GPIFにリスク制約「たが」、国内債大幅減は困難-臼杵運営委員

世界最大の年金基金である年金積立 金管理運用独立行政法人(GPIF)が国内債券を減らす余地は大きく ない-。運用委員会の臼杵政治委員は、リスク許容度の観点から、同法 人が株式など国内債に比べリスクが高いとされる運用資産を増やすには 自ずと限度があると言う。

GPIF運用委員会(委員長:植田和男東大大学院教授)の委員を 約6年間務める名古屋市立大学大学院の臼杵教授は19日のインタビュー で、「金利上昇のリスクにより、国内債の期待リターンは下がる。国内 債は普通に考えても減る方向だろう」と指摘。ただ「国内債並みのリス ク制約という箍(たが)があるので、大幅には減らせないだろう」と言 い、国内債が多過ぎるとの指摘がある現状でも「偏重」には当たらない と語った。

政府と日本銀行が2%の物価目標達成を目指す中、厚生年金と国民 年金の積立金128.6兆円を抱えるGPIFは国内債を中心とする運用の 見直しを求める圧力に直面している。昨年6月には基本ポートフォリオ を設立から初めて変更。政府の有識者会議(座長:伊藤隆敏東大大学院 教授)は11月、国内債偏重の見直しなどを求める報告書をまとめた。

GPIFの基本ポートフォリオは国内債の保有比率60%に対して、 一定の乖離(かいり)許容幅が設けられている。先月公表した今年度第 3四半期(10-12月)の運用状況によると、運用資産に占める国内債の 割合は昨年末に55.22%と2006年4月の設立以降で最低となった。国内 株式は17.22%と07年12月末以来の高水準を記録した。

臼杵教授は、運用委員会の委員としての立場を離れた個人的見解だ と断った上で、金利上昇をある程度見込んでも「国内債のリスクが株式 に比べそれほど大きいかは分からない」と指摘。国内債は平均残存期間 が債券運用指標の野村BPIと同じ7年程度なら「何年かかけて金利が 3%上がってもマイナス21%。株式の価格変動は標準偏差でみると、1 年間で上下20%ずつ以上とリスクが大きい」と説明した。

GPIFの使命

臼杵教授は、「どれくらいのリスクを取るかは年金制度全体を管理 する政府が決めるべきで、与えられたリスク制約の範囲内で最も高い期 待リターンを追求するのがGPIFの使命だ」と言う。

厚労省は10日にまとめた報告書で、5年に1度の公的年金制度の財 政検証に向け、GPIFにあらかじめ「国内債券中心の運用」を求めな い方針を明示。一方、リスク許容度に関しては、国内債で全額運用した 場合のリスクを超えないものとし、相対的に下振れの起きる可能性が大 きい株式などの運用に十分な注意を払うよう求めている。厚労省の年金 部会(部会長:神野直彦東大名誉教授)は12日の会合で、同報告書に基 づき財政検証の作業に入ると了承した。

1.7%目標は10年後から

厚労省が今回の報告書で示した「賃金上昇率を1.7%ポイント上回 る」運用利回り目標は、「長期金利が賃金を1.3%ポイント上回り、分 散投資効果が0.4%ポイント」という状態が24年度から続くということ を前提としている、と臼杵教授は指摘。このような定常状態になれば、 名目運用利回り目標が4.2%でも、長期金利3.8%と分散投資効果0.4% ポイントで成り立つので「別に高くはない」と言う。

一方、長年のデフレ状態から緩やかな金利上昇など変化の過程にあ る23年度までは想定が異なると指摘。国内債に全資産を投じた場合に賃 金上昇率をどの程度上回れるかは「今後の財政検証で想定を置くのだろ う」と述べた。その上で「足元の賃金プラスアルファをGPIFに与え ていけば良い。ただ、アルファは1.7%ポイントではないだろう」と話 した。

臼杵教授は、GPIFの使命について、どのような経済情勢でも賃 金上昇率+1.7%ポイントのリターンを上げることではなく、①賃金上 昇率をできるだけ上回るように努力する②暗黙の超長期ポートフォリオ を上回る-ことではないかと指摘。②は経済前提におけるリスク制約で 取り得るリターンで、国内債+分散投資効果0.4%ポイントを得る「効 率的フロンティア」上の点だと説明。「これを上回ったかどうかが本来 の評価基準であるべきだ」と語った。

資産配分の組み合わせによるリスクと期待収益率の関係を示す「効 率的フロンティア」を描き、各資産の相関性も加味すれば、リスクと期 待リターンが高い株式などを入れても、全体のリスクは分散効果で国内 債100%の場合と同程度に抑えられると指摘。オルタナティブ(代替) 投資などにより、同じリスク制約で期待リターンをより高めることもで きると説明した。

もっとも、十分に分散を効かせて「最善と考えられるポートフォリ オを作ってもリターンは運用環境次第だ」とし、賃金上昇率プラス1.7 %ポイントといった数字は「超長期の年金数理の話で、当面の運用とは 切り分けるべきだ」と述べた。GPIFなどの公的運用機関にはリスク 制約を与えた上で「できればその範囲で自由に運用させるのが良い」と 言う。

25日付の朝日新聞朝刊は、GPIFの三谷隆博理事長が同紙とのイ ンタビューで、国内債の保有に関して、「金利水準が極めて低いことを 考えると、ある程度比率を落とすことに違和感はない」と述べたほか、 「私どもは株価の下支え機関ではない。『PKO』(政府による株価維 持政策)をするためにあるわけじゃない」と話したと報じた。

--取材協力:山村敬一.

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