利が上昇した際に評価損を被る恐れのある国内債の比 率引き下げと収益向上の必要性に迫られている。政府の有識者会議は昨 年11月、国内債偏重の見直しやリスク資産の拡大検討などを求める提言 をまとめた。

市場が先回りで株高に

政府が16日公表した新成長戦略の素案には、GPIFの資産構成に ついて、年金財政検証の結果を踏まえ、長期的な健全性を確保するため に適切な見直しをできるだけ速やかに実施するよう求める文言が盛り込 まれた。GPIFによる日本株買い増しの観測が膨らむ中、TOPIX は先週、約5カ月ぶり高値を記録。5月21日の直近安値から10%以上反 発し、MSCI世界株指数の上昇ペースを上回った。

伊藤教授が幹事を務めた金融資本市場の活性化を議論する政府の有 識者会合は12日、GPIFの資産構成見直しやガバナンス(組織統治) 改革の一段の加速を求める提言をまとめた。今回のインタビューでは、 国内債40%、国内株20%、外国債券15%、外国株式20%、現金5%とし 、目標値からの乖離(かいり)許容幅は広めに設定すべきだとあらため て述べた。

厚生年金と国民年金の積立金128.6兆円を抱えるGPIFの資産構 成比率を定めた基本ポートフォリオは、国内債60%、国内株12%、外債 11%、外株12%、短期資産5%。国内債と国内株の乖離許容幅はそれぞ れ上下8%、同6%だ。昨年末時点の実勢では国内債が55.2%と06年度 の設立以降で最低となる一方、国内株は17.2%と07年12月末以来の高水 準を記録した。外債は10.6%、外株は15.2%だった。

オルタナ拡大に反対

年明け以降も国内債を売り、国内株を買う動きは続いている。日銀 の統計では、公的年金による1-3月期の国債・財融債の売り越し額は 1兆8511億円と12年4-6月期以来の規模に達した。東京証券取引所の データでは、年金の動向などが反映される信託銀行部門が今月第2週ま で7週連続で日本株を買い越し、この間の累計で8878億円となった。

ブルームバーグ・ニュースがGPIFの新たな目標値に関して先月 実施した市場予想調査では、中央値ベースで国内債が40%、日本株が20 %、外債が14%、外株が17%だった。その後、資産構成を見直す米沢康 博運用委員長の構想が市場予想とおおむね一致していることが、今月初 めの一部報道で明らかになった。

米沢委員長は3日付の日本経済新聞で、何年何月までにどの資産を 何%にするかの工程表を示すと表明した。しかし、伊藤教授は「市場に 先取りされる」恐れがある工程表は「事前に出さない方が良い」と指摘 。GPIFは「過小評価されている国や産業分野、企業などを巧みに拾 っていく」ことで「年金受給者のため、長期的に運用利回りを上げるの が至上命題だ」と話した。

国債についても、経済・物価情勢が長期的な安定状態に入り、「利 回りが上がり切ったら、再び買い増す選択肢もある」と指摘。例えば、 「いったん35%まで落とし、将来的に長期金利が4%程度で安定したら 45%に戻す」運用もあり得ると語った。

GPIFは昨年末以降、有識者会議の提言に沿う形で、インフレに 対応した物価連動債や海外インフラ投資の検討、日本株運用の委託先見 直しや自己資本利益率(ROE)を重視した新指数の導入などを進めて きている。ただ、伊藤教授はインフラ投資を含めたオルタナティブ(代 替)投資の本格的な拡大には現時点で反対だ。リスク資産への投資拡大 にはガバナンスの抜本的な強化が不可欠だと言う。

新たな基本ポートフォリオの策定は現在の運用委員会でも可能。だ が、実際の運用に欠かせない「どのリスク資産にどう投資していくか、 どんな専門家が実行部隊に必要かなどを判断するのは、政治や厚労省か ら独立した理事会だ」と、伊藤教授は指摘する。

運用委員会に複数の常勤委員を入れるのは過渡期の姿に過ぎないと 言い、適切な役割分担を定めるガバナンス改革が遅れると「ポートフォ リオの実質的な改革が足踏みする恐れがある」と話す。理事会設置には 法律改正が必要で、今秋の国会の冒頭にも法案を提出しないと間に合わ ないと言う。

3共済との一元化

GPIFは3つの共済年金と来年10月に運用を一元化し、利回り目 標やリスク許容度などを共有していく見込みだ。対象となる国家公務員 共済組合連合会(KKR)と地方公務員共済組合連合会、日本私立学校 振興・共済事業団は昨年3月末時点の運用資産が合計約29兆円と、GP IFの4分の1程度だった。

これら共済年金は、国内債比率の目標値がGPIFより高く、KK Rが74%、地共済が64%、私学共済が65%となっている。一元化に向け て、共通のモデルポートフォリオを作成し、資産構成を徐々に変えてい く計画だ。

伊藤教授は、GPIFが自身の基本ポートフォリオ見直しを今秋に 前倒しする見通しとなったことで、4年金のモデルポートフォリオ策定 は有名無実化する可能性が高いと予想する。

GPIFは「運用資産の規模が圧倒的に大きく、組織の目的も運用 専業と明確だ。新ポートフォリオが事実上のモデルポートフォリオにも なるのではないか」と指摘。「3共済はGPIFを見習うしかない。4 社で拡大運用委員会のようなことをやっている暇はない」と語った。

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