マー君を放出、楽天三木谷氏の胸算用-MLB争奪戦を横目に

楽天のブランドイメージを守る か、60億円超ともいわれる損失を拒むか。テレビ局の経営統合やプロ野 球参入、医薬品ネット販売の全面解禁など、いくつもの障壁と戦い続け ながら国内第3位の資産家に上り詰めた楽天の三木谷浩史社長が出した 答えは、企業イメージの維持、そして損失の受け入れだった。

新しい移籍制度の発効後、オーナーを務めるプロ野球楽天の田中将 大投手の大リーグ挑戦を三木谷氏が容認したことで、同選手の格安での 放出を許すことになった。さらにそれ以外にも楽天野球団にとってさま ざまな損失をもたらすと関西大学の宮本勝浩教授はみており、同教授の 見積もりでは合わせて61億円の収入減になるという。同教授はプロスポ ーツなどの経済効果を研究、発表している。

米国ではすでに田中の争奪戦が始まっている。今月9日のスポーツ 専門局ESPNの電子版によると、田中は渡米し代理人とともにホワイ ト・ソックスを含む複数球団と面談をした。匿名の関係者の話として、 全体の3分の1以上のMLB球団が田中の獲得に関心を示しており、6 年で1億ドル(約104億円)程度の契約になるだろうと伝えている。 MLB公式サイトは14日の記事で、コラムニスト9人による移籍先予想 を行い、最も多い4人がヤンキース、2人がマリナーズを挙げた。

宮本教授は、楽天球団の収支は「いつもトントンの黒字か赤字くら いのところ」にあり、三木谷氏が「球団のことを考えたら行かせたくな いというのは事実だろう」という。同教授は移籍制度の変更により約30 億円、観客数やグッズ販売、テレビ放映権料の減少などで約31億円の利 益を逃す可能性があるとみている。

「大きく貢献」

楽天球団は優勝に伴う売り上げ増などで13年12月期、05年以来の黒 字化を見込んでいる。田中について球団はブルームバーグの取材に対す る電子メールでの回答で「素晴らしい成績でチームの優勝に大きく貢献 した」と評価した一方、「優勝はチーム全体で成し遂げ、黒字化は球団 全体で努力した成果」とした。

企業名をチーム名に冠することができる日本のプロ野球で、看板選 手の放出はオーナー会社にとっても痛手だ。電子商店街「楽天市場」 は、優勝にちなんだセールなどで昨年9月の流通総額が前年同月比42% 増と大幅に伸長した。クレディ・スイス証券の中安祐貴アナリストは、 田中の愛称の「マー君効果でプロモーション効果があった」と述べ、田 中投手を手放すのは「リスク」だと話す。13年12月期は優勝効果で楽天 市場の売上高で約30億円の増収効果があったと試算する。

損失110憶円とも

こうした収入の減少を補うのが楽天が手にする移籍金のはずだっ た。しかし先月17日、日本の球団から米チームに選手が移籍する際の新 制度が発効し、日本側に支払われる譲渡金に2000万ドルの上限が設定さ れた。旧入札制度ではダルビッシュ有投手など5000万ドル超が日本のチ ームに支払われたケースもあったが、早稲田大学スポーツ科学学術院の 原田宗彦教授によると田中にはそれらをはるかに上回る100億円、 約9700万ドルの価値の可能性すらあったという。この金額を関西大学宮 本教授の試算に当てはめると、楽天球団の損失は110億円を超える。

楽天球団の立花陽三社長は先月25日、田中のメジャー挑戦を容認す る会見で新移籍制度について「多くの問題がある」として「大切な選手 を保有する球団といたしましては、極めて不平等なシステム」だと述べ た。ESPNによると、田中にはヤンキース、レッドソックス、ドジャ ースなども関心を寄せており、米東部時間で今月24日午後5時が交渉期 限だ。

三木谷氏は先月上旬、自身のツイッターで「日本のプロ野球は、大 リーグの育成システムやファームではない」とツイートし、怒りをにじ ませた。田中は駒大苫小牧高校から06年のドラフト1位指名で入団し、 最多勝、最優秀防御率、ベストナイン、沢村賞をそれぞれ昨年含めて2 回ずつ獲得。チームも創設9年で初のパ・リーグ優勝、さらに日本シリ ーズ初制覇を果たした。

ハーバードMBA

三木谷氏は88年に一橋大学を卒業し、日本興業銀行(現みずほ銀 行)に入行、93年にハーバード大学で経営学修士号を取得した。ブルー ムバーグ・ビリオネア指数によると、三木谷氏の現在の個人資産は85億 ドルで、日本ではファーストリテイリング柳井正会長兼社長、ソフトバ ンクの孫正義社長に次いで、第3位だ。楽天球団の広報を通じてのブル ームバーグの取材に対し、三木谷氏は現時点でのコメントを控えた。

損益計算書でみるとマイナス効果が大きいとみられるが、田中投手 の放出容認による金額にしにくいプラス効果を認める指摘もある。いち よし経済研究所の納博司アナリストは「もともとプロ野球は楽天ブラン ドを高めるために参入した」として「楽天はブランドイメージを一番重 視するべきだ」と述べた。移籍金額よりファンの支持が重要という。

日本のプロ野球を外国人の視点で描いた「和をもって日本となす」 の著者、ロバート・ホワイティング氏は「三木谷氏はとても難しい判断 をしなければならなかった」という。「米国野球との違いは田中の思い や戦績を考慮したことだ。田中はとてもマネのできないシーズンを過ご した。いや、二度とないシーズンだったかもしれない。三木谷氏にとっ ては田中を出すにしても出さないにしても損失になるだけに、難しい判 断だった」と述べた。

三木谷氏は97年に楽天の前身となる会社を設立。従業員6人で始ま った楽天市場を日本最大の電子商取引サイトに育て上げた。楽天は04年 にプロ野球参入を認められ、翌シーズンから仙台市を本拠として戦って いる。05年、テレビ局のTBS(現在の東京放送ホールディングス)の 株式を大量取得し、経営統合を持ち掛けたが断念。薬のネット販売規制 については、一部規制が残ることを不満として政府の産業競争力会議の 議員を辞任する意向を示して、揺さぶりをかける格好となった。

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