悩めるトレーダーに救いの手-金融業界向けコーチングが浸透

グレアム・デービッドソン氏は人生 最悪のスランプに陥っていた。為替トレーダーとしてシドニーやニュー ヨーク、ロンドンで活躍した15年間で常に利益を上げてきたが、2011年 冬になると、腕が鈍ってしまったように感じられた。ブルームバーグ・ マーケッツ誌4月号が報じた。

取引はすべて大幅赤字となり、気分は真っ暗。どの決断も自信喪失 がつきまとい、取引の実行をちゅうちょした。トラブルの兆しが少しで も見えればすぐにポジションを解消したが、氏の不安をよそに相場は反 転し、上昇していった。

「私のやり方はまだ通用するのか、どれぐらい我慢すればいいのか 自問するようになった」とデービッドソン氏は打ち明ける。

ナショナルオーストラリア銀行(NAB)のロンドンオフィスで勤 務していたデービッドソン氏(41)は、助けを求めることを決心した。 同僚の勧めで選んだのが、スティーブン・ゴールドスタイン氏だ。トレ ーダーやマネーマネジャー向けのコーチングを専門に行う元トレーダー の同氏と言葉を交わすだけで、不安が和らぐとデービッドソン氏は話 す。

デービッドソン氏は「トレーディングデスクでは虚勢を張ることが 多い。取引の話はするが、とりとめのない自分の感情は話題にしない」 という。ところがゴールドスタイン氏から心理学を応用したコーチング を定期的に受けるようになり、自信を回復し始めた。

隠れた強み

スポーツの世界から企業の重役室には何十年も前に普及したコーチ ングだが、金融取引への浸透は遅れていた。しかし、今や状況は変わり つつある。多くのアクティブ運用ファンドのパフォーマンスが市場の指 数に勝てない状況が5年も続き、トレーダーやファンドマネジャーは、 自分の強みを見いだそうと躍起になっている。

多くの資産運用会社はコーチを利用しているかどうか明らかにして いないが、ブレバン・ハワード・アセット・マネジメントやGLGパー トナーズ、チューダー・インベストメントのほか、インサイダー取引で 米当局と昨年11月に和解したスティーブ・コーエン氏のヘッジファンド 運営会社SACキャピタル・アドバイザーズ、ドイツ銀行の資産運用部 門は利用を認めている。

金融業界のコーチは顧客のリターン改善を目指し、スポーツや東洋 哲学、神経科学など幅広い分野の手法を応用する。さらに投資家とその コーチが隠れた強みや弱点を発見するのに役立つ膨大な統計を提供する 新手のソフトウエア会社も現れた。

「マネーボール」式

クレア・フリン・レビー氏は昨年、そのようなソフトを開発するた め、ロンドンのノッティングヒル地区に拠点を置くエッセンシア・アナ リティクスを創業した。アボセット・キャピタル・マネジメントやドイ チェ・アセット・マネジメントのマネーマネジャーだったレビー氏 (40)は、オフィスの壁に映し出された数々の指標を指差し、「これら は基本的に『マネーボール』式だ」と説明した。

「マネーボール」とは、米大リーグのオークランド・アスレチック スのゼネラルマネジャー(GM)を務めたビリー・ビーン氏に関するマ イケル・ルイス氏の03年の著書のタイトル。同氏はデータを駆使して他 球団の目に留まらなかった才能のある選手を発掘し、資金力で勝るライ バル球団に対抗できるチームにアスレチックスを変貌させた。

レビー氏によると、顧客の大半が報酬を左右する利益と損失に注目 するが、運次第という面が大きいため、利益と損失にはトレーダーやフ ァンドマネジャーの技量を物語る要素はほとんどないという。

レビー氏が注目する指標はより明快だ。重要な指標の一つは、ツイ ッター株が今後3カ月で上昇するというような投資家が考える投資方向 性が正しかった割合を示す「ヒット率」であり、投資の成功で得た利益 を投資の失敗で被った損失で割った「ペイオフ比率」だ。

存在の危機

パフォーマンス分析やコーチングへの関心の高まりは、トレーダー の危機感も背景にある。S&Pダウ・ジョーンズ・インデックスの最新 データによると、昨年6月までの5年間を見た場合、アクティブ運用を 行う米株式ファンドの72%余りが、S&P1500種株価指数をパフォーマ ンスで上回ることができないでいる。

ブルームバーグが集計したデータによれば、運用資産が10億ドル (約1030億円)を上回る米国のヘッジファンドの年間平均リターンは07 年以降、S&P500種よりも良かったためしがない。

きょう利益が出なくても

コーチングは値段だけの価値があると主張し、正しい精神状態であ れば、忍耐力を維持する自信があると語るデービッドソン氏だが、「全 てのボールにバットを振る必要がないことは分かっているが、そのよう な精神状態に達するのは難しい」という。

ゴールドスタイン氏はコーチングの際、心理学の手法の一つである 認知再構成法を用い、最近被った損失をキャリア全体の文脈の中でとら えるようデービッドソン氏に勧めた。

同氏は「自分にプレッシャーをかけないことを学んだ。損失を被っ たらできるだけ早く資金を取り戻さなければいけないと感じ、それが悪 循環を生む。だが、今では『きょう利益が出なくても大きな問題ではな い。1年には250営業日あるから時間はまだ十分ある』と考えるように なった」と振り返る。

時間がデービッドソン氏の味方をしてくれたようだ。12年末までに 同氏の運用成績は再び黒字となり、14年の最初の数週間も相場の乱高下 にもかかわらず、黒字を維持している。

原題:Traders Borrow Coaching Tools From Sports to Beat Market Indexes(抜粋)

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