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トヨタ創業家社長のロマン、祖父・喜一郎の思い胸に復活へ

試練続きの4年間だった。トヨタ自 動車の豊田章男社長は就任から8カ月目に「1年も持たなかった」と辞 任の覚悟を決めていたという。金融危機の影響が尾を引く2009年6月に 創業家出身社長として世界最大の自動車メーカーを引き継いだが、その 門出は波乱含みだった。

就任3カ月後には、米国での事故を発端としたリコールで、社長自 身の説明を求める批判的な論調が高まった。最初のリコールから4カ月 後、章男氏は米議会公聴会で証言し、その後、現地の人気情報番組「ラ リーキング・ショー」に出演した。章男氏は、ここが今のトヨタへの転 換点だったと振り返る。

「純粋に自動車フリークなんだと思ったよ」-。司会者のラリー・ キング氏は12日のブルームバーグのインタビューに当時を振り返った。 番組最後に「ところで、どんな車に乗っているのか」と尋ねると、章男 氏は「200車種に乗る。車が大好きだ」と答えキング氏を大笑いさせ た。「メディアの露出に慣れていないにしては、非常にうまい受け答え だった。もっと露出を増やすべきだと今でも思う」とキング氏は語っ た。

メディアや投資家が章男氏に直接話を聞ける機会は今も多くない。 その一方で、東日本大震災、タイ洪水の被害、歴史的円高と難局を乗り 越えてきたトヨタの社長として今年、会見でのかしこまった表情とは違 う一面を見せ、同時に豊田章男流の経営手法を明らかにしつつある。

ブルームバーグが集計したアナリスト22人の予想平均で今年度純利 益は1兆8331億円と過去最高の見通し。調査会社JIアジアリサーチの アナリスト、スティーブ・アシャー氏は「トヨタの復活は円高緩和によ るものだけではない。復活に向け数多くの取り組みをしてきた結果だ」 と指摘、「それは章男社長のかじ取りによるものも多い」と述べた。

情熱

「先週、自動車走行トラックで6時間も章男社長と一緒だった」 -。米カリフォルニア州でトヨタやレクサスの販売店を運営するマイ ク・サリバン氏は、章男氏が社長になって販売店との関係が劇的に変わ ったと考える1人だ。章男氏は経営陣というより「若手の仲間」という 印象で、トヨタ車にこれまでにはなかった「情熱」を注ぎこもうとして いると12日、ブルームバーグに語った。

その言葉通り、章男氏は就任当時から「いい車をつくろう」を合言 葉にしてきた。「若者が車から離れたのではなく、メーカーが若者から 離れていった」と語り、自らも国際C級ライセンスを持つレーサーとし て、新車開発に積極的にかかわっている。

腹筋自慢の車好き

そんなこだわりは、高級ブランド「レクサス」や富士重工業との共 同開発スポーツカー「86」にとどまらず、世界累計販売4000万台の大 衆車「カローラ」にもみられる。米自動車批評サイト「カー・ビュー」 は、今年9月に北米投入された11代目新型カローラについて「車高の低 い流線形のボディは、スタイリッシュという言葉をまとっている」と評 価した。

愛知県内の小学校から慶応義塾大学、そして米国ビジネススクール までともに過ごした章男氏の幼なじみ、白木桂介氏は章男氏の印象を 「すば抜けて運動神経が良い」と語った。大学時代にグランドホッケー の選抜メンバーとして海外遠征をしていたという章男氏は明るく豪快 で、米国の留学先では章男氏の部屋に集まってビール片手に語りあい、 見事に割れた腹筋を自慢されたこともあったという。

その当時、章男氏はポルシェをはじめとするスポーツカーのスピー ド感を楽しんでいたという。白木氏が乗っていた米国車の足回りが柔ら かいセダンを章男氏が運転したときに「船に乗っているみたいだな」と 笑っていたのが印象的だったと語った。

米ハリス・アソシエイツのデービッド・ヘロー最高投資責任者は、 今のトヨタで最も評価しているのは「章男氏が多くの車を売ることよ り、どんな車をつくるかを気にしていることだ」と述べ、「レクサスに デザイン性が欠けていると思えば、ただちに改革に乗り出した。結果を 出すための行動を起こしている」と語った。

