体力勝負アナリスト辞めます、元外資マン個人に長期投資指南

数千万円の給与と外資系証券ディレ クターの肩書を捨てた原田慎司氏(35)は今、東京・兜町にある証券取 引所近くの小さなオフィスで働いている。かつて通った東京駅を見下ろ す高層ビルから仕事場を移したのは、個人投資家向けの株式調査リポー トを提供するためだった。

ヘッジファンド全盛の中、3年後ではなく、3日後にどうなるかが 求められることが主流となり、証券アナリストとして「大手で働く面白 さはなくなった」と感じた原田氏。昨年2月に米シティグループ証券の テクノロジー担当アナリストを辞め、元フィデリティ投信調査部の泉田 良輔さん(37)と会社を設立した。同年6月から、個人向けの日本株投 資アイデア分析サイト「Longine(ロンジン)」を運営している。

アベノミクスに沸いた2013年の日本株は、海外投資家を中心とした 買いでTOPIXが51%上昇、先進24カ国の主要株価指数の中でトップ だった。長期低迷の辛酸をなめた個人投資家も市場へ回帰し、個人の売 買代金は同年5月に57兆円と過去最高を記録。ことしに入り、個人の一 段の市場参加を促す少額投資非課税制度(NISA)も始まった。

機関投資家にはアナリストからの情報があふれる一方、個人向けは 「トレードツールこそ充実しているものの、投資情報は目を見張るもの がない」と、原田氏は指摘。泉田氏も、フィデリティ退社後に実際に株 の売買を始めようと大手証券会社の支店を訪れた際、またインターネッ トなどで調べた際に個人向け情報の少なさを痛感した。

ロンジンは月額1050円でリポートが読み放題というサービスで、元 シティやJPモルガン、三菱UFJモルガン・スタンレーなど各証券出 身のアナリストなど、経験豊富な10人が情報を提供している。サイトの 登録者数は現在4000人弱。スタート直後の昨年6-7月の1000人以下か ら徐々に増え、機関投資家やヘッジファンドの会員もいる。

分析より体力、分単位の材料探し

原田、泉田両氏が日本の証券界に足を踏み入れた10年前は、アナリ ストの生活はゆっくりとしたものだった。企業は四半期決算や月次の数 字を公表しておらず、株式売買の材料となるデータ量も現在に比べ圧倒 的に少ない。生命保険会社や信託銀行など、長期的な買い持ち戦略の 「バイ・アンド・ホールド」の投資家が日本株相場に影響力を持ち、長 期的分析への需要が存在していたと原田氏は振り返る。

しかし現在は、証券会社の委託手数料は分単位の売買を行うヘッジ ファンドへの依存度を高めている。洗練された投資アイデアより、決算 内容の要点まとめなどが求められるアナリストにとって「分析の必要が なく、むしろ必要なのは体力。顧客は小さなイベントを見て、株価にプ ラスかマイナスかばかりを気にしている」と原田氏は言う。

「最近読むリポートは本文が2ページで、ディスクレーマー(免責 事項)6ページといったものが多い」--。米国の投資ファンドで、日 本株投資も行うタイヨー・パシフィック・パートナーズの最高経営責任 者(CEO)、ブライアン・ヘイウッド氏が証券会社から日々送られる 大量の調査リポートに抱く印象だ。証券会社発行のアナリスト、ストラ テジストリポートの文末には必ず、投資対象の勧誘ではなく、法律に則 した情報提供が目的などとした免責事項が記述されている。

「知らなかったというリポートはほとんど見ない。アナリストはわ れわれのような長期投資家向けには書いておらず、分単位のトレードの 材料を探している」と、既存の証券会社アナリストに対するヘイウッド 氏の評価は手厳しい。

バブル経済の崩壊やデフレによる景気低迷の長期化に直面してきた 日本の証券会社は、相場低迷の中で経費削減を余儀なくされた。タイヨ ーによると、日本の証券会社所属の株式アナリストは12年に440人 と、1993年の875人に比べほぼ半減。トヨタ自動車やソニーなど日本を 代表する大手企業は、同じ規模の海外グローバル企業と同程度のアナリ ストが調査対象としているが、日本の中堅、小型企業に対するカバー力 は弱いのが実情だ。

個人向け、中小型株に調査需要

日本の金融界向け人材紹介とコンサルティングを行うティーエムジ ェイ・パートナーズの最高執行責任者、マーク・ピンク氏はこうした環 境下で「人々に企業家精神が出てきた」と分析。またここ数年、「レイ オフがあまりにも多かった上、12カ月間の株式市場の活性化で、新たな 投資家による需要が生まれている」と指摘する。

原田氏のロンジンで在籍アナリストが推奨した17銘柄(3社は目標 株価達成を理由に推奨終了)のうち、推奨から高値までのパフォーマン スのトップは、成長への仕組みができていることや3D関連として評価 したローランド ディー.ジー.の64%高。次いで現在は推奨を終えて いるオムロンの53%となっている。原田氏は、日本株は継続的に下がり 続ける環境から脱したが、長期投資に耐えられる企業数は日本国内で も50-100銘柄程度に限られるなど決して多くはなく、「推奨銘柄数は 絞り込むことが大事」と考えている。

ロンジンの対象は、売買モニターに張り付いているデイトレーダー ではなく、資産運用をしたいが、具体的な方法の分からない個人投資家 らだ。運用のプロが見ているレベルの調査リポートを低価格で提供し、 裾野を広げたいと原田氏は抱負を語る。売買手数料に依存せず、中立的 な立場で広告を取らない関係から、「短期トレードをけしかけるメリッ トはない」とも言う。

サービスを立ち上げた後は「個人投資家が情報を使いこなす能力は 思った以上に高いと分かり、やりがいがある。中には機関投資家並みの ビュー(見識)を持っている人がいることには驚いた」と原田氏。短期 売買が全盛と言われる中でも、「長期なら株式投資はパフォーマンスが 高いことを分かっているため、長期で投資を考えている人が多い」と、 自身が立ち上げたニュービジネスに商機を見出している。

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