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高収益の銀行が狙うナツメグ香る辺境の島-水上ATM設置も

香辛料が黄金よりも価値があっ た1667年のことだ。英国とオランダは当時双方が領有権を主張していた 2つの島を分け合うことで合意した。347年たった今から見ると、これ は史上最も不公平な取引だったかもしれない。

オランダは、ナツメグやクローブ、シナモンの香りが漂うインドネ シアの辺境の地である香辛料諸島(マルク諸島)のラン島を領有するこ とになった。一方、英国はニューヨークのマンハッタン島を手に入れ た。ニューヨークが現在、世界の金融の中心地として繁栄しているのに 対し、ラン島には銀行の支店1店さえもない。ブルームバーグ・マーケ ッツ誌6月号が報じている。

ラン島の教師兼ナツメグ農家でゲストハウスを所有するブルハンさ ん(42)は、インドネシアの首都ジャカルタから2500キロ東に離れたバ ンダ海が見渡せる自宅のベランダで、「ATM(現金自動預払機)1台 さえあればいいのだが」と話す。

ブルハンさんはそれほど長く待たなくてもいいかもしれない。イン ドネシアの大手銀行各行は、拠点を置く大都市から遠く離れた地域に進 出し、顧客獲得競争を繰り広げる構えだ。船舶を使った水上ATMの開 設を計画している銀行さえある。ブルームバーグのデータによると、イ ンドネシア大手行の収益率は世界でもトップクラスにある。

これらの銀行にとっての課題は、平均24.3%の株主資本利益率( ROE)を維持することだ。これは米銀の9.4%など、世界の主要経 済20カ国・地域の銀行を上回る水準だ。

経済成長

7月9日の大統領選挙に向け準備を進めるインドネシアでは、10年 ぶりに新しい大統領が選ばれる。選挙結果がどうであれ、数百万人のイ ンドネシアの新興富裕層は引き続き、ジャカルタやスラバヤのような大 都市でもラン島のような離れ小島でも、民主主義と同様に金融サービス を熱烈に歓迎すると投資家は予想している。

クレディ・スイス・グループによると、消費と資源をけん引力とす る13年間に及ぶ経済の隆盛に伴い、インドネシア人はアジア太平洋地域 の主要国で最も速いペースで富を蓄えた。同行は昨年10月、インドネシ アでは成人1人当たりの平均資産が1万1839ドル(約120万円) と、2000年のほぼ5倍に膨らんだと報告した。

誰が大統領になろうと、金融サービスへ需要は弱まらないことが見 込まれている。資産規模で国内銀行最大手マンディリ銀行のブディ・グ ナディ・サディキン最高経営責任者(CEO)によれば、2億5000万人 の国民のうち銀行口座を持っているのは5000万人にすぎず、「普及率は 非常に低い」という。

海に浮かぶ支店

サディキンCEOの新たな市場開拓への決意は強く、毎年300支店 を開設する計画だと話す。国内で最も収益性が高い銀行であるバンク・ ラヤット・インドネシアは、起業家や小規模企業向けの小口融資に重点 を置く570支店を開設する計画だと、ソフィアン・バシール取締役社長 が明らかにした。

多数の島から成る広大なインドネシアでは、国民への銀行サービス 提供は海上に銀行を置くことを意味する。ラヤットはATMを載せた特 別仕様の船舶を4隻購入し、海に浮かぶ支店を開設する計画だ。

インドネシアの銀行が高いリターンを確保できているのは、借り手 に最大13%の金利を課す一方で、預金者に支払う利息は7%以下にとど まっているからだ。ブルームバーグによると、4大銀行の正味利ざやは 平均7.1%となっている。

ボストンコンサルティンググループ(BCG)によれば、マンディ リ、ラヤット両行はよりリスクの高い小口金融に進出することで、さら に高い年25-30%の金利を課すことができる。モルガン・スタンレー・ インベストメント・マネジメントの新興市場責任者ルチル・シャルマ氏 (ニューヨーク在勤)は、「インドネシアの銀行の収益性は今後3-5 年、世界展開する銀行と比べ引き続き非常に良好に見えるだろう」と指 摘する。

香辛料貿易の復活

香辛料諸島とも呼ばれるマルク諸島では、大きく衰退した香辛料貿 易が復活しつつある。この小さな諸島は17世紀には世界で最も価値のあ る不動産だった。当時ここ以外にはなかったナツメグが黒死病(ペス ト)の治療に効果があると医師が判断したことで、ことさら同諸島の価 値は高まった。

19世紀に英国がアジアやアフリカ、米州の植民地にナツメグの木を 移植したことで、マルク諸島は独占的地位を失った。現在のナツメグ生 産世界一はカリブ海のグレナダ島だ。

海外の起業家や国際援助活動家が今、香辛料諸島のナツメグ貿易を よみがえらそうとしている。米オレゴン州ポートランドに本拠を置く非 政府組織(NGO)のマーシー・コーは、農家がもっと高い価格で販売 できるよう支援している。

ディーンズ・ビーンズ・オーガニック・コーヒーの創業者、ディー ン・サイコン氏は昨年ラン島を訪問し、同社のコーヒー商品のフレーバ ー用にナツメグを購入した。船1隻分のナツメグを受け取るために島に 来年戻ると言う同氏は、「ラン島で銀行が開設されたら、私が最初の客 になるつもりだ」と語った。

原題:Indonesia’s Rich Banks Woo Faraway Islanders With Floating ATMs(抜粋)

--取材協力:Neil Chatterjee、Yudith Ho、Berni Moestafa、Harry Suhartono、Widya Utami、Jasmine Ng、Sanat Vallikappen.

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