「やめたらどうですか」

章男氏は、レクサスブランド復活をかけた11年の「GS」モデルチ ェンジの際、開発陣に「やめたらどうですか」と言い放った。今年7月 の報道陣との懇談で「モデルチェンジの時期が来たから出しますという 姿勢にかちんときた」と語っている。GSのチーフエンジニア、金森義 彦氏は11年完成披露会で、章男氏の試作車に対する「アクセルを踏む気 にならない」という辛辣な感想に、開発陣が死にもの狂いで食らいつい たと語った。

以来、レクサスはGSの開発コンセプトをラインアップに次々展 開。5月に国内投入した新型セダン「IS」は発売1カ月後の受注が月 販目標の9.5倍の約7600台に達する人気となった。レクサスは今年、過 去最高となる52万台の世界販売を見込んでいる。ゴールドマン・サック ス証券は4月25日付リポートで、レクサスの営業利益は13年3月期 の2000億円から15年3月期に5000億円に拡大すると予想している。

創業家というレッテル

トヨタのマーク・ホーガン社外取締役は、67年から第5代社長を務 めた豊田英二氏、第6代の章一郎氏、第7代の達郎氏と豊田家と深い親 交がある。80年代には米ゼネラルモーターズの財務担当者としてカリフ ォルニア州にあるトヨタとの合弁工場(NUMMI)で章男氏と仕事を した。生産現場を袖まくりして歩き回る腰の低い章男氏は豊田家の跡取 りに見えず、工場に足を運んで流ちょうな英語でコミュニケーションを とるスタイルは、それまでの社長像とはまったく違ったという。

章男氏自身も認めるように、創業家というレッテルは常につきまと っていた。44歳で最年少取締役となり、53歳で社長を引き継いだのは09 年。金融危機の世界的な影響で10年3月期に営業赤字8500億円が見込ま れる中、事業の建て直しを迫られるマイナスからのスタートだった。

09年1月20日のトップ人事発表は唐突だった。当時の張富士夫会 長、渡辺捷昭社長、副社長の章男氏の3人が会見し、章男氏が「100年 に一度の未曾有の難局の中、かじ取りの責任を感じている」と社長昇格 への抱負を述べた。創業家出身とはいえ、世界的な大企業の社長が一気 に14歳も若返ることになった。

「経営に慢心」

社長として公式な場へほぼ初めての登場は09年10月、日本記者クラ ブでの講演だった。そこで章男氏の口から飛び出したのは、トヨタが実 力以上に拡大し続けた結果、「企業凋落(ちょうらく)の最後から2番 目の段階にある」という認識で、「経営に慢心があった」とあからさま な旧経営陣批判だった。

間もなく米国でリコール問題が発生。しかし、当時の副社長に対応 を任せて姿を見せなくなった章男氏にメディアの攻撃の矛先が向かっ た。「ハウス・オブ・トヨタ」の著者・佐藤正明氏はブログで、社長は 米国に飛び記者会見をすべきなのに、国内で緊急会見すら開かないと批 判。リコール危機中に章男氏がダボス会議に出席した際は「これでは株 をたたき売られるのも致し方ありません」とコメントした。

当時のトヨタ幹部はリコール時の対応について、若い章男氏でうま く対応できるかという雰囲気が社内にあったのは事実とブルームバーグ 取材に語った。社長が一言でも間違ったことを言えば、尾ひれがついて 世界中で批判されることも懸念したという。

こうした流れの転機となったのが公聴会をきっかけとした米国訪問 だった。章男氏は10年2月24日の公聴会冒頭、「私は創業者の孫で、す べてのトヨタの車には私の名字がついている」と述べ、自身の責任の所 在を強調した。その夜に出演したラリーキング・ショーは、米国に社長 自身の声を伝えるメディアとしてトヨタ側から連絡をして出演を決め た。

社長の涙

公聴会証言を終えた章男氏は同日、米ディーラー集会に拍手で迎ら れ、声を震わせ涙を見せた。当時のトヨタ幹部は、社内で章男氏への協 力を惜しまない声が前後して増えたという。人前で社長が泣くことへの 反発もあったが、同時に章男氏がどれだけ1人で抱え込んできたかと案 じ、何十年もの積み重ねから生じたリコール問題を一手に引き受けた社 長が前に進もうとしているなら、そこに加わろうと思ったと語った。

米メリーランド州でトヨタ販売8店舗を運営するタミー・ダルビッ シュ氏のトヨタの印象は、優秀な自動車メーカーだが必要な変化への対 応が遅いというものだった。しかし、章男氏のリーダーシップで「市場 への反応が早くなった」と感じている。投資家のヘロー氏は、トヨタは 過去の急速な拡大で官僚的になり過ぎていたが、ここ数年、章男氏がそ の文化を変えようとしているとみている。

