消えた60億ドルを取り戻せ-回収チームの国境越える熱き闘い

風が吹きすさぶ2011年2月のある 朝、クリス・ハードマン氏(44)はロンドン北部にある倉庫施設ビッ グ・イエロー・セルフ・ストレージ・センターで不安げに待っていた。 ビルの正面に張られた横断幕には「生活に空間を」の文字。ハードマン 氏はただ「E2010」と呼ばれる倉庫の中身が見たかった。

法律事務所ホーガン・ラベルズ・インターナショナルで詐欺事件を 担当するハードマン氏は、同氏の顧客BTA銀行からその2年前に消え た60億ドル(約6200億円)の在りかを探していた。BTAは当時、カザ フスタン最大の商業銀行だった。裁判所が発行した捜索令状を携え作業 員が倉庫の南京錠を開けている間、期待が高まるのを感じていたと同氏 は振り返る。ブルームバーグ・マーケッツ誌2月号が報じた。

裁判所の資料によると、ハードマン氏がE2010の中で目にしたの は、書類とデータ保存テープ、コンピューターサーバーが入った箱25 個。同氏によれば、この宝の山の中には相互に関連したオフショアのペ ーパーカンパニー数百社の一覧表が含まれていた。これらの企業の多く はBTAの資産を横領するために利用されていた。「証拠の断片がさら に一つ増え、ジグソーパズルのピースがまた一つ埋まった。しかし達成 感を感じるのは、顧客の資金を取り戻すことができた時だろう」と同氏 は語る。

ハードマン氏は、バーナード・マドフ受刑囚による170億ドル規模 の詐欺が発覚した08年以降で最大の金融詐欺となる可能性もあるこの事 件で、真相解明を目指すチームを率いる弁護士だ。チームのチーフスト ラテジストはジョン・ハウェル氏で、ターゲット射撃を好む金融犯罪コ ンサルタントの同氏はロンドン郊外を拠点としている。

チームの使命

金融知識のブレーンを務めるのはかつてクレディ・スイス・グルー プの投資バンカーだったパベル・プロスヤンキン氏(42)で、BTAの 資産回収プロセスを監視している。さらに、ロンドンを拠点とする企業 調査会社ディリジェンスの調査員たちが脇を固める。

チームの使命は、60億ドルの行方を突き止め、取り戻すことだ。同 資金についてBTAは、05-09年に会長を務めていたムフタル・アブリ ャゾフ被告(50)が横領し、モスクワや英領バージン諸島など世界中の ペーパーカンパニーに隠したと主張。5年にわたる世界各地での法的措 置や調査の結果、これまでに何とか回収できたのは「数億ドル」だけだ とプロスヤンキン氏は語る。詳細についてはコメントを控えた。

カザフからロンドンに逃れ今はフランスにいるアブリャゾフ被告 は、ロンドンでの民事裁判で証言し、総額60億ドルの横領や詐欺行為を 否認した。現在はマルセイユ近郊で収監されている同被告は、カザフと ロシア、ウクライナの検察当局によって訴追された詐欺罪についても否 認している。

法的手段を駆使

このBTAと元会長アブリャゾフ被告との法的闘争ほど現時点での 資産回収の状況を端的に示すものはないと、法律事務所エドワーズ・ワ イルドマン・パーマーUK(ロンドン)で資産回収を担当するアントニ オ・シュアレスマルチネス氏は語る。ハードマン氏が率いるチームは、 アブリャゾフ被告がペーパーカンパニーの実質的なオーナーであること を証明しなければならない。BTAはこれらのペーパーカンパニーが資 産を保有していると主張している。

BTAの資産回収チームは、アブリャゾフ被告とその家族を監視下 に置く。また、資産凍結命令と管財人の地位、さらに英国でBTAが同 被告に対し資産返還を求めて起こしている11の訴訟も活用し、使命を遂 行している。シュアレスマルチネス氏は同チームについて、「非常に激 しい闘争を繰り広げており、資産回収に向けあらゆる法的手段を駆使し ている」と指摘した。

資産探しが始まった

BTAの消えた資産探しは、カザフの規制当局が同行を管理下に置 き、運営を政府系ファンド(SWF)のサムラックカジナに引き継い だ09年2月2日に始まった。監査人たちはバランスシートから100億ド ルが消えていることを突き止めた。そのうちBTAが回収可能と考えた のが60億ドルだった。当時、カザフスタン国立銀行(中央銀行)の総裁 だったグリゴリ・マルチェンコ氏はハウェル氏を厳寒のカザフ南東部の 都市アルマトイに呼び、BTAの資産回収で選択肢を尋ねた。

ハウェル氏は、マルチェンコ氏とサムラックカジナのカイラット・ ケリムベトフ氏に対し、英国の裁判所でアブリャゾフ被告の責任を追及 する中で解決の鍵が見つかるだろうと助言したという。「それによって 彼の行動の真相に迫ることができよう」とハウェル氏は語る。

そしてハードマン氏が登場する。休日はスポーツカーを駆るという 同氏は09年8月13日には、アブリャゾフ被告が世界各地で保有する全資 産の凍結に加え、その所在場所を明らかにするよう命じる裁判所命令を BTAが勝ち取るという、成果を挙げる。

突き付けられる現実

しかし、BTAのチームがいくら努力しても、回収できるのは恐ら く20億-30億ドル程度にとどまろうとプロスヤンキン氏は話す。アブリ ャゾフ被告は、世界的な不動産ブームがピークだった07年と08年に BTAの資金を不動産に投じており、これらの開発計画の多くは依然と して実体がつかめぬままだ。「資産を見つけだすことができても、それ はアブリャゾフ被告が08年に投資した資金のほんの一部にすぎないだろ う」とプロスヤンキン氏は指摘する。

三大陸を股にかけ5年にわたる追跡劇を繰り広げてきたBTAの資 産回収チームは今、世界の金融規制が見直されない限り変わることはな いとみられる現実に直面している。それは、60億ドルが消え去るのは、 その在りかを突き止めるよりもずっと簡単であるという現実だ。

原題:Hunt for Kazakh Bank’s Missing Billions Tracks Quarry to Riviera(抜粋)

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