【コラム】マネーで愛が買えなかった黒田総裁の1年-ペセック

「あなた方の出番ですよ」――日本銀 行の黒田東彦総裁は先週、こういうメッセージを政治家らに届けようと した。しかし彼らは聞く耳を持たないようだ。

次々と交代する首相たちと財務省当局者らは15年にわたり、日銀に 責任をなすり付けようとしてきた。日銀がもっと思い切ってやってくれ れば、デフレはとっくに終わり日本企業は再び世界に君臨、国民の生活 水準はウナギ上りになっていたはずなのに、という議論だ。安倍晋三首 相もそう考えたから、1年前に黒田氏を日銀総裁に据えることを決め た。期待にたがわず、黒田総裁は金融政策の「衝撃と畏怖」作戦で応じ た。総裁は昨年4月、2014年末までにマネタリーベースを270兆円に拡 大させる異次元緩和策を発表した。

しかし奇妙なことに、これだけのマネーも日本の問題を解決してい ない。日銀の積極的な政策で引き起こされるはずの好循環は、まだ起こ っていない。円相場の20%下落は日本国民の生活水準を上げなかった。 企業に賃上げを決断させもしなかった。日本でインフレが起こっている としても、それは悪いインフレだ。燃料の輸入価格上昇が消費者物価を 押し上げ、企業と消費者の信頼感を損なっている。

黒田総裁の最初の1年の主たる功績はむしろ、マネーがすべてを解 決するという議論に終止符を打ったことだ。日本の問題はマネー不足で はなく、その使い方にあった。人々が借り入れ、銀行が貸し付けるとい うことが行われなければ、金融政策はその乗数効果を発揮して経済を再 生させることはできない。さらに日本の人口高齢化や中国からの影響拡 大など、デフレ要因は依然として数多い。お金で愛が買えないように、 マネーの山は日本の繁栄を買ってはくれない。要するに、「クロダノミ クス」だけでは力不足だ。

20年で最大のチャンスが消える

だからこそ黒田総裁は先週、周到にスポットライトを安倍首相の方 に向けた。総裁は先週、状況を放置はしていないとの印象を与えるため に一部の融資プログラムを拡充し、中銀総裁らしく物価安定の維持につ いてもっともらしい言葉を並べた。しかし先週の日銀会合の本当の意味 は、安倍首相が自らの仕事をしなければならないということだ。首相は 自身の「アベノミクス」の肝である構造改革を断行しなければならな い。法人税改革や貿易障壁の除去、イノベーションの促進、女性の活 用、労働市場の開放などだ。これができなければ、活気のある経済成長 を再来させるこの20年で最大のチャンスが水泡に帰す。

日本株のこのところの不安定は、投資家が黒田総裁と懸念を共有し ていることを示すものだ。投資家は安倍首相の大言壮語にだまされた思 いと、首相の約束が実現するまで今少し待つしかないという気持ちの間 で揺れている。政府が早く行動しなければ、日経平均株価を昨年57%押 し上げるのに寄与した海外資金の多くは逃げていくだろう。

もちろん、黒田総裁は量的緩和(QE)策をさらに拡大することは できる。日本株の不安定な動きが続きアベノミクスへの疑問がさらに深 まるようならば、総裁には選択の余地がなくなるだろう。しかし、日銀 はこの1年、一人で大仕事をやってきたのだから、今度は政府の番だ と、総裁は首相にはっきりと訴えているようだ。

日銀のマネー大盤振る舞いは、日本の成長モデル再生という責務に 対する政治家と官僚の切迫感を眠らせてしまった。円安が企業から競争 力強化という肩の荷を降ろさせたのと同じだ。化石化しそうな日本経済 を再生させるには徹底的に改造するしかない。安倍さん、出番ですよ。 (ウィリアム・ペセック)

(ペセック氏はブルームバーグ・ビューのコラムニストです。コラムの 内容は同氏自身の見解です)

原題:BOJ’s Kuroda Finds Money Can’t Buy Him Love: William Pesek (抜粋)

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