FOMCの「預金者抑圧」、ベビーブーマーの引退はかなわぬ夢

電話の修理屋を引退して12年、バー ジニア州に住むロジャー・ウッド氏(69)は米住宅関連用品小売りロー ズの店舗で週12-15時間働く。

時給は12ドル(約1230円)で「30年前の稼ぎとほぼ一緒」と話すウ ッド氏は、「低金利でポートフォリオが心配だ。フルタイムで再び働く ことも考えるほどだ」と付け加えた。

銀行預金や債券投資という比較的安全な投資では微々たるリターン しかない現状を、「金融による預金者抑圧」と表現したのは米パシフィ ック・インベストメント・マネジメント(PIMCO)の共同創業者ビ ル・グロース氏。米国では低利回りに何年も苦しむ65歳以上の年齢層で 例外的に雇用や求職の増加が見られることを、米労働省の労働参加率デ ータが示している。

グロース氏(69)は2月7日、ブルームバーグラジオで米連邦公開 市場委員会(FOMC)の低金利政策に言及しながら、「金融による抑 圧は何十年も続くだろう」と発言。「暗いことを言いたくはないが、今 後10年は私も含めて老年層が金利に失望させられることになる」と付け 加えた。

米国では1946年から64年に生まれたベビーブーマー世代が引退の年 齢に差し掛かっている。この約7500万人の生活を2008年12月から続く超 低金利政策の副産物である低リターンが圧迫する。13年に65歳の人が退 職後の生活費を債券に関連する年金で賄う場合、必要になる資産は05年 と比べ24%多かったと、全米経済研究所(NBER)のジェームズ・ポ テルバ所長が2月公表の報告書で試算している。最上級の格付けを持つ 社債の利回りが5.4%から3.8%に低下したことが試算では考慮されたと いう。

しわ寄せは高齢者に

また、金融緩和が貯蓄に及ぼす影響を11年にリポートにまとめたア トランタ連銀元総裁のウィリアム・フォード氏によれば、米国債利回り は低金利政策と刺激策によって本来あるべき水準を少なくとも2ポイン ト下回っている。これで、貯蓄が年に2800億ドル以上減るという。同氏 はインタビューで、「低金利がもたらすコストが無視されている。しわ 寄せは貯蓄者に及ぶ。特に、安全投資で老後に備えてきた貯蓄で生計を 立てる高齢者がそうだ」と述べた。

ベビーブーマーの年長世代は11年に65歳になった。ピュー・リサー チ・センターによると、向こう16年間で毎日約1万人がこの年齢層に加 わる。国勢調査局の予想によると、30年には人口の約19.8%が65歳以上 となり、2000年の12%を大きく上回る。

米企業福祉研究所(EBRI、ワシントン)が今月発表した調査に よると、労働者の半数近くが引退に十分な資金を確保できるか自信がな い。ギャラップの昨年の調査では、仕事をやめるのは65歳を過ぎてから と回答した勤労者の割合が37%と、1995年の調査でそう答えた14%の倍 を上回った。

影響は若者にも

ボストン・カレッジの退職研究センターのアリシア・マネル所長は 米国人に「危機」が迫っていると話す。ボストン連銀の調査ディレクタ ーを務めた経歴を持つ同氏は、「低金利があと5年続けば、個人が引退 後の十分な収入を確保するのは極度に難しくなる」と続けた。

こうした状況は向こう10年の個人消費の伸びを鈍化させるだけでな く、若者のキャリア形成にも響くと指摘するのは、米国みずほ証券のエ コノミスト、スティーブン・リチュート氏だ。同氏は「見ての通り、全 体の足を引っ張る」と述べ、高齢者は消費を減らすか「もっと長く働く ことを余儀なくされ、若者が職を得たり昇進するのが困難になる」と説 明した。

米資産運用会社ルーミス・セイレスのダニエル・ファス副会長 (80)も、低金利が引退生活者に与える影響を自宅近くのスーパーマー ケットで感じるという。「食料品を袋詰めしている人たちの平均年齢を 見ると、私はカートを押して手助けしてあげたくなる。それにラッシュ アワーの電車に乗っている通勤客をご覧なさい。その大勢が私同様の年 だ。彼らは悲鳴を上げている」と語った。

原題:Americans Can’t Retire When Gross Sees Financial Repression (1)(抜粋)

--取材協力:Margaret Collins、Cecile Gutscher.

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