「持ち家の夢」しぼむ派遣法改正、市場二極化-住宅ブーム打撃も

横浜市に住む鈴木桃子さん(28)は 昨年12月、5年間正社員として勤めたフェリー運航会社を辞めた。現在 は別の会社で派遣社員として働きながら、翻訳家を目指す。年収は240 万円と4割減。以前は「自分の家を持とうと考えたこともあった」とい うが、「派遣社員なので難しい」とあきらめかけている。

政府が今国会に提出した労働者派遣法改正案が成立し、来年4月に 施行されると、派遣労働者が一段と増加。昨年の首都圏マンション発売 戸数が6年ぶりの高水準となるなど住宅販売が活気づいている一方で、 持ち家取得を断念する若い人が増える可能性がある。

現在は一つの職場で派遣社員の受け入れ期間は最長3年。改正案で は3年ごとに入れ替えれば、派遣社員を無期限に雇うことが可能とな る。政府は派遣雇用の安定化などが目的としているが、日本弁護士連合 会の山岸憲司会長は1月、例外的にしか認められないはずの「派遣労働 の固定化につながる」との反対声明を発表した。

改正案はまた、派遣期間が終わった後に人材派遣会社が企業に直接 雇用を申し入れることなどを義務付けているのに対し、富士通総研の上 席主任研究員・米山秀隆氏は、「実際に正社員への道が開けるのは難し い」と指摘。派遣法改正は住宅市場にも影響を及ぼし、ローンを組んで 家を買える正社員と不安定な非正規労働者との間で、「住宅市場の二極 化が加速化していく」との見方を明らかにした。

アベノミクス効果で大企業を中心に業績は回復し、一部企業でベー スアップが実現。失業率は昨年12月に3.7%と6年ぶりの水準まで低下 した。半面、厚生労働省の調査では昨年の非正規社員数は過去最高の 約1906万人で、全体に占める割合は36.6%。ドイツ証券の大谷洋司アナ リストは20年までに50%まで増えると見込んでおり、「派遣社員の増加 は住宅市場に大きな打撃だ」と懸念を示した。

所得格差

国土交通白書によると、家庭を築く世代である30歳代の持ち家比率 は08年で39%と、83年の53.3%から大きく低下した。住宅生産団体連合 会は30歳代前半の持ち家比率が20年に25%まで落ち込むと予測する。マ ッコーリーキャピタル証券のシニアアソシエイトアナリストの石野なつ み氏は、所得の減少や晩婚化の進展もあり、「持ち家より賃貸住宅に住 む人が今後増える」と話す。

新築マンションの最大の購入層である30-40歳代では、所得格差は 拡大している。厚労省の資料では、正社員の平均月給は30-34歳の約27 万円から40-44歳で約34万円に増加するのに対し、非正規社員は約19万 円でほぼ横ばい。

住宅金融支援機構の住宅ローン「フラット35」の適用金利は1.48% (返済期間20年以下)と過去最低となり、住宅販売の下支え要因。多く の銀行は派遣社員という理由だけで住宅ローン申し込みを拒むことはし ていないというが、「非正規雇用者は正社員と比べて借りにくい」と住 宅情報のSUUMOは指摘する。

賃貸市場

新築の持ち家取得が難しい人々が増えている中で、住宅業界では賃 貸住宅に堅調な需要を見込み、力を入れる企業も出てきた。最大手の大 和ハウス工業は中期経営計画(13-15年度)で主力6事業のうち賃貸住 宅について、15年度に8000億円の売上高目標を掲げた。これは事業別で 最大規模で、戸建て住宅(3850億円)の2倍以上となる。

集合住宅事業推進部・営業統括部の山下正記部長は、晩婚化の傾向 もある中で、「単身女性が好むような賃貸住宅を供給しようというのが 戦略だ」と話す。積水ハウスは過去3年間で賃貸住宅事業の売上高伸び 率が28%に達し、戸建て住宅の14%を上回った。阿部俊則社長は「賃貸 住宅はまだまだ増えると思う」という。

24日の株価終値は大和ハウスは前日比0.6%安の1733円、積水ハウ スは同1.7%安の1209円。

富士通総研の米山氏は、大手の住宅メーカーやデベロッパーが中古 物件の「リフォーム事業に力を入れている」と述べた。

ハウジングプア

NPO法人ビッグイシュー基金のリポートによると、高度成長期の 日本は中間層が拡大し、政府は政策融資や公団住宅建設など持ち家促進 策を進めた。一方、90年代のバブル崩壊後は中間層が縮小し続け、住ま いに困窮する人たちがますます増える可能性があるとしている。

生活困窮者の自立を支援する都内のNPO法人「もやい」。94年か ら支援活動をしてきた稲葉剛理事長は、当初は年輩の日雇い労働者が対 象だったが、過去の法改正で派遣労働が解禁された影響で「04、05年ご ろから20-30歳代の非正規労働者の相談が増え、今は3割を占める」と 話す。

稲葉氏は、派遣労働者は「雇用が不安定で、いつでもハウジング・ プアに陥る可能性がある」と分析。失職してアパートも借りられず、ネ ットカフェや脱法ハウス暮らしを強いられる人も多いという。

米山氏は、低家賃の公営住宅や家賃補助など安全網拡充が必要と提 言している。東京都住宅供給公社によると、都営住宅の新築は00年以来 凍結され、昨年11月の応募倍率は28.5倍に達しているのが実情だ。

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