量的緩和の時間軸強化に異論、出口政策で禍根-03年下期の日銀議事録

日本銀行は30日、2003年7-12月に 開いた金融政策決定会合における全発言の議事録を公開した。同年10月 の会合では、長期金利の急上昇や円急伸を受け、当時行っていた量的緩 和政策をどこまで続けるかという「フォワードガイダンス(時間軸)」 の明確化を図ったが、一部に異論も出た。さらに、同年3月就任した福 井俊彦総裁の下で3度目となる当座預金目標の引き上げも行った。

日銀は新たな時間軸に基づき、06年3月、5年間続いた量的緩和の 解除に踏み切ったが、同年8月に消費者物価の基準年が改定され、それ までプラスだった伸び率がマイナスに修正されたことで、事後的に見れ ば条件を満たしてなかったことが判明。現審議委員の白井さゆり氏は昨 年9月19日の講演で「こうした修正もあったことで、量的緩和解除のタ イミングは早計だったとの外部の見解も聞かれている」と述べた。

日銀は現在、黒田東彦総裁の下で、量的・質的金融緩和を「2%の 物価安定の目標の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な 時点まで継続する」と言明しているが、量的緩和の出口をめぐるこうし た経緯は、異次元緩和の出口政策の難しさも想起させる。

市場関係者の間では、早期の2%達成は困難で、安定的に2%が持 続する時期は「見通せない」との見方が多い。みずほ証券の上野泰也チ ーフマーケットエコノミストは「政治家やリフレ派を含め、誰もが納得 する良い経済が実現するか、逆に、悪い円安で資本流出が起こり、誰も が耐え切れない悲惨な状況になるか、いずれにしても、そうした極端な 状況を想定しない限り、現実問題として、まっとうに出口のタイミング を見出すのは難しいだろう」とみる。

VARショック

長期金利は03年6月11日に0.43%と過去最低水準を更新後、反転。 1カ月足らずで1%近く上昇した。銀行が同じようなリスク管理手法 (Value at Risk)を採用していたこともあって、一斉にリスク回避の国 債売りに走り、長期金利が急騰した。いわゆる「VARショック」だ。

三井物産出身で市場畑が長かった福間年勝審議委員は7月15日会合 で「債券市場が不安定化する一方で、世間ではいわゆる出口政策をこと さらプレーアップする傾向が見られ始めた」と言明。「市場参加者は債 券の売りにつながることにはささいなことでも過剰反応する状態で非常 に神経質になっている点も十分留意する必要がある」と述べた。

日銀は01年3月、当座預金残高を目標とする量的緩和を導入。「生 鮮食品を除く消費者物価(コアCPI)前年比が安定的にゼロ%以上と なるまで継続する」としていたが、医療費負担やたばこ増税など特殊要 因からコアCPI前年比がゼロ%に接近。「安定的」の定義がはっきり しなかったこともあり、市場では出口政策が意識され始めていた。

市場との対話に失敗

皮肉にも、1カ月後公表された同会合の議事要旨が出口政策を議論 していたと受け取られ、長期金利は一段と上昇。9月前半に1.6%台に 上昇した。中原真委員は9月12日会合で「回復期待の高まりの中で日銀 の意図を市場が誤解した、ある意味では日銀の市場との対話の失敗によ り生じた部分もある」と指摘。「市場ではむしろ出口政策があいまいで ある、時間軸のあいまいさが相場の行き過ぎをもたらしボラティリティ を高めているという見方もある」と述べた。

こうした事態を受け、日銀は10月10日会合で「安定的にゼロ%以上 となるまで」という条件を①数カ月ならしてみる②政策委員の多くがゼ ロ%を超える見通しを持つ③これらが満たされても経済・物価情勢によ っては継続することが適当と判断する場合もある-と明確化した。

これについては異論も出ていた。岩田一政副総裁は政府の反対を押 し切り決定した2000年8月のゼロ金利解除について「事後的に見る限り やはり失敗だ」とした上で、日銀は当時、「暗黙であるにせよ明確な物 価安定数値の目標をしっかり持っていなかった」と言明。「そこがない まま政策決定、その日その日暮らしている、というとちょっと言い過ぎ かもしれないが、それで判断してしまうと誤りをもたらす」と述べた。

最大のリスクは為替

中原委員も解除条件について「どこが明確化されたかというと、ち ょっと首をかしげてしまう部分がある」と指摘。望ましい物価上昇率と して「たとえば1%というようなポジティブな数値を入れるべきではな いか」と主張したが、同案は結局、全員一致で可決。これに基づき、日 銀は2年半後に量的緩和政策の解除に踏み切った。

10月10日の会合で決定したのは時間軸の強化だけではなかった。事 前予想では現状維持との見方が強かった当座預金目標を「27兆-30兆 円」から「27兆-32兆円」に拡大。景気判断をそれまでの「横ばい」か ら「緩やかな景気回復への基盤が整いつつある」へ上方修正する中での 決定だっただけに、円高対策ではないかとの見方も浮上した。

円ドル相場は8月中旬まで1ドル=120円近辺で推移していたが、 9月以降、急速な円高が進行し、同会合前には109円台まで上昇。福井 総裁は「とりあえず目先、為替相場の動きがわれわれとしても非常に気 になる」と指摘。岩田副総裁も「現在の最大のリスクはどこにあるかと いうと為替レートではないか」と述べている。

政治的には若干のプラス

しかし、当座預金残高目標の引き上げに対しては、須田美矢子審議 委員が「実体経済の総括判断を上方修正し、かつ短期金融市場も落ち着 いている」として反対を表明。田谷禎三審議委員が「政策運営が外から 見て分かりにくくなると思うし、説明しにくくなるのではないか」と述 べたほか、植田和男審議委員も同調し、計3人の反対票が出た。

植田委員は同月31日会合でこの決定を振り返り、「私自身、外で聞 かれても何を狙った措置であるか、うまく説明ができない。通常、反対 票を投じても、支持することはできるのだが、今回の場合はなかなか難 しい」と指摘。「残念ながら日銀の信認に若干マイナスの影響があっ た」とした上で、「ただ、ポリティカルには若干のプラスがあったかも しれない」と皮肉を述べている。

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