PIMCO:物価連動債もはや投資妙味薄い、流動性プレミアム不足

債券ファンド世界最大手、米パシフ ィック・インベストメント・マネジメント(PIMCO)は、日本の物 価連動国債はもはや投資妙味が薄れたと評価している。インフレ予想が 相応の水準まで織り込まれる一方、流動性リスクプレミアム(金利上乗 せ幅)は不十分だとみているためだ。

ピムコジャパンのポートフォリオマネジメント責任者、正直知哉氏 は「2012年暮れから昨年中は非常に妙味があると思っていた」が、今や 「流動性リスクプレミアムを考慮すると、必ずしもそれほど安くない」 と分析。投資家は同プレミアムを「もっと求めるべきだ」と述べた。逆 に同プレミアムが乗っていると考えると、市場が織り込む予想インフレ 率は「むしろ安くない水準だ」とも語った。

消費者物価が約5年ぶりの上昇率となる中、10年物の固定利付国債 と物価連動債の利回り格差(ブレークイーブンレート、BEI)が示す 市場の予想インフレ率は、17日に1.12%と昨年10月以降で最高を記録し た。正直氏は16日のインタビューで、消費税率を予定通り10%に引き上 げた場合、増税の影響を除くBEIは約0.7%になると試算。予想を超 える円安進行などがない限り、今後2-3年間のインフレ率は年平 均0.7-1%程度との見通しを示した。

正直氏は昨年1月のインタビューでは、発足直後だった安倍晋三内 閣のリフレ政策を考慮すると「物価連動国債にはポジティブだ」と発 言。今年4月の消費増税を前提にすれば割安だと評価していた。米バン ク・オブ・アメリカ(BOA)メリルリンチの指数によると、日本の物 価連動債は足元までの約1年間で年率4.5%の収益をもたらした。通常 の固定利付債は同0.8%にとどまった。

強烈なリフレ政策

消費者物価が上昇すると元本・利払いが増える物価連動債は、財務 省が04年3月に発行を開始。デフレの進行による市場低迷を受けて08年 8月を最後に休止した。昨年10月に再開し、今月9日に今年度2回目の 同入札を実施した。政府の14年度国債発行計画では1.6兆円に増額し、 年度中に需要増が確認できれば追加発行も検討する。厚生労働省は先 月20日、世界最大の年金基金、年金積立金管理運用独立行政法人( GPIF)が4月以降に物価連動債を購入する方針だと発表した。

日銀は2%の物価目標を2年程度で達成するため、月7兆円強の長 期国債を買い入れる「量的・質的金融緩和」を4月に導入。円の対ドル 相場は昨年の下落率が約18%と1979年以来の大きさを記録し、今月2日 には08年10月以来、初めて1ドル=105円44銭まで下げた。日経平均株 価は昨年57%高と、田中角栄内閣の誕生で日本列島改造論に沸いた72年 以来の上昇。全国消費者物価指数(生鮮食品を除く)は昨年11月に前年 比1.2%と08年10月以来の上昇率となった。

正直氏は世界経済の実質成長率が今年2.75%と昨年より高まると予 測。連邦準備制度理事会(FRB)が量的緩和の縮小を始めた米国 は2.5%、「強烈なリフレ政策」の日本は1.25%とみる。15年10月に予 定される10%への消費税率引き上げを何としても実施するため、4月の 消費増税で景気が予想以上に減速すれば追加金融緩和に加えて、財政出 動の可能性も「十分にある」と読む。

円安で日米金利の相関復活

米量的緩和の縮小は新興国を巡る投資資金の流れなどに動揺をもた らす恐れがある一方、金融政策の方向性の違いを背景に円相場は今 年10%程度下落すると、正直氏は予想。「円安に引きずられる形でイン フレ率が1%程度に上昇する」と読む。日本国債は日銀による巨額の買 い入れが「極めて強力な相場支援要因であり続ける」としながらも、昨 年崩れていた日米国債利回りの相関関係が今年は復活に向かうとみる。

長期金利の指標となる新発10年物国債利回りは足元で0.67%程度と 世界最低。市場の見通しが当たれば「債券価格の値上がり益は期待薄 で、金利収入もわずかだ」と正直氏は指摘し、1%程度の持続的なイン フレを想定するなら「投資家はインフレに対するリスクプレミアムを徐 々に求めていく」と予想した。

アベノミクスの終着点

正直氏は金融緩和と財政出動、成長戦略を掲げる「アベノミクスの 終着点」として望ましいのは「実質2%・名目3-4%の持続可能な経 済成長」であり、「悪いシナリオはインフレ進行か財政リスクの顕在化 だ」と指摘。日銀が前例のない金融緩和からの出口を迎える局面で「名 目金利を無理やり抑え込む一方でインフレ加速を招くか、インフレ抑制 の優先で金利が大幅に上昇するかの二者択一を迫られると相当厳しい」 と読む。政策対応として「金融抑圧」の採用もあり得ると言う。

ただ、こうした「終着点は14年には訪れない。今年は終着点に賭け た取引をすべきではない」と指摘。デフレに逆戻りする確率は、少なく とも黒田東彦総裁の任期中は低いとみる。また、デフレ回帰以外の全て のシナリオで円は売りだと予想する。

正直氏は米量的緩和縮小の観測と実施で、世界的な「株高・債券高 には終止符が打たれた。株と債券の逆相関が戻ってくる」と分析。デュ レーション(平均残存年限)リスクを取る環境ではないとし、「特に短 期セクターでクレジット物を含め、キャリーを取っていきたい」と語っ た。日本国債についてもデュレーションリスクを抑え、日銀による巨額 の国債買い入れオペで歪んでいる利回り曲線上で「相対価値を取りに行 く」手法などを推奨した。

20年債割安、12-15年は割高

年金や保険会社など契約者から長期の円資金を預かる国内投資家は 「外貨建てやリスク資産の保有には限度があり、国内債をある程度は持 つ必要がある」とも正直氏は指摘。超長期債では「20年債が割安で12 -15年は割高、30年債と40年債も20年債と比べると割高だ」と述べ た。10年債は「周辺に対して極めて割高だ」と語った。

正直氏は、成長戦略は「構造改革や規制改革などで潜在成長率を引 き上げていく政策だが、短期的にはデフレ的な影響を持つ」と指摘。需 要不足でデフレに悩む日本経済には金融緩和と財政出動による景気刺激 を先行させるのが「政策発動の順番として極めて適切だ」と言う。ただ 「外国人投資家が抱く期待と既得権益による政治的な制約という現実の ギャップ」が株式の失望売りなどを招いた場合、改革遂行に必要な安倍 内閣の政治的資源が損なわれる恐れがあると懸念を示した。

円安・株高の反転や消費増税後の予想を超えた景気悪化、世界的な 投資資金の動揺などのリスクが現実化した場合、日銀が追加緩和に動こ うとしても実施できないなら「真のリスク」になるとも指摘。賃上げが 進まないうちに輸入インフレという円安の弊害に批判が高まったり、さ らなる円安進行に海外からの懸念が相次ぐ可能性もあると述べた。

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