真摯な教育者か、教育の商品化か-名誉総長は元米大統領

リオデジャネイロの狭い通りに面し たビルの一室で、画面が次々にスクロールするパソコンを前に電話のヘ ッドセットを付けた営業社員9人がエネルギッシュな話しぶりで顧客を 勧誘する。

昨年10月のある朝、社員は高校3年生に電話をかけ、営利型の大学 であるセントロ・ウニベルシタリオIBMRへの入学を促した。エアコ ンがカタカタと音を立てる中、現場を統括するラファエル・モリーニ氏 が室内を行き来し、職場は緊張感に包まれる。

「いいか、きょうは30%値引きのオファーをするんだ」。モリーニ 氏が若い女性に声をかけた。

その日は業務時間終了までにチーム全体で約1300件の電話をかける 予定だ。コールセンターは9階建てビルの最上階に位置し、下の階には 教室がある。社員の中にはIBMRの学生もいて、昼間働き、夜に授業 を受けている。ブルームバーグ・マーケッツ誌2月号が報じている。

モリーニ氏(28)は「彼らは自分たちの学校のことをよく知ってい る。それが営業にも生かせる」と話した。壁にはIBMRの入試出願者 を250人以上確保した営業マンにはボーナスを支給すると書かれたチラ シが張られている。ポスターには「世界最大の大学ネットワーク、ロー リエット・ネットワークのメンバーになろう」の文字が躍る。IBMR が加入する本部組織は約5000マイル(約8050キロメートル)離れた米メ リーランド州ボルティモアにある。

米州最大手

こうした営業社員の活動により、米ローリエット・エデュケーショ ンは、営利型の高等教育大手にのし上がった。同社の前身は個別指導チ ェーンのシルバン・ラーニング・システムズ。2004年にローリエットと なり、現在は30カ国に75校の大学を保有。学生数は80万人と、7年前 の24万3000人から急増し、在籍者数で米州最大の営利型大学運営企業と なった。07年に株式を非公開化して以降、年間収入は3倍超の40億ドル (約4130億円)に膨れ上がった。

ローリエットの米国内での知名度は高くないが、同社は米国で誰も が知る人物を10年に名誉総長として招いた。クリントン元大統領だ。元 大統領はローリエットから報酬を受け取り、マレーシアやペルー、スペ インなどにある同社運営のキャンパスをこれまでに十数回にわたって訪 問している。

同社は金融界の大物からも支援を取り付けている。ヘンリー・クラ ビス、ジョージ・ソロス、スティーブ・コーエン、ポール・アレン各氏 らそうそうたるメンバーが名を連ねる。

KKRの出資

ローリエットの創業者のダグ・ベッカー最高経営責任者(CEO) (47)が非公開化への支援をこれら各氏に依頼した際、クラビス氏率い るプライベートエクイティ(PE、未公開株)投資会社KKRはローリ エット株4億8750万ドル相当を引き受けた。KKRが投資家に宛てたメ モによると、持ち株の価値は10年までに7億1080万ドルに上昇した。

ローリエットは米国で営利型大学が導入している手法の多くを海外 に適用することで成長してきた。キャリア志向のコースを用意したほ か、マーケティングに重点投資した。

しかし同社が運営する一部大学は、教師や学生、政府当局者から批 判を受けている。同社は苦境に陥った大学の在籍者数を大幅に増やすこ とで売り上げを伸ばしているが、学校や研究活動への投資が同様のペー スで拡大していないケースが目立っている。

ブラジルの国家教育研究院(INEP)によると、ローリエット が10年にIBMRをグループに取り込んで以降、国内小規模大学におけ るIBMRの教育の質は41位から132位に転落した。

商品に変容

リオデジャネイロ州議会の私立大学に関する調査委員会は昨年4 月、営利型大学が教授を解任していると批判する報告書を公表、ローリ エットのIBMR買収をやり玉に挙げた。

調査を主導したロブソン・レイチ議員は「彼らは教育を、知識より も利益を重視する商品に変えてしまった」と指摘した。ローリエットは これに対し、同社がブラジルで運営する幾つかの学校は09年以降、政府 調査で順位を上げたと反論している。

ローリエットは収入の3分の2を得ている中南米一帯で論争を巻き 起こしてきた。昨年10月、チリの国家認定委員会は同社が運営するラ ス・アメリカス大学(UDLA)の認定取り消しを決めた。

同委員会はUDLAの学力水準が10年以降に低下したと報告。学生 を約1万人増やした一方で、常勤・非常勤の教師を408人から399人に減 らし、一部の専攻の卒業率は15%にすぎないと指摘した。

ローリエットの最も熱烈な擁護者は、CEOのベッカー氏だ。10代 で最初の事業を起こした同氏は、ブラジルとチリの政府当局者からの苦 情に耳を貸さない。同氏はローリエットによる買収当時、IBMRは破 綻寸前だった点を挙げ、「高水準の教育か存続可能性のどちらを選択す るかの問題だ。われわれは正しいことをしてきたと思っている」と説 明。その上でチリの認定委員会は教育に対するローリエットの非伝統的 なアプローチを誤解していると主張した。

真摯な教育者

ベッカー氏がローリエットを設立したのは、従来型の大学が顧客の 要求に応えていないとの思いからだ。「ほとんどの大学は内向きで職員 や教員のニーズにばかり目を向けている。学生のニーズにはそれほど応 えていない」。

ベッカー氏は大学進学の経験がないが、自身が教育に強い情熱を持 っていると述べ、「高い基準を備えた真摯(しんし)な教育者であると 同時に、学生を顧客と考えることは矛盾しない」と訴えた。

原題:Clinton Pitches KKR-Backed College Chain as Controversy Mounts(抜粋)

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