増税前のゴールドラッシュ、株や為替よりも「金」-安定資産に誘引

消費増税を2週間後に控えた今月17 日。田中貴金属ジュエリー銀座本店を訪れた都内在住の会社員、遠藤康 広さん(59)は50グラムの金地金2本と20グラム3本を購入した。総 額80万円弱。10月に定年を迎える自身へのご褒美とこれまで支えてくれ た家族へのお礼にと、初めて金を手にした。

「金ならリーマンショックなどよほどのことがない限り大きく下が らない。もうけようという気はないが、株や為替などと比べて損をしな いということでは金が一番無難」と遠藤さん。

4月からの消費税引き上げを前に、金にも駆け込み需要が生じてい る。アベノミクスに伴う株高などで景気回復期待が高まる半面、ウクラ イナ情勢をめぐる緊迫化など世界は不透明感を増しており、安定資産と しての金に注目が集まっている。

都内在住の立石直子さん(59)は、保有株の一部を売却した資金を 金100グラムの購入代金に充てた。老後に備えて資産構成を見直した結 果、約10年ぶりに金を購入。「ウクライナ情勢など世界は不安定。超高 齢化社会を迎える日本の先行きも見えず、自分の身は自分で守らなけれ ばならない」と話す。「株ほどのリスクはなく金は安定資産」として、 今後も保有株を減らし金を買い増していく方針だ。

3月の販売は5倍超

田中貴金属では国内直営7店舗の合計で金地金の販売が2月は前年 同月比で2.3倍となった。3月に入り地金を購入するのに朝から1時間 も待たなければならない日もあるなど活況。3月1日-27日までの金地 金の販売量は前年同期比で5.2倍と駆け込み需要の影響もあり大きく伸 びた。1月-3月27日までの販売量は同2.5倍という。

地金商2位の徳力本店では製錬会社や総合商社から地金を調達して いるが、新井昌弘・地金部部長によると、昨年10月以降は毎月自社でも 直接輸入に乗り出し、店舗での在庫を通常の2倍に積み増して対応。石 福金属興業でも自社工場で生産する金地金の比率を増やした。

金の業界に26年間携わる田中貴金属ジュエリーの水木直人マーケテ ィング本部長は「昨年から潮目が変わった」と感じている。「金価格が 高値圏にあるにもかかわらず購入する顧客が増えてきた。つまり新しく 初めて金に目を向ける方が増えてきた」と説明する。

17日に田中貴金属の店舗で取材した顧客は、500グラムの地金4 本、100グラム3本、500グラム1本と1オンス金貨1枚、1キロの地金 と購入量はさまざまだが、全て初めて金を購入する人ばかりだった。皆 長期保有するという。この日は金の小売価格が約9カ月ぶりの高値を付 けたが、買う人と売りに来た人は半々だった。

金には増税によるメリットもある。通常金の小売価格は買い取り価 格よりも高めに設定される。例えば田中貴金属では金価格が1グラ ム4500円(税抜き)の場合、消費税5%の時の小売価格(税込み) は4725円だが、買い取り価格は4641円(同)。これが消費税8%になれ ば買い取り価格は4774円となる。増税前に地金を買えば、金価格が変わ らなくても利益を生む計算になる。

金の調査機関ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)によると 日本は05年以降、金地金や金貨を買う量よりも換金のために売却する量 の方が多かったが、昨年は9年ぶりに購入量が売却量を上回った。

大きい潜在需要

マーケット・ストラテジィ・インスティチュートの亀井幸一郎代表 はこうした傾向は今後も続くとみる。「アベノミクスによる円安やイン フレ懸念、貿易赤字の恒常化や経常赤字など今までの日本とはちょっと 違うと思い始めた人が増えつつある」と指摘。そうした人々が資産の選 択肢に金を加えているといい、1645兆円と過去最高に達した家計の金融 資産の半分以上を現預金で持つ日本の潜在的な金需要は大きいと語る。

日本銀行の異次元緩和を背景に、経常収支の悪化と物価上昇が進む 中、長期金利からインフレ率を引いた実質金利は昨年8月以降、マイナ スに転じた。現預金を手元に置いておくだけでは価値は目減りする。

先物を取り扱う東京商品取引所でも増税前に金の現物の受け渡しが 急増した。13年12月限は前年同月比4.4倍の2563キロ、14年2月限は 同2.9倍の2389キロに。受け渡しが2限月連続で2000キロを超えたの は07年10月以来、6年4カ月ぶり。

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