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カジノに動く大阪、あいりん地区の社会問題はハーレムに学べ

ホームレスが占拠する公園から小学 校に通じる道路に汚れた作業服の男たちが座り込む。太陽はまだ高い。 小さな飲み屋から響く笑い声。小学校正門近くにも酔った男が腰を下ろ している。ところどころにアンモニアとアルコール、残飯の匂い。

3月にオープンした日本一の超高層ビル「あべのハルカス」から西 北西に約2キロ。日雇い労働者が多く暮らす大阪市西成区の「あいりん 地区」はある。

法案の国会提出で解禁へ期待を集めるカジノリゾート。大阪はカジ ノを特効薬に国際観光都市として飛躍を狙っている。しかし、華やかな その青写真は同時に、昭和時代からなお残る課題に正面から向き合うこ とも求めている。

使用済みの注射器が小学校1年生の自転車カゴに捨てられていた -。昨年12月に松井一郎大阪府知事あてに届いた住民からの陳情書で、 薬物使用が横行する実態が浮き彫りになった。小学生は注射器をおもち ゃだと思い、駐輪していた児童施設のスタッフに渡したという。小学校 や中学校の構内に使用済み注射器が投棄されていたことも記されてい る。

「大阪府簡易宿所生活衛生同業組合50年誌」によると、、1960年代 初頭には約50万人だったあいりん地区の日雇い労働者数は、その後の高 度経済成長とバブル経済で1989年に187万人まで膨らんだ。労働者が寝 泊まりする簡易宿所、通称「ドヤ」の数も1989年にピークの210軒に達 した。20年近くに及ぶデフレで、日雇い労働者数は2009年には32万7000 人に減少、宿所数も約90軒まで減った。

労働者とアウトロー

「あいりんは、かつては労働者とアウトロー達の町だった」。30年 間にわたり西成区で働く高橋豊秋氏(66)は話す。「労働者は高齢化し、 その数も減った。道に立つ覚せい剤の売人も少なくなったが、依然とし てその問題は残る」と、現在は同区の簡易宿所で働く高橋氏。

「大阪のど真ん中にあるあいりん地域がニューヨークのハーレムの ように変われば、この地域の可能性、ポテンシャルが大阪の成長に好影 響を与える」。松井知事はブルームバーグ・ニュースの質問に電子メー ルでこう回答した。

松井知事は「あいりん地域で覚せい剤の撲滅などに取り組み、環境 改善を進める。各国からより多くの観光客を大阪・関西に呼び込むとと もに、大阪のIR(統合型リゾート)構想や、鉄道ネットワークの整備 などの都市開発を進める上でも、最重要課題のひとつ」と決意を示す。

ハーレム

デューク・エリントンやジェームス・ブラウン、マイケル・ジャク ソン、ローリン・ヒル。華々しいエンターテイナーを輩出してきたコッ トン・クラブやアポロ・シアターで知られるニューヨーク市ハーレム は、米国の音楽文化を熟成させてきた一方、人種問題などをめぐって揺 れ動いてきた。

ハーレムを紹介するホームページ「Welcome to Harlem」による と、ジャズやブルースのメッカとしての名声を確固たるものとした1920 年から30年が過ぎ、アフリカ系が人口の多くを占めていたハーレムで は、社会暴動が頻発し犯罪率は上昇、治安が悪化した。マーチン・ルー サー・キング牧師暗殺の後に起きた1968年の暴動は有名だ。

動乱の過去を経て1990年代に入ると「ハーレムルネサンス」といわ れる時代が訪れる。企業家や投資家、そして先進的な住民たちはハーレ ムの再開発に傾注する。犯罪率も低下した。現在では不動産価格は上 昇、人口動態も多様化、新たな「ハーレムラッシュ」が到来している。

5カ年計画

大阪府と府警本部、大阪市は4月、府内の薬物犯の2割が検挙され るあいりん地区を中心とした地域を対象に、アンフェタミンなどの覚せ い剤取引やゴミの不法投棄を取り締まる5カ年計画をまとめた。計画に よると、府警は特別捜査体制を確立し、内偵捜査による証拠収集と被疑 者の早期確保を行う上、密売が日常的に行われている同地域内に防犯カ メラ30台を整備する。

