コンテンツにスキップする

鍛冶屋がロボットの手本、職人技で効率化-トヨタ生産に新風

大型機械が絶え間なく動く自動車工 場の片隅で、ひときわ甲高い鉄を打つ音が響いていた。3人の男たち が1200度に熱した鉄の塊を手際よく叩き形を整えている。近代的な工場 に鍛冶屋職人が迷い込んだような錯覚に陥る。

トヨタ自動車では国内13工場の約100カ所で、こうした光景が見ら れる。生産工程の一部を機械やロボットから人の手に戻すことで不良品 率や無駄を減らす方法を見つけ出し、生産効率を高める取り組みだ。エ ンジン軸のクランクシャフトでは鍛冶屋職人さながらの作業などで、材 料の無駄を10%削減した。次世代プリウスの生産に反映するため、技術 の確立を目指している。

自動車の世界市場拡大に伴い、独フォルクスワーゲン(VW)や米 ゼネラル・モーターズ(GM)などが相次ぎ生産能力増強に踏み切る 中、トヨタは2013年初頭、工場新設の投資を基本的に3年間凍結する方 針を明らかにした。投資を決定する前に効率化を一段と促すためだ。

高技能者の取り組みを主導する河合満技監は「昔は現場に何でも知 っている神様と呼ばれる人がいて、効率的な生産方法をアドバイスして いた」と振り返り、高い技能を持つ人材の必要性を強調した。取り組み の成果は数字に表れてきており、世界の産業界に影響を与えたトヨタ生 産方式に新たな効果をもたらそうとしている。

溶接角度を変える

愛知県豊田市の本社工場ではSUV「ランドクルーザー」車体骨格 部分のフレーム溶接を機械から人の手に置き換えた。ロボット生産では 材料の鉄にパーツを溶接すると湾曲部分に隙間が生じたり、素材が反る などの問題があり、度々手直ししていた。手作業でその原因を探り、改 善策を機械に反映することで不良品率を減らし生産効率を上げている。

隙間の改善策は、湾曲部分にあてるバーナーの角度を変え上下に動 かしながら溶接することで、従来平均13ミリあった隙間が同8ミリにな った。反りの問題は作業工程の順番を替え、事前に突っ張り部分を設け ることで従来の40ミリが22ミリ程度となった。この結果、1台当たり手 直し件数は約55%改善。シャシー製造部では10年から4年間で労務費や 素材費などのコストを22%削減した。

クランクシャフト生産ラインは1500メートルから60メートルに短縮 し、製造機械の設置スペースは従来の10分の1程度となった。現場から の改善案は技術者が積極的に取り入れる。シャシー製造部の平井正彦部 長は「一時はロボット化に伴い人が活躍できる場が少なくなり、『それ 以上』を目指すのが難しかったが、今は技術をつけることが評価され、 現場のモチベーションも上がった」という。

河合技監は高技能を維持する重要性を強調し、「自動機に人が使わ れてはいけない。人がロボットを使わなければ」と語った。現場の人が 技術を理解していないと設備の不具合を指摘できず、生産技術部門と対 等に話もできない。小さな改善一つにも時間がかかってしまう。今は現 場の提案をすぐ試せる環境にあり、改善期間が大幅に縮小したという。

急成長時代に失われたもの

河合技監は「02年くらいからトヨタは毎年50万台くらい生産が伸 び、現場の教育が少し薄くなっていたのは事実」と振り返る。その懸念 は09年に就任した豊田章男社長も抱いていた。

トヨタ生産方式についての著書があるミシガン大学のジェフ・ライ カー教授は「豊田社長はトヨタが大企業病にかかり、生産拡大に忙しく て人材育成ができていないことを最も恐れていた」と3月18日の電話取 材に語った。ライカー教授は昨年6月に本社工場の取り組みを見学 し、11月には豊田社長とも話をした。

トヨタには、トヨタ生産方式を社内外で指導する生産管理部・生産 調整室という部門がある。ライカー教授によると、豊田社長はこの部門 の技術者と接することで品質維持の課題や人材開発・育成の重要性を深 く理解していたという。

トヨタグループの世界生産は02年の631万台だったのが、07年に950 万台となった。毎年の平均では約9%の伸びになる。その後は08年の世 界金融危機を経て、09年は723万台に減少。この年に就任した豊田社長 はその後、大量リコール問題に直面し、東日本大震災やタイ洪水被害の 問題に対応する中で「真の競争力」を模索してきた。

原点回帰

河合技監は1966年に本社工場の鍛造部で働き始めてから約半世紀に わたり、カイゼン、生産性向上、技能育成に取り組んでおり、ライカー 教授は「トヨタが原点回帰を図るには最も適していた」と述べた。

東京大学大学院経済学研究科の藤本隆宏教授は「敢えて人を介在さ せることで自動化の効果を高めていくのはトヨタの伝統的な考え方」と 述べ、「21世紀の現在もその原点に戻って機械加工や溶接の進化を促進 しようというのは、トヨタ特有の進化能力の表れ」と指摘。今回の取り 組みは、レベルの高い同業他社や異業種の専門家に「そこまでやるか」 との強い印象を与えるとコメントした。

国内生産300万台

本社工場の生産ラインには、敢えてロボットの生産スピードの中で 人が溶接する場所も設けている。3年前から始めた取り組みで、これま で11人が技能を認められ卒業した。こうした高技能者と呼ばれるのは現 在400人程度で、新興国での生産拡大に伴い、海外にも指導に行く機会 が増えている。

河合技監は、豊田社長が国内生産300万台を維持すると表明してい ることに触れ、「それくらいの規模がなければあらゆる試行錯誤をして 技術革新をすることができないということ」と指摘し、「トヨタは国内 で技能を伸ばし、それを海外へ移転させていく」と話した。

    最新の情報は、ブルームバーグ端末にて提供中 LEARN MORE