低ROE企業に試練、覚醒促す新指数400-アベノミクスと連動

新しい株価指数「JPX日経インデ ックス400」は、株主資本利益率(ROE)が国際的にみて低い水準に ある日本企業の経営者に覚醒を迫るかもしれない。欧米が重視する投資 指標にのっとった同指数に採用されれば、企業は海外マネーを呼び込む 優位性を手にし、日本への投資促進を図るアベノミクスの先頭集団に立 てる可能性がある。

日本取引所グループ(JPX)と日本経済新聞社は年初から、 ROEや時価総額、営業利益率などを銘柄選別ルールに組み込んだ JPX日経400の算出を始めた。両社が新指数開発での合意を発表した のは昨年5月。ROEのほか、独立社外取締役の投入など経営の革新性 などで評価が高い「グローバル300社インデックス」の創設を打ち出し た自民党の政策提言と同じタイミングだった。

メリルリンチ日本証券の神山直樹株式ストラテジストは、400社で 構成される新指数の誕生はデフレ脱却への財政出動、円安につながった 金融政策に比べるとあまり知られていない安倍政権の戦略の1つだ、と 指摘している。

ブルームバーグ・データによると、日本のTOPIX採用企業の ROE平均は昨年までの10年間で6%と、先進24カ国中ではギリシャ次 いでワースト2位。それに対し米S&P500種株価指数は13.6%、欧州 のストックス欧州600指数は13%、MSCI世界指数は12.6%だった。

企業文化が招いた低ROE

日本企業のROEの低さについて、メリル日本証の神山氏は企業文 化に由来すると分析。市場シェアを伸ばすために利益を犠牲にし、不況 に備え資金をため込む習性が強いと言う。アバディーン・アセット・マ ネジメントのピーター・エルストン氏も、「利益率を犠牲にし、少数派 の株価保有者を犠牲にしている」と強調。日本の株主は、従業員やビジ ネスパートナー、その他のステークホルダーと同程度にしか重視され ず、欧米に比べ影響力が弱い。

TOPIX採用企業の当期利益率は4%をやや超える程度と、米 S&P500の9%に劣る。一方で、昨年12月の日本銀行のリポートによ ると、日本の企業が保有する現・預金金残高は9月末時点で224兆円に 上り、ロシア経済に匹敵する規模となっている。

りそな銀行の戸田浩司チーフ・ファンド・マネジャーは、日本の低 ROEについて「デフレと猛烈な円高という経済環境で、グローバルに 競争するにはそうするしかなかった」との認識だ。収益性の低い事業で も、社員雇用のために工場の稼働率を維持、売り上げ拡大を目指す必要 があったが、「アベノミクスで円高とデフレのトレンドが変わる基調が 続けば、ROEや収益性は改善してくるだろう。ROEベースのベンチ マークは、経済環境的に良い時期に出てきた」と言う。

お墨付き、GPIFが焦点

「新指数に選ばれることは、日本企業の収益性向上を後押しする政 府や官僚機構、投資家からお墨付きをもらったことにつながる」とみる のは、T&Dアセットマネジメントの山中清運用統括部長だ。指数の利 用が広がる過程で、企業経営者は収益性を強く意識せざるを得なくな り、結果的にROEも高まると予想する。

SMBC日興キャピタル・マーケッツのストラテジストであるジョ ナサン・アラム氏は、JPX日経400導入の狙いをまずは日本企業に潤 沢なキャッシュを手放させることだとし、さらに公的年金基金など巨大 投資家を株式市場にもっと取り込むことだ、とみている。メリル日本証 の神山氏は、124兆円を運用する年金積立金管理運用独立行政法人 (GPIF)が「先陣を切ってこの指数を利用すれば、そのこと自体が 構成銘柄のパフォーマンスを向上させる可能性もある」としている。

もっとも、SMBC日興のアラム氏は「高ROE銘柄を買うことは 必ずしも賢いストラテジーではない」とも指摘。指数への採用は「企業 にとって名誉なことかもしれないが、投資家にはちょうど高値にある市 況産業株を買うことになりかねない」とリスクにも触れた。

GPIFの三谷隆博理事長は昨年12月のブルームバーグ・ニュース のインタビューで、JPX日経400をベンチマークとして使うかどうか については、「検討中」と述べている。

官製指数の憶測

安倍晋三首相は22日、スイスのダボスで開かれた世界経済フォーラ ム年次会議で基調講演し、GPIFのポートフォリオ見直しなど改革実 施の意向を表明。会社法改正の実現による社外取締役の増加、機関投資 家のコーポレート・ガバナンスへの深い参画を促すスチュワードシッ プ・コードの策定にも言及し、「それらを実現させれば、2020年までに 対内直接投資を倍増させることが可能になる」と発言した。

「政府が新指数の設計にかかわるのは不可解だ」--。米コネティ カット州で投資助言・調査を行うレアビュー・マクロのニール・アズー ス氏は、こうした印象を抱いている。

昨年5月に新指数の開発を発表した日本取引所の斉藤惇最高経営責 任者(CEO)は同7月の会見で、新指数の構成銘柄は500社程度にな りそうと発言した。これに対し、自民党は5月にまとめた日本経済再生 本部の中間提言で、東証グローバル300社インデックスの創設に言及。 再生本部のメンバーでもある塩崎恭久政調会長代理はブルームバーグ・ ニュースの取材に対し、新指数は「私たちが提案した」と説明。構成銘 柄が300社と500社の間に落ち着いた点に言及した。

日本取引所の斉藤氏は、1月16日のブルームバーグ・ニュースなど との共同インタビューで、JPX日経400は日経新聞と提携して作った もので、自民党は「まったく関与しなかった」と強調している。

日経平均の3分の1が除外

JPX日経400は、東京証券取引所に上場する銘柄の中から市場流 動性などによるスクリーニングで1000銘柄に絞り、3年平均ROEと3 年累積営業利益に各40%、時価総額に20%のウエートを加味して総合ス コアを算出。「独立した社外取締役の選任(2人以上)」など定性的な 要素も加え、スコアの高い順に400銘柄を選定する。日本取引所と日経 新聞の公表では、同指数の3年ROEの単純平均値は算出開始時 で11.1%と、5.7%だったTOPIXのおよそ2倍だった。

昨年の日経平均株価は年間で57%上昇し、1972年以来の上昇率を記 録した。しかし225銘柄のうち、新指数には約3分の1が採用されてお らず、再建途上にあるパナソニック、会計不正問題を経験したオリンパ ス、原子力発電所事故の対応に追われる東京電力などがこれに含まれ る。業種では、繊維や化学、鉄鋼など素材関連、グローバル競争で収益 環境が厳しい電機、海運、電力などで漏れる企業が多かった。

きょうのJPX日経400は、一時前日比3.1%安の10999.68ポイント と、1月6日の算出開始以降の安値を更新した。

--取材協力:竹生悠子  Editors: 院去信太郎, 谷合謙三

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