日本産ウイスキー、幽玄の魅力で静かに世界を席巻

私が初めて日本のシングルモルトウ イスキーを味わったのは2004年のことだった。「山崎18年」が米国に初 めてお目見えした時だ。その滑らかで気品のある味わいはまるで高級車 「レクサス」の新車のように洗練されていた。それは、ぜいたくなスコ ットランド産シングルモルトでおなじみのスパイシーでキャラメルと蜂 蜜のような甘さを備えながら、ミズナラ樽(たる)の中で熟成した独特 のエキゾチックな魅力をたたえていた。

それ以降、日本のウイスキーは目立たないながらも数々の世界大会 で金賞を獲得してきた。12年には「山崎25年」が国際ブラインドテイス ティングコンテストで世界のシングルモルトウィスキー300種の頂点に 輝いた。日本のウィスキーは転機を迎えたようだ。ブルームバーグ・マ ーケッツ誌別冊の高級ライフスタイル誌「ブルームバーグ・パースー ツ」春季号が報じている。米国には日本からさらに6銘柄が輸入され、 ロンドンでは日本のウイスキーのみを提供するバー「ミズワリ」がオー プン。香港で開催されるオークションでは近年、希少な日本産ウイスキ ーの価格が高騰している。

日本が世界水準のウイスキーを生み出すまでの道のりは、化学者の 竹鶴政孝氏がウイスキー作りの秘密を探るためスコットランドを訪れ た1918年に始まった。竹鶴氏が帰国すると、実業家でサントリーホール ディングスの創業者である鳥井信治郎氏が、日本初の本格的ウイスキー 蒸留所を大阪で創設するため竹鶴氏を採用した。

その10年後、竹鶴氏はテロワール(環境)がスコットランド高地に より近い、北海道の雪深い余市町に移る。同氏はそこで余市蒸留所を設 立し、サントリーの競合企業となるニッカウヰスキーを創業する。

ビル・マーレイ

日本のウイスキーが世界的に認知され、評価されるようになったの は21世紀に入ってからだ。多くの人は2003年に製作されたソフィア・コ ッポラ監督の米映画「ロスト・イン・トランスレーション」をきっかけ に、日本でウイスキーが製造されていることを知った。同映画は、ビ ル・マーレイ演じる年配の「米国人俳優」を中心に展開。この俳優が映 画の中でサントリーの「響17年」のテレビCMに出演する。大げさな CMディレクターがこの俳優に対し、大作映画のようにカメラに集中し て「イッツ・サントリー・タイム(サントリーの時間だ)」と宣言する よう要求するという、非常に面白いシーンがあった。

日本には操業しているシングルモルトの蒸留所が7カ所しかないこ とを考えると、そのスタイルの多様さは驚きだ。全てが伝統的なスコッ チの基本的なDNAを受け継いでいる。日本のウイスキー作りもスコッ トランドから輸入された大麦麦芽から始まる。スコットランド産が最も 高品質で、かつ最も安価だからだ。

本家との違い

もちろん違いもある。日本では独自のブレンドをするために他の蒸 留所からウイスキーを取り寄せることはしない。その代わり、各蒸留所 が銅製の単式蒸留釜や木製樽を利用して多くの種類の自家製ウイスキー を生み出す。

その結果、出来上がったウイスキーはスコットランドのウイスキー と比較してよりフローラルで柔らかく絹のような舌触りとなっている。 ニッカの余市蒸留所は、単式蒸留釜を蒸気ではなく石炭の炎で温める。 それによってシングルモルトはより芳醇(ほうじゅん)でビート(草木 が枯れて堆積した泥炭)のようなフレーバーになる。

サントリーの「山崎」の蒸留所ではミズナラで作られた真新しい樽 が利用されるため、お香とサンダルウッド(白檀)のアロマが香る。天 候と地形もフレーバーに重要な影響を及ぼす。標高の高い日本アルプス 南部にあるサントリーの白州蒸留所で製造されたウイスキーは特に清純 で切れがある。

希少性も人気

日本のウイスキーに対する関心が高まっている理由の一つは、「新 しく、ユニークで、入手し難いウイスキーを人々は飲みたがるからだ」 と、米カリフォルニア州のK&Lワイン・マーチャンツで蒸留酒バイヤ ーを務めるデビッド・ドリスコル氏は指摘する。

収集用に最も珍重されるのは、既に閉鎖された日本の蒸留所で製造 されたシングルカスク(一つの樽のモルトウイスキーだけを瓶詰めした ウイスキー)ボトルだ。英国を拠点とするナンバー・ワン・ドリンクス は、現在残っているカスク「軽井沢」364本の販売権を取得。1967年に 蒸留されたこの伝説のウイスキーはタバコの葉やシェリー、ダークチョ コレート、焙煎コーヒー豆の香りをたたえ、2009年に380ドル(現在の レートで約3万9000円)で販売された。現在の価格はその10倍。

同じくらい希少なウイスキーは「イチローズモルトカード」だ。製 造した埼玉県の羽生蒸留所は既に閉鎖。ラベルにはトランプのカードの 絵柄が描かれている。競売会社ボナムズが昨年11月に香港で開催したオ ークションでは13本セットに1万2642ドルの値が付いた。

日本のウイスキーは単に日本で作られたスコッチというだけではな い。日本産は調和と緻密さに基づく繊細な魅力という点でとりわけその 違いを際立たせる。頑丈なスコットランドの民族衣装キルトというよ り、幽玄なる禅寺の庭園だ。至高のウイスキーは日本国内でも見つける のが容易ではないが、探すだけの価値はある。

(マッコイ氏はブルームバーグ・ニュースでワインやスピリッツに ついて執筆しています。この記事の内容は同氏自身の見解です)

原題:Japanese Beat Scots as Distillers With Whisky at Auction Premium(抜粋)

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