歴史認識や安保で国会白熱化、アベノミクス議論失速も-安倍政権

南京大虐殺や従軍慰安婦問題など歴 史認識や、集団的自衛権の行使を可能とする憲法解釈の変更をめぐる論 戦が国会で活発化している。与党内では安倍晋三首相がこうした課題へ の対応に政治的エネルギーを割くことで、経済政策「アベノミクス」の 取り組みに悪影響を与えかねないとの懸念も出始めている。

「任命をした首相として何らかの責任は感じないのか」-。民主党 の大串博志衆院議員は2月12日の衆院予算委員会で、NHK経営委員の 百田尚樹氏が南京大虐殺の存在を否定する発言をしたとして首相の任命 責任を追及。それに対し、首相は「経営委員が個人的に行ったものにつ いて政府としてコメントすべきではない」と述べた。

1月24日に開会した今国会では大串氏とのやりとりに限らず、首相 や菅義偉官房長官らが歴史認識に関連した答弁を求められる場面が増え ている。

国立国会図書館の国会会議録検索システムで25日、国会開会から約 2カ月間の論戦を調べた。それによると、衆参両院で「従軍慰安婦」、 「靖国神社」、「南京大虐殺」のいずれかが話題になった質疑は20件を 超えた。昨年は開会日からの当初2カ月間で9件だった。

アベノミクス

安倍首相は20日の記者会見で、春闘で大手企業が相次いでベースア ップ回答を行ったことを受け、「この春、景気の好循環が明らかに生ま れ始めた」と指摘。「今後も、強い経済を取り戻すことが安倍内閣の最 重要政策」とも述べ、経済再生を最優先に取り組む考えを示したが、一 部経済指標に勢いがなくなってきた。

昨年10-12月期の国内総生産(GDP)は実質で前期比年率0.7% 増と速報値(1.0%増)から下方修正。1月の経常収支は1兆5890億円 の赤字と比較可能な1985年以降での過去最大となった。円ドル相場は14 年初にかけて一時1ドル=105円台に突入したが、3月後半以降は101 -102円で推移。TOPIXは年末年始に1300を突破する場面もあった が、その後は下落基調で年初来では約10%下落している。

4月には景気の下押し要因となる消費税の増税が迫っている。消費 増税は1997年の橋本龍太郎政権以来17年ぶり。自民党は翌98年夏の参院 選で敗北し、橋本政権は退陣した。

第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストは7日付のリポー トで、「円安になればすべてが解決すると考えるのは、都合が良すぎる 認識だ」と指摘。消費増税によって「心配なのは国内需要が冷え込むこ とで、産業空洞化の現象にますます拍車が掛かることである」との懸念 を示している。

野党時代に首相と金融政策などに関する勉強会を重ね、物価安定目 標の導入を主張してきた自民党の山本幸三衆院議員は経済以外のテーマ について「あまり他のことに足を引っ張られることにならない方がい い。無理にすると摩擦が大きくなる」と指摘。アベノミクス成功には 「経済中心の政権運営をやってもらった方がいい」と述べた。

維新の会

国会で歴史認識の問題を取り上げることが増えた背景には、衆院で 野党第2党の位置にある日本維新の会の存在がある。石原慎太郎元東京 都知事、橋下徹大阪市長が共同代表を務めており、同党の議員は従軍慰 安婦問題について1993年に政府が発表した河野洋平官房長官談話の見直 しを国会の内外で訴えている。

維新の山田宏衆院議員は予算委員会で当時の官房副長官だった石原 信雄氏に作成の経緯をただしたほか、菅官房長官に検証を迫った。政府 は談話そのものの見直しは行わないものの、経緯については検証する方 針を示している。中山成彬元文部科学相らは2月、河野談話の見直しを 求める署名活動を開始した。

2月の東京都知事選では石原氏や平沼赳夫代表代行らが田母神俊雄 元航空幕僚長を支持。田母神氏は空幕長だった2008年、第2次大戦当時 の日本が侵略国家だったというのは「ぬれぎぬ」と主張する論文を発 表。当時の麻生太郎政権は同氏を更迭したが、都知事選では61万票を獲 得し、細川護煕元首相に続く4位となった。

首相側近

首相に近い議員や有識者のナショナリスト的な言動も議論を呼んで いる。

NHK経営委員で作家の百田尚樹氏は都知事選の田母神氏への応援 演説で南京大虐殺を否定する発言を行ったと共同通信は報道。衛藤晟一 首相補佐官は2月、米政府が首相の靖国神社参拝を「失望した」とコメ ントしたことに「われわれの方が失望だ」と批判した動画を自身のウェ ブサイトなどで公開した。

自民党の萩生田光一総裁特別補佐は23日、フジテレビの番組「新報 道2001」で、安倍首相は河野談話を見直さないと発言しているものの、 政府による検証作業で新たな事実が出てくれば新しい談話を発表すれば いい、と発言。韓国政府が「容認できない」との声明を発表する事態と なった。

集団的自衛権

安全保障政策をめぐっては、集団的自衛権の行使を可能とする憲法 解釈変更が今後の課題となる。首相は自民、公明両党と調整した上で閣 議決定し、国会に自衛隊法改正案など関連法案を提出する段取りを描く が、これには与党内からも反発が出ている。

公明党の漆原良夫国会対策委員長は2月下旬、自身のウェブサイト などで、首相の方針は国民の意見を聞くという一番大切な部分が欠落し ており、「到底賛成できない」と指摘。自民党の村上誠一郎元行政改革 担当相は3月17日、関連法案が国会提出され、採決される場合は反対す る意向を表明している。

安倍首相が目指している憲法改正の手続きを決めるための国民投票 法改正案については、自民、公明両党が一部野党とも協力して今国会提 出に向けた動きを進めている。国民投票の投票年齢を改正法施行の4年 後に「20歳以上」から「18歳以上」に引き下げることが柱だ。

自民党の山本氏は「安倍さんにとって大事なことは来年の自民党総 裁選で再選することだ。つまらないことでガタガタして足を引っ張られ ることになると元も子もなくなる」と指摘。こうした事態を回避するた め、「誰もが望んでいる経済の回復」を実現すれば、「安倍さんでいい じゃないかという話になる」との見方を示した。安倍首相の自民党総裁 としての任期は2015年9月までとなっている。

--取材協力:山口祐輝.

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