【米経済ウオッチ】雇用統計の幻想を払うと「危険信号」点滅

米国の雇用者数が2月に市場予想を 上回ったことから、景気の先行きを楽観する声が高まってきたが、1カ 月の統計で即断するのは禁物だ。それは米国の労働市場は月ごとに大き く変化するからであり、季節調整により実体からかけ離れたイリュージ ョンを見ていると言っても過言でない。この幻想を振り払うと景気循環 の分岐点が見通せる。

例えばことし1月は原数とよばれる季節調整前の全雇用者数(農業 を除く)が284万人も減少していた。これが季節調整で12万9000人の増 加と、およそ300万人も上乗せされたわけだ。

一方、2月は逆に雇用が増える時期にあたり、季節調整前の原数で は75万人も増えている。これが季節調整で17万5000人のプラスに削られ たものだ。これほど大幅な季節調整が加えられるため、季節調整係数の 微妙な変化などで、上下に最大9万人の誤差が生じると統計を作成する 当の労働省も認めている。

労働省は米国民が一目で雇用の実体を捉えられるようにと、季節調 整を加えているわけだが、市場参加者はコンマ1秒を争う喧騒(けんそ う)の中で事前予想とのほんのわずかな違いを手掛かりに売り買いを即 座に判断する。

市場の喧騒が育むイリュージョン

一波乱が過ぎると重要統計でもすぐに忘れ去られ、細目まで確認す る市場参加者は決して多くない。そして別の統計へと関心が向かい、1 カ月経過すると前月の米国経済を最大限に網羅した最も早い統計とし て、再び雇用統計が米国はおろか世界の注目を集める。こうした興奮が 繰り返される中で、季節調整により厚化粧が施された統計はイリュージ ョンを演出していく。

それではこのイリュージョンを払しょくするにはどうすれば良いの だろうか。まず季節調整前の原数の月間変動を前の年の同じ月と比べる と、別の視点が得られる。ことし2月の75万人の増加は、2013年2月 の103万8000人増加を28万8000人も下回っている。2年前の12年2月 (95万4000人増)と比べても20万4000人も少ない。

季節調整前の原数を中長期にわたって眺めていくと、これから景気 回復が加速するというシナリオは描きにくい。09年6月に景気の谷を経 過したあと、強力な回復は既に終わり、持続的な成長過程から減速の段 階に移行してきたとみるのが自然だ。問題はいつ景気の山を形成するか に移ってきた観がある。

季節調整の深淵

今年2月は雇用統計の調査週に寒冷な天候に見舞われたため、その 影響が出たのではないかという疑問も生じるだろう。この天候要因を見 極める手掛かりがある。それは雇用を維持できたものの、天候の悪化で 仕事ができなくなった人々の数を比べることだ。この統計は季節調整前 で、家計調査によるものなので、市場が注目している事業所調査による 雇用者数と直接比べることはできないが、天候の影響をある程度イメー ジすることは可能だろう。

それによると、今年2月に悪天候で働けなくなった雇用者の数は60 万人だった。この数値は確かに高いが、10年2月の103万人を大幅に下 回っている。11年2月も40万人が働けなくなっていた。こうした高い数 値は季節調整係数に反映されているので、今年2月の季節調整後の数値 が押し上げられていることも考えられる。

例えば前回の景気後退入りを10カ月後に控えた07年2月と比べてみ よう。この時の雇用者数は原数が69万人増で、季節調整で8万8000人増 に修正されていた。07年当時と同程度の季節調整を今年2月の原数(75 万人増)に施すと雇用者数は9万5000人増となる。先月の季節調整値で ある17万5000人増を8万人も下回る水準だ。

これは単なる天候という自然現象だけではなく、07年12月から09年 6月まで続いたグレートリセッション(深刻な景気後退)により米国経 済が構造変化を来している証拠でもある。ここでは構造問題には立ち入 らないが、季節調整後の数値を単純に過去と比べて、これから景気が加 速するなどと即断すると見通しを誤りかねないことは明白だろう。

小売項目が示唆する分水嶺

いずれにせよ、市場が注目する雇用統計の全項目の平均値は景気の 動向に遅行するので、個別の項目を丹念に分析すると先行きがより明確 になる。

世界最大の消費国の景気を見通す上で威力を発揮するのは小売部門 の雇用者数だ。小売業では1月に雇用が季節調整後で2万3000人減少。 2月も4000人減少して2カ月連続マイナスに陥った。小売り全雇用者数 は今回の景気拡大局面では昨年12月の1526万人がピークになる可能性が 出てきた。

今世紀のピークは07年11月の1558万人だった。その前のピークは01 年2月の1538万人で、いずれもその翌月に景気後退に陥っている。この パターンが繰り返されるとすれば、今年1月に景気が転換点を迎えた可 能性がある。

1月は労働省の悪天候の影響に関する統計をみても、例年と比べそ れほど高い水準ではない。その1月に小売部門の雇用者数が2万3000人 減と、09年12月以降で最大のマイナスを記録したのである。米国の景気 敏感セクターで大きな亀裂が走ったのかもしれない。

(米経済ウオッチの内容は記者個人の見解です)

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