一つの取り組みが、章男氏の意向で約4年前に始まった火曜日朝の 役員会議だ。章男氏は7月の懇談で、「ルールは唯一、資料は持ち込ま ないこと」と述べた。資料を求めると出席役員以外の担当者が前日まで に用意することになり、それでは直近の状況を把握できないという。

口角泡飛ばして議論

「質問に対する答えを持ち合わせていなければ、分かっている人が 答えればいい。みな、自分の言葉で発言をする。僕はそこに価値を感じ ている」と章男氏は語った。この会議に出席している役員は「以前は知 らないと発言することがタブーだった時もあるが、今は自由だ。役員同 士が口角泡飛ばして議論することもあるが、議論をすることで腹に落ち る部分もできた」と歓迎する。

基幹技術の自前主義に風穴を開け、提携を進めたのも章男氏が社長 になってからだ。リコール問題が落ち着いた10年5月には電気自動車 (EV)ベンチャーの米テスラ・モーターズに出資してEVの共同開発 に乗り出し、11年には独BMWからディーゼルエンジン調達で合意。情 報技術(IT)分野では米マイクロソフトや、米セールスフォース・ド ット・コムなどとも提携をした。

昨年から今年にかけては日本自動車工業会会長として、若者に自動 車の魅力をアピールするイベントを次々と企画。章男氏自身もズボンの 裾をロールアップした流行スタイルで大学を訪問し学生らと語りあった り、女性ファッション誌上で主婦層をターゲットとした対談もした。

創業家の求心力

アドバンストリサーチジャパンの遠藤功治氏は、トヨタの復活では 創業家・豊田の名前による求心力もあったとみている。部品メーカーと 密接な関係を築いてきたトヨタグループで、「豊田社長を盛り立てよ う」とぎりぎりのコスト削減をしたサプライヤーも多いという。しか し、そのコスト削減をサプライヤーの努力にとどめずトヨタの生産構造 として改革したことが、評価に値すると語った。

トヨタは12年4月、新しい自動車開発手法「トヨタ・ニュー・グロ ーバル・アーキテクチャー(TNGA)」の導入を発表。部品や車台の 共有化で原価低減、開発効率向上を目指すなど、商品開発力強化と開発 コスト削減の両立を図る。遠藤氏は、この仕組みで新車開発期間が半減 したり、小型車の台数当たり利益を5%程度に、また高級車利益を15 -20%程度に引き上げることも可能だと述べた。

一方、世界最大市場の中国での販売伸び悩みや、トヨタが最大市場 占有率だった東南アジア諸国連合(ASEAN)地域での競争激化など 課題も抱えている。商品面では、レクサスの新型セダン「IS250」 が10月、米消費者団体専門誌コンシューマー・リポーツから「推奨」の 評価を得られなかった。同誌は「スポーティでもなく、高級感もな い」、「路上テストのスコアは最近のレクサスで最悪」とコメントして いる。

柔軟性が求められる

アシャー氏はコンシューマー・リポーツの品質評価について「致命 的という問題ではない」としながらも、今後はより綿密に調査し、市場 に対応した商品に素早く切り替えるなど柔軟性が求められると述べた。

章男氏は今年6月の株主総会で「この4年間、いろいろな試練があ って、いろいろなことを学んだ」と語った上で、祖父の喜一郎氏に思い をはせた。喜一郎氏は国産大衆車を大量生産することに情熱を注いだ。 自動車生産に奔走したものの、戦争や労働争議に巻き込まれ、やっと事 業が軌道に乗り始めた57歳で命を落とした。ちょうど今の章男氏と同じ 年だ。

ロマン

章男氏は「喜一郎に会ったことがないが、喜一郎の思いがあったか らこそ今のトヨタがあると思っている」と考えており、「私自身も刈り 込み(収穫)をしたいと思うときもあるが、現役の苦労は将来花開くた めにやっている。そうすることがロマンだと感じようじゃないか」と語 った。

この総会では「4年の試練を超え、ようやくスタートラインに立っ たばかり」であり、真の競争力とは何かをこの1年かけて見つけ出すと 述べている。

--取材協力:Alan Ohnsman. Editors: 浅井秀樹, 宮沢祐介

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