公的年金の制度改革を議論する社会 保障審議会年金部会の武田洋子委員(三菱総合研究所チーフエコノミス ト)は、低収入の専業主婦らが社会保険料を支払わずに年金を受け取れ る「第3号被保険者制度」の段階的な撤廃を主張している。同制度は彼 女らの労働市場への積極的な参加の妨げになっていると言う。

武田氏は3日のインタビューで、年収130万円未満の専業主婦らが 社会保険料の負担を免れる第3号被保険者制度は「より働こうという意 思を阻害し、就労調整を招いている面がある」と述べ、「段階的に撤廃 していくのが望ましい」と話した。

5年に1度の年金財政検証に向けた経済前提と積立金運用のあり方 に関する厚生労働省の専門委員会でも委員を務めた武田氏は、報告書に 反映された女性の労働参加率の引き上げに向けては「取るべき方向性が はっきりしている」と言う。

公的年金制度は2009年度以降、高齢化で膨張する年金給付を保険料 や税金などで賄い切れず、世界最大の年金基金である年金積立金管理運 用独立行政法人(GPIF)などが運用する積立金を取り崩している。 今年度は5.5兆円に上る見通し

公的・準公的資金の運用・リスク管理の高度化を議論する政府の有 識者会議はGPIFに収益向上を求めている。武田氏は、積極的な「働 き手が増えれば消費も増え、雇用や賃金にも好影響が及び、年金財政の 面でもプラスになる」とみている。

98.8%が女性

厚生労働省によると、国民年金の加入者は昨年3月末時点で6736万 人。うち、自営業者らの第1号被保険者が1864万人、民間企業の従業員 や公務員らの第2号は3912万人、第3号は960万人だ。第3号の98.8% を女性が占めた。

第3号被保険者制度は1985年の年金制度改正で、専業主婦の年金権 を確保する観点から導入。民間企業の従業員や公務員らの配偶者は国民 年金の強制加入対象となったが、年収が130万円未満なら保険料を個別 に納める必要がない。

近年は自営業や共働き世帯と比べた不公平感や女性の就労への影響 をめぐる懸念が浮上しており、12年8月に成立した税・社会保障の一体 改革関連法では、適用対象が16年10月から実質的に約106万円未満に引 き下げられる予定だ。

安倍内閣が昨年6月に閣議決定した「日本再興戦略」は、現状68% の25-44歳の女性就業率を、東京オリンピック開催の20年に73%に引き 上げることを目指し「働き方の選択に関して中立的な税制・社会保障制 度の検討を行う」と明記。経済成長と労働参加が「適切に進む」ケース では、女性の30-34歳の労働力率は10年の67.6%から20年に74.8% へ、35-39歳は66%から73.1%へ上昇すると見込む。

就労調整を招く

総務省の労働力調査によると、女性の就業者数は13年に2701万人、 求職者も含む労働力人口は2804万人と、ともに過去最高を記録した。15 -64歳の女性人口に占める就業者も62.4%と、比較可能な1968年以降で 最高となった。ただ、女性の被雇用者の55.8%は非正規雇用だ。

専業主婦は昨年、前年比4.3%減と過去最大の減少を記録。専業主 婦のいる世帯は85年には952万世帯と共働きの722万世帯を上回っていた が97年に逆転され、10年には797万世帯と共働きの1012万世帯を下回っ た。第3号被保険者が公的年金の加入者に占める割合は86年度の17.3% から11年度には14.4%に低下している。

しかし、厚労省の「パートタイム労働者総合実態調査(11年)」に よると、所定労働時間が正社員より短い女性で配偶者がいる場合、第3 号非保険者が55.2%を占めた。就業調整をしているとの回答は21%。理 由として49.3%が130万円の限度額を挙げた。

労働政策研究・研修機構が昨年8月に公表した「社会保障の適用拡 大が短時間労働に与える影響調査」では、11年の年収が「103-130万円 未満」が回答者の21%を占めた。第3号被保険者である短時間労働者 の78.5%が短時間労働者のままでいたいと回答。78%は保険料支払いが 生じる第2号保険者になりたくないと答えた。企業側も社会保険の適用 が拡大されたら、要件に該当しないよう所定労働時間を短くし、その分 より多くの短時間労働者を雇用すると言う。

一方、公的年金の支給開始年齢が65歳まで段階的に引き上げられる 高齢者の就労率引き上げに関しては、武田氏は個人的な結論を保留。開 始年齢のさらなる引き上げは高齢者の就労促進や年金財政の負担軽減に つながり得る半面、雇用延長に伴う企業の負担増や、雇用延長が広がら ない場合の「空白期間」拡大で生活保護が増えて社会保障費がむしろ増 える可能性を指摘した。

武田氏が委員を務めた専門委は年金財政検証に向けて8つの経済前 提を示したが、重要なのは「どれになるかを当てることではなく、最悪 のケースでも大丈夫という改革案を議論することだ」と指摘。その意味 で今回の経済前提に実質GDP成長率がマイナスに落ち込むケースも含 めたのは「大きな前進だ」と話した。

日本の財政を圧迫しているのが「誰も目にも明らか」な社会保障関 係費の抑制を通じて財政健全化にもつなげていく必要があると言う武田 氏は、同時に、高成長シナリオが「絵に描いた餅」で終わらないよう、 相応の制度改革をしていかなければならないとも指摘。年金財政検証に 伴うオプション試算は、今後の「改革につなげていくためのものだ」と の認識を示した。

最新の情報は、ブルームバーグ端末にて提供中 LEARN MORE