ゴールドマン松井氏、農園で培った意欲でウーマノミクス体現

姉がハーバード大学を1981年に卒業 する頃、キャシー・松井氏は同じ大学に入学するか、父が経営していた バラ農園の仕事に一生を捧げる準備をするかの選択肢を与えられた。

松井氏は幼い頃から米カリフォルニア州サリナスにある農園を手伝 い、その後ハーバード大に進学。東京のゴールドマン・サックス証券で アナリストランキング首位の評価を受けるまでに至ったのは、松井家の 勤労意欲が土台にある。松井氏は14年前のリポートで「ウーマノミク ス」という概念を挙げ、日本の労働力における固定的な男女の役割意識 を覆す方策を論じた。そして現在、女性の就労拡大を通じた経済押し上 げ効果を説くこの考え方に安倍晋三首相も耳を傾け、成長戦略で女性の 活躍を推進する方針を掲げている。

父のアンディ・松井氏は日本のゴールドマンで初の女性パートナー に昇格した娘について先月の電話インタビューで、「暖かいばかりじゃ 花は咲かない。甘やかして育てて成功したという話は聞いたことはない でしょう」と語った。

キャシー・松井氏は24年前に初めて東京のバークレイズ証券で証券 業界の仕事に就いた後、94年にゴールドマン・サックス証券にチーフ日 本株ストラテジストとして入社。2000年と01年、06年にインスティチュ ーショナル・インベスター誌のアナリストランキングで日本株式投資戦 略部門1位に選出された。現在2児の母で48歳。

松井氏のジェンダー問題への関心は、自身がキャリアアップする中 で高まっていった。1999年8月に初めて発表したウーマノミクスに関す るリポートで、労働力人口の縮小問題には移民法の緩和や出生率向上よ りも男女の雇用格差の解消の方がより良い解決策だと指摘した。政府統 計によれば、当時の働く女性の割合は56.7%。2012年は過去最高 の60.7%に上昇したが、十分な水準でないと松井氏は話す。米労働統計 局によると、11年時点で米国の25-54歳の女性の就業率は69%だ。

片足でマラソン

日本は人口高齢化や経済規模の2倍の債務残高といった問題を抱え るだけに、さらなる対策が急務だと松井氏は指摘する。国立社会保障・ 人口問題研究所によれば、日本の総人口に占める65歳以上の高齢者の割 合は10年の23%から35年までに3分の1に達する。松井氏は4月のリポ ートで、日本が女性の就業率を男性並みの約80%に引き上げれば、労働 人口は800万人増加し、国内総生産(GDP)の最大14%の押し上げが 可能になると分析した。

松井氏は先月のインタビューで、女性がフルタイムで働けるという のはまだなじみのない発想だが、「片足でマラソンを走るのはとても長 い時間がかかるということを日本の人々に理解してもらう必要がある」 と語った。

松井氏は自分の勤労意欲はサリナスでの生い立ちのおかげだと考え ている。1週間のうち土曜日に日本語学校に通い、日曜に教会に行く以 外は、学校の放課後は農園で花の摘み取り作業を手伝う日々だった。 「手袋を4枚使ってもとげが手に刺さってしまった」。松井氏は当時を 振り返り、「それでも慣れていった。それが私たちの生活だったし、我 が家ではお金は空から降ってくるものではなかった」と語る。母は毎 日、農園での仕事と子供4人の育児に追われながらも、夜間学校で英語 を学んだという。

長時間労働

安倍首相は松井氏の名前を挙げながら、昨年9月25日の米紙ウォー ルストリート・ジャーナルへの寄稿でウーマノミクスを成長戦略の重要 な要素として紹介。首相は待機児童解消や母親の職場復帰・再就職の支 援を通じて「女性が輝ける」社会を目指す考えを表明しており、全上場 企業に1人以上の女性役員の登用を提言し、東京五輪が開催される20年 までに社会のあらゆる分野で指導的地位に女性が占める割合を30%とす る目標を掲げている。

「この問題を安倍首相が成長戦略の中核に取り上げたことで、人々 が目を覚まし始めた」と言う松井氏は、安倍首相が「これに言及してい るということは、これまでの首相たちに比べると非常に大きな進歩だ」 と評価する。

乳がんから生還

JPモルガン証券のイェスパー・コール日本株調査部長を夫に持つ 松井氏は、住み込みのお手伝いさんらを利用して長時間労働や出張もこ なしてきたが、第2子が生まれた後の01年に乳がんと診断されるという 試練に見舞われた。

「何事も悪い方向には進まないと思っていたちょうどその時に、す べてが狂った。何が人生に紆余(うよ)曲折をもたらすかなんて分から ない」と松井氏は話した。「がんと診断されて当然ショックを受けた が、36歳で死という運命に直面したことは非常に大きな自分自身への警 鐘だった」。

治療のため両親のいるカリフォルニア州に戻って化学療法を受け、 8カ月間療養。家にずっといるとかえってストレスがたまると言って復 帰を決意、ゴールドマンにはかつらをかぶって復職した。

2000年から02年まで松井氏の部下だったメリルリンチ日本証券のチ ーフストラテジスト、神山直樹氏は、自他共に大変な時に熱心に働く姿 に「ストラテジストというものを学んだ」と振り返り、「ある意味で は、ウーマノミクスを自分でやっていこうとしていて、自分で体現して いる」と評した。

松井氏は大変なことに直面した時にはいつも母親のことを考えると いう。「母からは非常に多くのことを学んだ。自分が親になった時、母 への新たな尊敬の念が生まれた」と話し、こう付け加えた。「ストレス で疲れ切った時はいつも、母が乗り越えなければならなかった試練に思 いをはせる。そうすると全てが大局的に見えるようになる」。

原題:Goldman’s Matsui Turns Abe to Womenomics as Japan Growth Formula(抜粋)

Goldman’s Matsui Turns Abe to Womenomics as Japan Growth Formula

--取材協力:Matthew Winkler、アンディ・シャープ. Editor: Chris Nagi

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