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バイ・アベノミクス長期化へ政府動く、企業統治と投資家改革

株式を買われる側、買う側双方の質 を向上させ、日本経済の活性化を狙うルールづくりが政治主導で進む。 景気の変動が企業収益にとっての外的要因なら、厳格なコーポレート・ ガバナンス(企業統治)や投資家の行動は内的要因だ。内側からの変革 に成功すれば、「バイ・アベノミクス」は長期化する可能性がある。

安倍政権は、昨年6月に発表した第3の矢である「日本再興戦略」 で、民間の力を最大限引き出すため、株主が企業経営者の前向きな取り 組みを後押しするようコーポレート・ガバナンスを見直し、日本企業を 国際競争に勝てる体質に変革するとの意欲を示した。

具体的な動きとして、社外取締役の位置付け強化を図る会社法改正 案を昨年11月に国会に提出、今通常国会での成立を目指している。一 方、金融庁の有識者検討会は2月26日、「『責任ある機関投資家』の諸 原則-日本版スチュワードシップ・コード」を策定し、公表した。機関 投資家のあるべき姿勢、倫理を定めたもので、投資先企業と目的を持っ た対話(エンゲージメント)を行うことなどで、企業の価値向上や持続 的成長を促そうとの狙いがある。

ゴールドマン・サックス証券では、コーポレート・ガバナンスの向 上は企業の収益を改善し、日本の個人が保有する840兆円の現・預金が 株式に向かう支援材料になると予想。日本株チーフストラテジストのキ ャシー・松井氏は、「本当の変化をもたらすことができるかもしれない という点では、『第3の矢』の中でも最も重要な議題。一朝一夕ではい かないが、改善の余地は余っている」と言う。

10%に満たない社外取締役比率

ブルームバーグ・データによると、先進国24市場の中で日本の株主 資本利益率(ROE)は下から2番目に低く、社外取締役の比率は平均 で8.8%と米国の84%、英国62%、香港42%などと比べ最も低い。東京 証券取引所によれば、TOPIX採用銘柄で昨年1人でも社外取締役が いた企業の比率は62%。04年の30%からは倍増したが、社外取締役が多 数を占める比率はソニー、日立製作所、エーザイ、日本取引所グループ など1.1%に過ぎず、事務機器の世界的メーカーであるキヤノンです ら、初の社外取締役の選任を決めたのはことし1月だ。

日本取引所ではことし2月から、全ての上場企業に対し独立性の高 い社外取締役1名以上を確保すべく、努力するよう求めている。一般株 主保護の観点から、これまでも「独立役員制度」を設け、社外取締役ま たは社外監査役の1名以上の確保を求めてきたが、これを強化した。

政府が成立を目指す会社法改正案では、上場会社に対する社外取締 役の義務化には踏み込まなかったが、置いていない企業に株主総会で理 由を説明させるほか、施行2年後に見直す規定を盛り込んだ。

自民党の日本経済再生本部のメンバーである柴山昌彦衆院議員はブ ルームバーグ・ニュースの取材で、改正案が「最終ルールではない」と し、「出資したお金の使われ方がおかしい場合、株主が声を上げられる ルールが今、グローバルスタンダード」だと発言。2年後までに、社外 取締役の扱いを含む新たな仕組みを検討していく考えを示した。

6月にリスト公表

英国をモデルとしたスチュワードシップ・コードは、昨年8月に金 融庁に有識者検討会が設置され、パブリックコメントの実施に45の団 体・個人から意見が寄せられた。企業は適切なガバナンス機能の発揮で 企業価値の向上を図る責務を有し、コードに定める機関投資家の責務と は「車の両輪」で、両者が適切に相まって質の高い企業統治が実現され ると、コード策定の目的として記している。

メリルリンチ日本証券の株式ストラテジスト、神山直樹氏はことし の日本株に好影響を及ぼす要素として、日本企業が収益率を大幅に改善 させる「リターン革命」の可能性に言及。その政策的支援の1つである 日本版スチュワードシップ・コードは、これまでなかった「企業の収益 率と株主ガバナンスとの関係に注目」したもので、投資家同士が「株主 共同の利益のために、協調するきっかけとなる」点に期待感を示す。

金融庁の示したコードでは、スチュワードシップ責任を果たすため の明確な方針、それに際し管理すべき利益相反に関する方針、議決権行 使と行使結果の公表に関する方針などの策定と公表を求めており、同庁 はコードの受け入れと各方針を公表した機関投資家のリストを3カ月ご とに発表、初回は5月末までの状況を6月初めに明らかにする。

文化的問題

株式会社などに関する規定を商法から分離した「会社法」が05年に 制定されて以降、11年にオリンパスや大王製紙の経営者よる不祥事が発 覚。昨年は、川崎重工業で経営統合交渉を担った社長が臨時取締役会で 解任され、みずほ銀行による暴力団融資問題も含め日本のコーポレー ト・ガバナンスの信頼性を揺るがす事件、事象は後を絶たない。

一橋大学大学院のブルース・アロンソン教授は、日本では「取締役 会が経営戦略を不正の防止より優先させ、株主の権利よりも役員の判断 が優先される」と手厳しい。一方、明治大学大学院の講師も務めるコー ポレート・プラクティス・パートナーズの関孝哉氏は、「社外取締役数 や監査委員会の設置状況など表面的なところでは、日本はアジア諸国に 後れをとっている」が、役員がどのように行動するか、信用に値する考 え方をしているかという点では「日本は欧米と並んでいる」と見る。

少なくとも1人以上の社外取締役の確保に向けた取り組みを強化し ようとした日本再興戦略の狙いは、旧態依然とした日本企業のグローバ ル化を進める点にある。ガバナンス・メトリクス・インターナショナル が10年に行った調査では、コーポレート・ガバナンスにおける日本のパ フォーマンスは38市場中、35位だった。

元オリンパスの最高経営責任者(CEO)で、同社の不祥事を摘発 したマイケル・ウッドフォード氏は「いくらガバナンスのルールを設け ても、問題は文化的なことで、その他の先進国と比べた企業内での不正 は日本の方がはるかに起こりやすい」と冷ややか。「個人が間違ったこ とに反対したり、それを変えることが一番難しい問題だ」し、社外取締 役については数と同じくらい、質が重要と話している。

--取材協力:広川高史.

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