【コラム】中国が逃した「リーマン・モーメント」-ペセック

1998年、ニューヨーク連銀ビルにウ ォール街の重鎮らが集められた。ジョン・メリウェザー氏のヘッジファ ンド、ロング・ターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)の救済 策を取りまとめるためだった。

映画「ゴッドファーザー」でヴィトー・コルレオーネが対立するフ ァミリーのボスたちと和解したのも、この石造りの重厚な建物との設定 になっていた。フランシス・フォード・コッポラ監督によって映画が新 たな歴史の1ページを記録したのと同様、ウォール街の「大き過ぎてつ ぶせない」の歴史もここで始まった。中国もこれから学んでいくことに なるだろう。

中国当局が30億元(約510億円)規模の信託商品をデフォルト(債 務不履行)させるかどうか悩んでいる間、一部では中国の「リーマン・ モーメント」が訪れるとの憶測が出ていた。2008年のリーマン・ブラザ ーズ・ホールディングス破綻後の危機に匹敵する混乱を、信託商品のデ フォルトが中国にもたらすと考えたからだ

しかし、この商品を販売した中国工商銀行は投資家が資金を回収で きる案を示した。「リーマン・モーメント」は一転、「メリウェザー・ モーメント」となった。中国はこの救済劇を今後何年も後悔することに なるかもしれない。

98年のLTCM危機までメリウェザー氏は、市場の気まぐれな変化 や経済の法則にとらわれない、神のような存在とまで思われていた。ソ ロモン・ブラザーズ出身の同氏とノーベル経済学賞受賞者たちが手を組 んだLTCMは、トレーディング成功の聖杯を手に入れたかのようだっ た。

グリーンスパン氏と市場の力

しかし伝説的な運用モデルも、97年のタイ・バーツ暴落、98年のロ シアのデフォルト(債務不履行)には歯が立たなかった。当時も今回の 中国でも、救済を主張する人たちはシステミックリスクや信用市場の凍 結、安全に解消するには複雑過ぎるポジションに言及する。中国は今、 速いスピードでシャドーバンキング(影の金融)危機に向かっている が、同様の危機の米国版において中核を成していたのがLTCMだっ た。

米連邦準備制度理事会(FRB)は当時の議長、アラン・グリーン スパン氏がたたえてやまない市場の力に任せ、正義をまっとうさせれば よかった。もちろんLTCMを破綻させれば相場は急落しリスクプレミ アムは急上昇と、影響は大きかっただろう。しかし騒ぎが収まった時に は、債券からデリバティブに至るまで市場のリスクと限度というものへ の理解が深まったに違いない。LTCMの破綻を放置していれば、リー マンのようにレバレッジを高める銀行も現れず、ニューヨーク連銀での 秘密会議がまた必要になることもなかっただろう。

37億ドル(現在のレートで約3800億円)を投じてLTCMを救済す ると決めたことで、ウォール街は巨額の公的資金による金融機関救済と いう現在の風潮につながる扉を開けた。モラルハザード(倫理観の欠 如)は今や、金融の世界の土台になっている。

習近平国家主席

山西省政府や信託商品を販売した工商銀行が投資家を救済するべき だという議論もあるだろう。中国のシャドーバンキング業界がつけを支 払う時が来ているのは確かだが、習近平国家主席はアジアでの金融・銀 行危機は概して独裁体制に良い結果をもたらさないことを承知してい る。春節(旧正月)を控えた時期に、銀行の取り付け騒ぎを引き起こす のはもってのほかだ。

一方で、救済が及ぼし得る悪影響はもっと重大だ。中国政府にはパ ニックを防ぎ、政権批判のブログを抑え込む力があるだろう。しかしシ ャドーバンキングの問題に対して早急に手を打たなければリスクは膨ら むばかりとなり、中国がそのつけを支払う時にはリーマン・ショックで すらまだ秩序があったと思われる事態になるかもしれない。

中国の与信拡大に歯止めがかからないのはまず、銀行と大型の投資 は常に保護されるとの確信があるためだ。国有企業ですら、自分たちが システムにとって重要過ぎる、あるいは政治的な連鎖が強過ぎてつぶせ ない存在だと考えている。

98年のニューヨーク連銀ビルでの秘密会議で、米国がバンカーたち に限度と責任というものを教えていたら、リーマン破綻は起こらなかっ ただろう。中国は自分たちの金融ドラマに米国よりも良い結末を与える チャンスがある。習主席はこれを早く生かした方がいい。

原題:China’s Xi Misses Chance to Seize ‘Lehman Moment’: William Pesek(抜粋)

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