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外国人家政婦は働く女性の救世主になるか-特区で先行実施へ

専業主婦の一松紀子さんは地元の薬 局でパートタイムの仕事を見つけることができた。一松さんはケンブリ ッジ大学で修士号を取得したバイリンガルの薬理学者だが、勤めていた 大阪の製薬会社での研究職を結婚後に離職し、都内に転居。12歳と9歳 の2人の娘の子育てに専念している。

安倍晋三首相は経済活性化の一環として家事代行サービスを受けや すくし、一松さんのような働きたい女性の職場復帰を促すため、外国人 家政婦の受け入れ拡大を掲げた。しかし、一松さんは家政婦を雇っても 研究職に戻ることは難しいと思っている。

子供が小さいうちは自分の手で育てたいという一松さんは「家事の 問題だけではない。子供達が大きくなるまでパートタイムで仕事をして いれば、帰りが遅い夫のかわりに受験勉強の面倒をみることもできる」 と語った。いずれフルタイムで仕事をしたいが、長く職場を離れたた め、専門性の強い元の研究職に戻れる見込みが薄いのが現実だ。

政府の産業競争力会議の民間議員を務める増田寛也元総務相は「女 性の労働力を生かし活躍の場を増やすために、東南アジアからの人材に 家事や育児をやってもらう外国人家政婦の議論は進んでおり、かなり多 くの人の共通認識になりつつある」と語る。

同会議の雇用・人材分科会は外国人家政婦の導入について政府が進 めている「国家戦略特区で先行実施し、どの程度の需要があるかを見極 めた上で拡大の検討を行うべきだ」と提言。国家戦略特別区域諮問会議 の民間議員も12日、特区での「女性の活躍推進のための外国人支援人材 の活用」を規制改革事項の1つとして掲げた。

成長戦略の中核

安倍首相は「女性の活躍は成長戦略の中核をなす」とし、女性の労 働参加を促す仕事と育児・家事の両立支援や税・社会保障制度の見直し に着手している。今年1月にスイス・ダボスで行った演説では「多くの 女性が市場の主人公となるためには家事の補助などの分野に外国人のサ ポートが必要だ」と外国人家政婦の受け入れを提唱していた。

独立行政法人労働政策研究・研修機構によると、日本の女性(15 -64歳)の労働力率(11年)は63%と、70%超の英国やドイツをはじめ 米国の68%、フランスの66%を下回る。厚生労働省によると女性の出産 後の継続就業率は36%(10年)にとどまっている。一方で、13年の日本 の女性就業者数は2701万人と過去最多を記録。

野村総研が2011年に実施したアンケート調査では、女性の離職経験 がある人のうち30%強が「仕事と家事や育児との両立が困難」だったこ とを理由に挙げた。一方で、家事支援サービスを受けることで両立しや すいとの答えが8割を占め、同サービスを利用できれば働き続けられた 可能性があると考えている女性は3割近くいた。同調査はインターネッ トを通じて1000人を対象に行われた。

日本では女性が家事のほとんどを任されている。経済協力開発機構 (OECD)が昨年3月に発表した調査結果によると、日本の女性が家 事や育児などの「無償労働」に1日平均299分を費やすのに対し、男性 は62分と韓国に継いで最低レベルとなった。一方で、日本男性の「有償 労働」時間は375分と加盟国中で最長となっている。

法務省によると昨年末段階で家事使用人として入国している外国人 は1169人、うちフィリピン人が921人と大半を占める。現行制度では、 外交官や年収1500万円以上の企業幹部をはじめ、研究者、技術者など 「高度人材」として認められた外国人が月額20万円の賃金支払いを条件 に外国人家政婦を受け入れることができる。

増田元総務相は外国人家政婦の受け入れについて、政府が6月にも まとめる成長戦略の改訂版に明記する考えを示した上で、「家政婦を安 く提供し、女性が社会で活躍するチャンスを広げたい。そのためには相 当なボリュームを受け入れなければならない」と述べた。

在日米国商工会議所は世帯の年収合計が700万円以上であることを 条件に、日本人も外国人家政婦の身元引受人になることを認めるよう求 める提言を行った。多くのフィリピン人家政婦を受け入れているシンガ ポールや香港を参考に、育児や介護、家事を外国人労働者に担ってもら うことで働く女性に大きなメリットをもたらすと指摘する。

業界の草分け

家事代行サービス「ベアーズ」の高橋ゆき専務取締役は1995年から 4年間香港で商社のマーケティングマネジャーとして赴任した際に住み 込みのフィリピン人メイドに助けられた。その経験から同社を99年に立 ち上げた業界の草分け的存在だ。高橋氏は外国人家政婦受け入れの動き に「待ち望んでいた事態だ。国籍を問わず、いろいろな人の手を借りて 暮らしのレベルを維持できればよい」と強調する。

同社では09年にフィリピンに合弁会社を設立し、現地での研修を始 めている。受け入れ可能となれば今すぐにでも30-50人のフィリピン人 家政婦を国内に派遣することは可能という。しかし、国の支援や協力体 制がなければ実現の受け入れは難しいのが現状だ。

高橋氏は「管理コストや人材教育への投資も考えれば、外国人家政 婦の受け入れ拡大に合わせて企業側への助成金や利用者への補助金の検 討も必要だ」と指摘。外国人労働者にも最低賃金が反映されるため、大 幅な賃下げは難しいという。ベアーズのサービス料金は最低でも1時 間2350円。スタッフの多くは主婦で時給1000円を支払っている。特に東 京の最低賃金は869円と高く引き下げ幅は限られている。

重くのしかかる負担

女性が仕事を継続したとしても高額な家事代行サービスの負担は重 くのしかかる。野村総研がサービスを利用していない理由を聞いたとこ ろ、6割近くが「価格が高い」ことを理由に挙げた。サービスの価格帯 は1時間2000-3000円程度。同総研の武田佳奈主任コンサルタントは価 格に加えて「家事は家庭内で対応すべきという日本人の価値観が根強く 残るなか、外部委託への抵抗感がある」と言う。

同総研の調査では、家事代行サービスの利用率はわずか2%。受け 入れ経験のない4割強が「他人に家の中に入られることに抵抗感があ る」と答えた。武田氏は「サービスの利用が進んでいない中で、いきな り外国人が業界で働くのは少し早い。まずはサービスの利用者の裾野を 広げ、産業として確立させることが重要」としている。

日本の光学機器メーカーに勤める鈴木さやかさんは「外国人家政婦 にかかわらず、日本人は留守宅に他人が入る事を敬遠しがちだ」と指 摘。鈴木さんは実家近くに引っ越し、両親に5歳の長男の面倒や食事の 用意を手伝ってもらっている。家事の外部委託よりも夫の帰りがいつも 遅くなる長期労働の文化を変えるべきだとの考えだ。

鈴木さんは「政府は女性にもっと働くよう求めているが、本当に必 要なのは仕事と生活を調和させ、誰もが働きやすいよりよいワーク・ラ イフ・バランスを実現することだと思う」と語った。

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