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【FRBウオッチ】「声明を信ずる」-礼拝堂化するフェッド

米連邦公開市場委員会(FOMC) が4月29、30両日の定例会合終了後に発表した声明は、第1四半期の経 済活動の減速を「悪天候」の影響とし、「このところ上向いてきた」と 総括した。

商務省が同日朝に発表した第1四半期の実質国内総生産(GDP) 統計では、年率0.1%成長に急減速していたことが示されたため、株式 市場も軟調に推移していたが、午後2時に発表されたFOMC声明で元 気付いた。「フェッド(FRBの通称)はGDP統計など気にしていな いようだ。声明は平常を思わせる内容だ」(グリーンウッド・キャピタ ル・アソシエーツのウォルター・トッド最高投資責任者)とFOMC声 明に絶大な信頼を置いて、明るい未来に思いをはせていた。ダウ工業 株30種平均は反発に転じ、史上最高値を更新して引けた。

フェッドが量的緩和(QE)によって増刷しているドル紙幣に は"In God We Trust"(われらは神を信ずる)と刷り込まれている。同 様に市場参加者の多くがFOMC声明を読む目は、短い文言に神が宿っ ているかのように真剣そのものだ。

FOMCは1994年まで政策金利誘導目標も声明も発表しなかった。 当時のFRBウオッチャーの最大の仕事は、ニューヨーク連銀による市 場操作の微妙な変化から政策金利の誘導目標を読み解くことだった。ジ ャーナリストのウィリアム・グライダーがFRBを描いた名著"The Secrets of the Temple"(神殿の秘密)はフェッドが醸し出す神聖な趣 をタイトルにしていた。

それから20年。2度の大型バブルの膨張とその崩壊に見舞われなが らも、超低金利政策とQEで再バブル化を繰り返すFRBは、バブルの 膨張過程で市場の信認を高めてきた。

市場との対話

バーナンキ前議長が透明性を高める政策を推進し、それを副議長と して支えてきたイエレン氏が議長に就任すると、議長発言に対する市場 の注目度も一段と高まってきたように見える。

しかし、FRBへの信認の行き過ぎに死角はないのだろうか。 FOMCの政策決定に参加するのはわずか19人。イエレン現議長はバー ナンキ前議長と共に市場との対話を重視してきたが、市場が当局の思い 通りに動かない時には、しばしば市場に修正を求める。

昨年の金融政策の転換はバーナンキ議長の発言とともに始まった。 議長は6月23日のFOMC終了後の記者会見で、「年内に債券の購入ペ ースを緩めるのが適切だと委員会は現在のところ見込んでいる」と発言 した。

市場操作の領域

米国債市場は金融引き締めへの転換と読んで、買い持ちの圧縮に動 き、長期金利が急上昇する。意図せざる長期金利の上昇に驚いた議長は 翌7月の議会証言で、リスクポジションの解消について、「恐らく喜ば しいことだろうが、これに伴う金融の引き締めは歓迎できない」と不快 感をあらわにした。

米国債投資家がリスクの生じた買い持ちポジションを解消すれば、 長期金利が上昇するのは自然である。その市場メカニズムによる長期金 利上昇を容認できないというのであれば、もはや対話とはいえない。一 方的な市場操作のそしりを免れまい。

FOMCメンバーは透明性を高めたが故に、市場が過剰反応しかね ないと懸念し始めている。3月19日のFOMC会合後に公表された FOMC参加者の政策金利予測の中央値が引き上げられていたが、この 自らの判断が市場に行き過ぎた反応を呼びかねないとの不安が幾人かの メンバーから表明されたのである。

自らの影に脅える

この会合終了後にはイエレン議長が記者会見で、FF金利の初回利 上げ時期を明らかにしたため、市場金利が上昇するという騒ぎも起き た。声明にはテーパリング(量的緩和の縮小)完了から「相当の期間」 事実上のゼロ金利政策を維持すると記されているが、この「相当の期 間」について質問を受けた議長は「6カ月」と明言していた。

そのあと、イエレン議長はじめFOMCメンバーが相次いで議長発 言を取り繕ったことから、市場は安定を取り戻している。むしろこうし たさまざまな当局者の発言で相場が動くため、市場の注目が一段と高ま り、FOMCの対話戦略が効果を高めているともいえる。

そして4月30日、FOMC声明に対する異常ともいえる反応が市場 では見られた。FOMCの景気見通しはメンバーが想定する最適な金融 政策を反映させるため、当然のことながら楽観的なバイアスが生じる。 自ら策定する政策は成功すると想定しているので楽観的になるのは当然 である。

こうした金融当局者の一挙手一投足が相場に反映されるため、市場 参加者はその動きを追う過程で、いやがうえにも当局者の楽観から影響 を受ける。前回のFOMC声明は「経済活動は今冬に悪天候の影響もあ り急減速していたが、このところ上向いてきた」と記述されたため、市 場では、悪天候が過ぎて温かい春の訪れとともに景気回復も加速すると の短絡的な反応が生じていた。

「いつか来た道」

悪天候という一過性の要因で景気が急減速したのであれば、その反 動も一過性に過ぎない。せいぜい昨年までの緩やかな拡大局面が続くに 過ぎないはずだ。景気回復が加速するという予測は楽観に傾き過ぎてい るということになる。さらに声明には「企業設備投資が落ち込んだ」と 記されていたが、このマイナス要因はまったく無視されてしまった。

このように、楽観見通しに傾きがちなFOMCが主導する市場との 対話に乗って突き進むと、「いつか来た」バブルへの道に迷い込むこと になりかねない。楽観度が強くなれば強くなるほど、そのリスクは高ま ると用心しておいたほうが賢明だろう。

(FRBウオッチは記者個人の見解です)

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