エタノール伝道師は夢想家ではない-錬金術で危機をチャンスに

昨年11月21日のことだ。マンハッタ ンの投資家会合でのスピーチの準備を行っていた米エタノール生産会社 グリーン・プレーンズ・リニューアブル・エナジーのトッド・ベッカー 最高経営責任者(CEO)は、「iPhone(アイフォーン)」が表 示する相場のデータから目が離せないでいた。エタノールの価格上昇と その原料であるトウモロコシの値下がりが重なり、エタノールの潜在的 利益が過去6年間でめったに見られない水準に押し上げられていたから だ。

ベッカー氏は当時、銀行融資を待とうとは思わなかったとブルーム バーグ・マーケッツ誌3月号が報じている。同氏は部下に命じてグリー ン・プレーンズの手元資金の3分の1に相当する1億800万ドル(現行 レートで約110億円)を送金させ、米バイオフューエル・エナジーの債 権者からネブラスカ、ミネソタ両州のエタノール工場を買収した。直ち に手を打たなければ、工場は競争相手の米バレロ・エナジーのものとな り、年間生産量を約3分の1増やし、10億ガロン(約378万キロリット ル)まで拡大するチャンスを逃すことを懸念したとベッカー氏は振り返 る。

ベッカー氏はエタノール業界の将来性にこのように強い自信を抱い ているが、この業界は2008年以降、少なくとも10件余りの破綻を経験し ている。バイオフューエル・エナジーが12年の干ばつのさなかにデフォ ルト(債務不履行)に陥ると、筆頭株主でデービッド・アインホーン氏 率いる米グリーンライト・キャピタルは、エタノール相場のボラティリ ティの高さの「犠牲者」となった。こうしたことから一部投資家は警戒 姿勢をなお崩していない。

政治問題

政治問題も山積している。大手石油会社はエタノール使用義務の撤 廃を目指し、今年の最優先の政策課題に位置付けている。政府当局の推 進姿勢も既に後退しており、ベッカー氏がバイオフューエルの工場を取 得する1週間前には、米環境保護局(EPA)はガソリンに混合するエ タノールの14年使用義務量を144億ガロンから約130億ガロンに引き下げ る案を発表した。ダイアン・ファインスタイン上院議員(民主、カリフ ォルニア州)とトム・コバーン上院議員(共和、オクラホマ州)はトウ モロコシ由来エタノールの使用義務の完全撤廃を目指している。

ファインスタイン議員は、エタノールには米国のトウモロコシ の44%が原料として使われるのに害ばかりもたらすと主張。食品の値上 がりや環境汚染に加えて、エンジン損傷につながる可能性を指摘した。 米環境団体EWGの政府問題担当バイスプレジデント、スコット・フェ イバー氏は米国産原油の増産に伴いエタノール需要が縮小していると述 べ、「エタノールは食品の消費者やドライバー、環境に関心を持つ人々 にとって厄介な問題だ」と強調する。

しかし、ベッカー氏の信念は揺るがない。同氏はネブラスカ州オマ ハにある同社本社の東部、州間幹線道路29号線でハンドルを握りなが ら、「これは一種の逆張り投資だ。しかしエタノールの需給関係は現 在、かつてなく良い状態にある」と語った。

ベッカー氏はエタノールについて、効率の良い高圧縮比エンジンに 必要な高オクタン価燃料であり、成長が見込まれると言明。フォード・ モーターなどはエタノール混合比が現行の10%を超えるガソリン車の設 計に取り組んでいる。また、エタノールの精製コストは1ガロン=1.92 ドルと、ガソリン精製に用いる石油製品よりも28%安い。同氏は「エタ ノールは自動車燃料で最も安価だ」と主張する。

「金を稼ぎたい」

「私は夢想家ではない。金を稼ぎたい」と語るベッカー氏は優れた 戦略家でもある。

ベッカー氏は2つの戦略に基づき、13年までの6年間でグリーン・ プレーンズを売上高30億ドル、従業員700人の企業に育て上げた。米イ ンペリアル・キャピタルのアナリスト、マシュー・ファーウェル氏が指 摘する通り、ベッカー氏は工場を安く買い、低コストで生産できる施設 に改造する。

グリーン・プレーンズは最新の先物やオプション、スワップを駆使 して商品相場の読み違いによる損失リスクを減らしている。さらに穀物 購入とエタノールの販売を一体的に行い、1日分を超えるトウモロコシ の在庫を抱えることはほとんどない。トウモロコシが値上がりした場合 には、エタノール価格への上乗せが可能だ。

ベラサン・エナジー

トウモロコシ価格が急騰した08年当時業界1位だった米ベラサン・ エナジーは、トウモロコシ相場のヘッジに失敗。7-9月(第3四半 期)に4億7600万ドルの損失を計上し、米連邦破産法11条に基づく会社 更生手続きの適用を申請した。

一方、グリーン・プレーンズはこの四半期の損失が88万ドルと比較 的軽微にとどまり、ベラサンの2工場を買収できる十分な資金が手元に 残った。

パイパー・ジャフレーの調査担当者、マイケル・コックス氏は原料 となる商品と製品を別々に取引する企業は、在庫膨張や大きな価格変動 のリスクにさらされると分析。生き残っている企業は現在、ベッカー氏 の戦略を採用していると話す。

このような手法が奏功し、グリーン・プレーンズは13年の時点で12 の工場を擁する生産能力で米4位のエタノール会社となった。

ベッカー氏は、議員らがエタノール使用義務の撤廃に動くことを確 信し、「それは時間の問題だ」と指摘。そうなればグリーン・プレーン ズがさらに売り上げを増やす千載一遇のトレーディングのチャンスが訪 れると述べ、「100億-200億ドルの企業に急成長することも可能だ」と 話している。

原題:Ethanol Evangelist Shrugs Off Volatility to Build Powerhouse(抜粋)

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