あいりん地区にも変化が見える。2000年ごろになると、労働者向け 宿所を改良し新しい客を招き入れようとする動きが出てきた。ターゲッ トは海外からのバックパッカーだ。西成区で「ホテル東洋」を経営する 浅田裕広氏(37)も行動を起こした一人だ。

2007年に祖母から5階建ての宿泊施設を引き継いだ浅田氏は、安価 な部屋を求めるバックパッカーのニーズに合わせて、施設をゲストハウ スに改良した。

「Single Room A Without A/C 1,600 Yen: Single Room B With A/C 1,800 Yen Special Price」(「特別料金:エアコン無しシング ル1600円/エアコン付きシングル1800円)-。

赤と青、白のチョークで黒板に書かれた英語の文字がフロントデス クの上に並ぶ。小さなロビーのソファ横の小さなトレイに乗ったインセ ンス(香)の香りがロビーを覆う。今ではホテル東洋の9割の客が海外 からの旅人だ。

スペインやフランス、東南アジアからのバックパッカーが泊まりに 来ると浅田氏。「町がもっときれいになれば、より多くの外国人観光客 がやってくるだろう」と話し、アジアからの泊り客からは「あいりん地 区のドラッグの問題を心配する声も聞こえてくる」という。

NY視察

昨年6月上旬、松井知事はニューヨークにいた。タイムズスクエア やハーレム、グランドセントラル駅などを視察、大都市が抱える問題の 解決に向けたニューヨーク市の再開発事例を学んだ。松井知事は電子メ ールで、「かつては治安が悪いと言われていたハーレム、ダウンタウン がたくさんの人でにぎわっているのを実感してきた」とコメントした。

家電産業で韓国のサムスン電子などに競争力で追い抜かれた日本。 パナソニックとシャープのお膝元の大阪は、2011年度までの10年間で府 内総生産が6%落ち込んだ。国内総生産36兆6000億円の経済を背負う大 阪は、経済の地盤沈下が進む。東京の同じ期間の落ち込みは0.4%にと どまり、経済規模も92兆4000億円と大阪の約2.5倍だ。

夢洲の夢

犯罪発生率で都道府県トップの大阪府は、治安を改善し都市再開発 を通じて経済力の強化を効果的に進める方針だ。交通網も、新関西国際 空港から都心部までのアクセスを改善する新線「なにわ筋線」の建設 や、市営地下鉄の民営化などの経済刺激策を打ち出している。

今年4月には、大阪府市IR立地準備会議の第2回目会合が市長公 室で開かれた。出席した松井知事は、2020年の東京五輪までに大阪のカ ジノリゾートを部分的にもオープンさせる意向を表明。隣に座った橋下 徹市長は、京都と奈良を中心とする文化を新しい形のリゾートと融合さ せることで相乗効果が期待できると述べた。

府が最有力候補としてリゾート計画を進めているのは、大阪湾の埋 立地「夢洲」(ゆめしま)だ。ここは、北京に敗北した2008年の夏季五 輪誘致の際に選手村の建設候補地だった。府は、米ラスベガスに本拠を 置くシーザーズ・エンターテインメントやゲンティン・シンガポール、 MGMリゾート・インターナショナルなどのカジノ運営企業と、計画立 案を目的に協議を始めた。松井知事によると、建設コストは5000億円を 超える可能性があるという。

観光庁の宿泊旅行統計調査によれば、13年の外国人延べ宿泊数を都 道府県別にみると、東京が998万人でトップ、大阪は2番手の431万人。 3位は外国人にスキーリゾートへの人気が高まる北海道で305万人。

松井知事はIR立地準備会議の席上、「IRで大阪、関西に人を集 めて経済を拡大させる。東京一極集中ではなく、大阪との二極体制を作 る」と訴えた。

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