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「君じゃないんだよ」から四半世紀、メガバンクに女性役員

「君じゃないんだよ。男の人を出し てくれ」-。受話器から聞こえる声に一瞬思考が止まった。4月に三井 住友銀行で初の女性役員に就任した工藤禎子さん(49)は当時をこう振 り返る。1987年に女性総合職第1期生として旧住友銀行に入行、取引先 に中堅・中小企業の多い神田支店に配属された。

86年に施行された男女雇用機会均等法で開かれた女性登用の道。し かし、工藤さんは入行後2年間、制服を着てお茶くみもした。「総合職 と言っても入社したばかりでできることも少ないから」と腐らず自分の 居場所を探し続けたことが、今につながっていると思う。

NPOジャパン・ウィメンズ・イノベイティブ・ネットワークが2 月に公表した調査によると、金融業界の女性役員比率はわずか0.3%。 米NPOカタリストの調査による米金融業界の12.4%に比べ圧倒的に低 い。日本企業全体の女性役員比率は3.3%。大和総研の河口真理子研究 員は、「銀行は日本企業の中でも一番お堅く保守的だ」と指摘する。

当初の均等法施行から30年近く経っても企業での女性の活躍がなか なか広がらない中、安倍晋三政権が動き出した。アベノミクスの成長戦 略の柱として13年4月、女性の社会進出や労働を支援する方針を表明。 労働環境の改善を進める一方で安倍首相は経済3団体幹部と会い「全上 場企業でまずは役員に一人女性を登用してほしい」と呼び掛けた

「ウーマノミクス」

インドでは最大手のインドステイト銀行など金融機関で5人の女性 トップが活躍している。世界経済フォーラムが算出する2013年の世界男 女格差指数で、日本は対象136カ国中105位。1位はアイスランドで米国 は23位、インドは101位。日本の出遅れが目立つ。

安倍政権が女性の活躍を急ぐ背景には、人口減少・少子高齢化があ る。経済の活力を取り戻すには、企業の中で女性に幅広く活躍してもら ったり、女性が働きながら子どもを産み、育てやすい社会制度を整えた りして、少子高齢化に歯止めを掛ける必要がある。

男女の就業率格差が縮まれば日本の国内総生産(GDP)は大幅に 増える-。女性の活躍による経済の活性化「ウーマノミクス」を提唱す るゴールドマン・サックス証券のキャシー松井氏は6日付リポートで女 性の就業率(62.5%)が男性と同じ80.6%まで上がれば、就業者が710 万人増えGDPを最大12.5%押し上げるとの試算を公表している。

工藤さんは日本企業ならではの年功序列の階段を上り詰め、初めて 役員となった女性の一人だ。入社3年目に国際業務部に配属され、自分 の得意分野となるプロジェクトファイナンスに出合った。「案件完了ま で時間がかかり、徹夜で働くこともあったが、職場に女性が少ない。す ぐに顔と名前を覚えてもらえたのはラッキーだった」という。

高齢化と女性進出

三井住友銀で環境分野など成長が期待できる企業を発掘・支援する 部署を率いる工藤さんが役員となった4月。みずほ銀行でも初の執行役 員が誕生した。有馬充美氏(51)は中小企業に事業戦略を提案するコー ポレートアドバイザリー部長に就任した。

企業統治(コーポレートガバナンス)が専門の青山学院大学の北川 哲雄教授は、女性役員登用などの動きについて「日本は生え抜きで出世 していく色彩が濃く、ようやく出てきた」と指摘する。大和総研の河口 氏は、すでに人口減少が始まっている日本で「男女の選り好みしている 場合ではない」と危機感を募らせる。

日本の高齢化の進展速度は速い。国立社会保障・人口問題研究所 の2014年推計によると65歳以上が日本の人口に占める割合は約26%と15 歳以下の約2倍。また高度経済成長期の「夫が働き妻は専業主婦」とい う世帯像は1997年にすでに共働き世帯に逆転され、専業主婦世帯を支援 する経済政策と世帯構成との整合性が取れなくなっていた。

第一生命経済研究所の永浜利広主席エコノミストは、一般企業で女 性の活躍が広がり、取引先の担当者も女性が増える傾向が強まる中、銀 行側も「その変化に遅れながらでもついていくしか選択肢はない」とみ ている。三菱東京JFJ銀行では今後約1年で女性管理職比率を15%ま で高める方針だ。

女性のやる気

三菱UFJの平野信行社長はアベノミクスの一環としての女性活用 について「重要な施策であり、われわれ銀行として極力、活躍を願う女 性たちに場を提供していきたい」と賛同する。三井住友銀の国部毅頭取 も「経営トップのコミットメントが大事だと思っており、私自身しっか りと女性の活躍を推進していきたい」という。

安倍政権はこれまで女性管理職の増加に加え、待機児童の解消や育 児休業者の職場復帰支援のための規制緩和・助成策を打ち出している。 三井住友アセットマネジメントの宅森昭吉チーフエコノミストは「徐々 に成果は上がっている」と評価。ただ、「政府がいくら環境を整備して も、実際に女性が働こうと思わなければ定着しない」と指摘する。

女性は男性に比べて体力がない。結婚や出産といったライフイベン トの仕事への影響も男性以上に大きいことが多い。それでも多くの女性 に働く面白さを知ってほしいと工藤さんは思う。「執行役員として、こ の銀行でやる気のある女性が正しく評価されるようサポートしたい。そ れが組織を強くするんじゃないかと思います」。

--取材協力:河元伸吾.

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