影の銀行でのつまずき恐れる中国政府-「連鎖反応」阻止へ

中国南部でアパレルメーカーを所有 する杜栄海さんは、中国工商銀行の担当者から緊急の電話を受け取っ た。年利10%が約束されている投資機会についての話だった。特別な数 人のためだけに紹介しているのだと告げられた。

杜さんはその翌朝、飛行機に飛び乗った。故郷の黒竜江省ハルビン からの4時間のフライトだ。その日の午後、広東省広州市にある工商銀 の店舗での契約書を目にした杜さんは、契約内容を自身で読むことを求 められ、300万元(約4900万円)の投資を決めた。初めて買った高利回 りのシャドーバンキング(影の銀行)商品だった。担当者はこの信託商 品は素晴らしく、工商銀の行員もこの商品を買うためにお金をためてい るのだと杜さんに言い続けた。

杜さんは約2年前のこの出来事を思い出す。「当時は何も知らなか ったが、リターンがあまりにも魅力的だった。もし私が今買わなけれ ば、数秒後には他の誰かが買ってしまうというような話だった」と話 す。杜さんはその時、工商銀に約3000万元を預金として預けていたが、 年利は3%に満たなかった。「もし工商銀を信用することができなかっ たら、他の誰を信じることができるのかと思った」と語る。

杜さんを含め700人余りの工商銀の顧客が中誠信託が発行した「誠 至金開1号」に計30億元を投資した。中誠信託は影の金融業における銀 行と借り手を仲介する免許を付与された67社のうちの1社だ。今年1 月、中国で少なくともこの10年で最大の信託デフォルト(債務不履行) に近づき、ぎりぎりで救済策が示されるまで世界の市場を動揺させたの がこの商品だ。

全人代

今回の問題で浮き彫りになったのがシャドーバンキングのリスク だ。個人や中小企業を対象とした地下金融が過去3年間で複雑かつ相互 に結び付いた金融ネットワークに発展した。JPモルガン・チェースは その規模を7兆7000億ドル(約784兆円)と試算。このネットワークは 国内最大級の銀行や国有企業に加え、地方政府や数百万もの世帯を巻き 込んでいる。

こうしたさまざまな資金が絡まり合った状況は、景気減速の中で、 与信抑制や国有銀行へのデフォルト増加の影響遮断を狙う政府の取り組 みを一段と難しくしている。サンフォード・C・バーンスティーンのア ナリスト、マイク・ワーナー氏(香港在勤)は1月22日付のリポート で、リスクの高い企業や地方政府系の借り手への信託など通じた銀行の 簿外融資を6兆6000億元と推計。この金額は銀行の株主資本の80%超に 匹敵し、過去3年間に年率65%の伸びを示したと指摘した。

北京で全国人民代表大会(全人代、国会に相当)が5日に開幕する が、規制対象外の融資の取り締まりに向けた当局の取り組みが、金融の 安定を脅かす事態を招きかねない。ムーディーズ・インベスターズ・サ ービスの郭書岑アナリスト(香港在勤)は、「連鎖反応で1つの商品の 破綻が多くの商品のデフォルトにつながる可能性がある。信託商品を発 端とするシャドーバンキングの崩壊が金融システム全体に波及すれば、 銀行などの利害関係者を突き落すことになる。どんなつまずきでもシス テム危機の引き金になり得るとの恐怖が、政府が極めて慎重になってい る理由だ」と述べた。

工商銀の広報担当者(北京在勤)はコメントを控えている。中誠信 託の取締役会秘書に数回電話したが応答はない。杜さんは自身が買った 商品がデフォルトに陥る可能性があることを知り、直ちに資金を取り戻 そうとしたが駄目だったと言う。当時の担当行員が別の銀行に転職して いたことだけが分かった。

--Jun Luo、Zhang Dingmin, 取材協力:Aipeng Soo、Steven Yang. Editors: Sheridan Prasso, Robert Friedman

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