サイバーダインのロボスーツ、高齢化挑む-ルーツは少年の夢

医療・福祉向け人支援ロボットを手 掛けるCYBERDYNE(サイバーダイン)が26日、マザーズ市場に 新規株式公開(IPO)する。高齢化社会に役立つ新製品の開発、普及 へ起業の道を選んだ山海嘉之最高経営責任者(CEO)は4時間に満た ない睡眠時間で、小学生時代に抱いた夢の完成へ奔走している。

2月の福岡大学病院のリハビリテーション室。脳内出血による両下 肢まひで、歩行訓練中の54歳男性患者を手助けするのは専門スタッフで はなく、人の動作を補助する装着型のロボットスーツ「HAL」だ。同 病院はHALを導入する170施設(約400台)のうちの1つで、4台を保 有。福岡大医学部・神経外科の左村和宏助教授は、パソコンに送られて くる男性患者の神経系信号を確認し、HALの力を調整している。

同学部の井上亨教授は、1995年に筑波大学教授でもある山海氏の講 演でHALのプロトタイプを初めて見たとき、「これは良い」と直感し た。井上教授によると、最近は内視鏡などの手術方法の変化で患者の回 復が早まり、リハビリもしやすくなってきた。通常のリハビリでは効果 を測定するのは難しいが、「ロボットを使うと、患者が重心の移動を画 面で見てトレーニングするので、自分の目で理解できる」と導入のメリ ットを説明する。

アシモフで芽生えた科学者像

サイバーダインが開発したHALは、人間が体を動かす際に出る脳 から脊髄、運動神経、筋肉へ至る微弱な電気信号を皮膚表面のセンサー で検知し、装着者の体の一部のようにロボットが動く仕組み。脳や神経 の疾患で弱くなった信号を読み取り、動作をロボットが補い、脚などを 動かすことで感覚神経の情報が再び脳にフィードバックされる。この循 環が障害部位の治癒を促しており、同社によると米欧日中など主要国で 原理そのものが特許の内容となっている。

山海氏は幼稚園児のころ、毎日自分の手を見つめる癖があり、「動 かそうとすると思ったように動く。不思議で不思議で仕方がなかった」 と言う。SF好きの少年が風邪で寝込んでいた小学校3年生の折、母親 が買ってきた本がアイザック・アシモフの「アイ・ロボット」で、同氏 が科学者に憧れるきっかけになった。

「ぼくは、大きくなったら科学者になろうと思う。自分の研究所で ロボットをよりすぐれた物にしようと思う」--。山海氏が小学校高学 年のときに書いた作文「ゆめ」の一節で、「科学とは、悪用すればこわ いもの」と少年はその決意を結んだ。「軍事用」「生活・医療・福祉 用」に二分されるロボット技術で、山海氏は後者に絞っている。

学術分野作りから出発

人間の脳神経とロボットを融合したHALのルーツは、多種多様な 実験三昧の日々を送った山海氏の少年時代にあり、「社会の課題は常に 複合課題しか存在していない。狭い分野の専門家になった瞬間、社会の 課題が解けない状態になりかねない」と、今も複眼力を大事にする。

そうした複眼力を発揮したのが、人、ロボット、情報系が融合・複 合した人支援技術の「サイバニクス」。山海氏は、複合課題を解決する ために「一つの学術分野をつくるところからスタートした」と話す。現 在のサイバーダインの事業領域も、脳神経系疾患の患者向けの機能改善 治療を行う医療用HALなどの医療機器、機能改善・機能再生治療サー ビスといった医療サービス、介護福祉用HALなど生活支援機器、生活 支援サービスに及ぶ。

山海氏は当初、HAL事業化へ大企業の支援を期待したが、「企業 は目の前に市場があるとき以外は動かない」と知り、自ら起業を決意、 誕生日にサイバーダインを立ち上げたのは2004年だった。内閣府が日本 を代表する最先端研究者30人を選んだ際の11年2月の研究進捗(しんち ょく)披露会で、同氏は「収益に関係なくやれば1-2年で終わり。本 当に社会に貢献しようとすれば、社会の中でビジネスを回す仕掛けがな いといけない」と語った。最終目標を学術成果に置かず、あくまで医療 機器として患者に届け続けたいとする信念は当時も今も変わらない。

研究成果を早く社会に還元させたいと、山海氏の睡眠時間は1日3 時間半から4時間。1年の3分の1を海外で過ごし、この15年は「ほと んど職場か自宅のソファで『あぁ、きょうも生きたなぁ』と思い、気が ついたら倒れて寝ていることが多い」と多忙な日々を振り返る。

設立10年で上場、B種類株も導入

起業から10年目での株式上場を、サイバーダインの成長加速への好 機にしたいと山海氏。先進国を中心に進む高齢化は、病気にかかり、身 体・認知機能の低下していく人々が増えることを意味し、同社ロボット の普及を通じ、「多くの人が抱える制約を一つ解除し、自由度の高い生 き方ができる」ことを同氏は期待し、目指している。

いちよしアセットマネジメントの秋野充成執行役員はサイバーダイ ンについて、世界的な高齢化でリハビリ需要は大きいが、「他に市場に アクセスできる製品がなく、日本発で世界に通用する製品になると思わ れている」と言う。扱う製品が投資家からも分かりやすく、「明るい展 望を描きやすい」と市場での前評判の高さを指摘した。

17日に決まった公募価格は3700円。14年3月期の業績計画は売上高 で4億6900万円、研究開発費の負担が重く、経常損失は6億4600万円を 見込む。有望な製品を手掛ける一方、費用先行の体質から「市場ではバ イオベンチャーと同じ認識で取り組む投資家が多い」と水戸証券投資情 報部の岩崎利昭チーフオフィサーは話す。

B種類株も発行

サイバーダインは、今回上場する普通株式のほか、非上場のB種類 株式も発行。B株は普通株に比べ10倍の議決権を有し、山海氏と同氏が 代表理事を務める財団のみが保有する。米フェイスブックなどにもみら れる議決権数の違う複数の株式を発行する企業の上場は、日本取引所グ ループによると、日本で初めて。

山海氏はB株導入の狙いを、平和目的での技術利用に限定したいほ か、上場後の企業価値向上のラインナップを最短コースで出せるように 支配権を集中させ、会社が社会の産業づくりの軸になるときに合併・買 収(M&A)で「突然消えないようにするため」と説明した。

生活・医療・福祉用のロボット分野では、トヨタ自動車が介護・医 療支援向けなどで人の活動をサポートするパートナーロボットを開発 し、早期実用化に向け医療・介護現場での実証実験を積み重ねている。 ホンダは未来への技術開発として、「ASIMO」をベースに人の「歩 行アシスト」などヒューマノイドロボット研究を行っている。

欧州で認証取得

サイバーダインのHALは、欧州連合(EU)で医療機器としての 認証を既に取得、ドイツでは昨年8月からHALを利用した機能改善治 療に対して公的な労災保険の適用が始まり、子会社が治療サービスを行 っている。日本は、昨年3月から医師主導で治験を実施中。米国は、認 証について米食品医薬品局(FDA)との折衝の準備段階にある。

臨床試験を始めて間もなく、「今までのリハビリとHALを使った リハビリのどちらが優れているか、まだ全く分からない」と福岡大病院 の井上教授。ただ、HALの技術はノーベル賞に値するとし、「新しい が、すごく良いと手ごたえを感じている。ことし100例になり、有効性 の論文を書き始めたい」と同教授は言う。

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