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勝率10割のIPO、初値高くプラチナ券に-12月件数は07年来

ことしの日本の新規株式公開( IPO)市場は、19日までに登場した全社の初値が公開価格を上回って いる。リーマン・ショック後に冷え込んだ企業の上場意欲も回復傾向 で、12月のIPO予定社数は2007年3月以来の高水準になりそう。年内 の初値上昇が続き、勝率10割となれば、2000年以降では初めてとなる。

埼玉県で工務店を経営する個人投資家の山口幸雄さん(40)は、 「公募株を手に入れれば、短期間でほぼ確実に利益を上げられるIPO 銘柄の魅力は非常に大きい」と指摘。ただ、6月以降はほぼ全銘柄のブ ックビルディングに参加しているが、今のところ抽選で外れてばかり。 5度あった補欠当選も繰り上げ当選には至らず、「なかなか手に入りに くいプラチナチケットだ」と嘆く。

国内IPOの復調は、安倍政権の誕生と経済政策、いわゆる「アベ ノミクス」への期待と評価で為替市場で円安が進行、それに連れて日本 株も上昇し、投資家と経営者双方の心理が株式に向いた点が大きい。5 月におよそ5年半ぶりの高値を付けた日経平均株価は、一時的な急落と もみ合いを経て、15日時点の年初来上昇率は46%と先進国の主要24指数 の中でトップの座を維持する。相場が弱含んだ中でも、需給のもつれが 少ないIPO銘柄には個人など短期的な値幅取り資金が流入した。

昨年12月20日上場のシュッピンとユーグレナに始まり、今月19日に 上場したANAPまで、37社連続で初値が公開価格を上回っている。初 値上昇の連続記録は、06年3-6月の39社以来。ことし上場した銘柄の 初値上昇率は平均で2.4倍に達する。年末までこの記録が続けば、年間 勝率は10割で、少なくとも2000年以降では初だ。20日上場のM&Aキャ ピタルパートナーズ、メディアドゥも人気化し、買い気配のまま初日を 終了。10月までに上場した32社中、足元の株価が公開価格を上回るの は26社。さらに12社は、初値を上回って推移する。

来年は年間70-80社上場と野村予想

例年年の瀬は、年内の駆け込みでIPO件数が集中する。アベノミ クス相場初動の昨年も、12月は14社と単月では07年6月に並ぶ多さだっ た。ことしはこれまで16社の公開が明らかになっており、23社が上場し た07年3月以来の水準に達するのは必至。野村証券公開引受部の倉本敬 治次長は、12月は20社弱、13年年間で60社程度とみている。

倉本氏は、IPOの活発化について「景気回復に対する期待感か ら、上場を考える企業が増えてきたのが1つ」と分析。また、相場好転 で「当初想定していたより資金調達が期待でき、既存株主にとってより 多くの利益を回収できるということもあり、IPOに向け準備を始める 会社もある」と言う。14年もIPO件数の増加傾向は続き、「来年に は70-80程度になりそう」と同氏は予想している。

プロ向け市場を含む国内IPO件数は、ライブドア事件やリーマ ン・ショックの影響で09年に19社まで落ち込んだが、10年は22社、11 年37社、12年48社と回復傾向。ことしは10月までに36社が登場、11月は 5社、12月は既に16社が予定し、4年連続で増える見通しだ。世界取引 所連盟のデータによると、世界ではことし10月までに770社が新規上場 し、米国は187社、香港56社、英国84社などとなっている。

真のアベノミクス効果、15年鮮明化も

3月に新規上場し、野菜のインターネット通販を手掛けるオイシッ クスでは、アベノミクス相場の始まりと改善しつつあったIPO市場が 上場の「最終決断を後押ししたのは間違いない」と長谷川哲也取締役は 振り返る。上場前の2月に投資家を回った際は、「反応がすごく良く、 資金も集まりやすかった」そうだ。

オイシックスは、前期(13年3月期)中のIPOを目標に準備をし てきたため、素早く上場できたが、こうした企業は少数派。一般的に は、公開準備から実際の上場まで2-3年程度はかかり、アベノミクス で上場意欲を刺激された企業群が本格的に登場してくるのは15年前後に なるとみられる。

IPOウオッチャーで知られる金融情報会社、東京IPOの西堀敬 編集長は証券、証券印刷会社からのヒアリングを通じ、新規上場社数は 「再来年には100社に乗せる可能性もある」との認識を示した。もっと も、「リーマン・ショック前に150-200社前後あった過去のレンジ、日 本経済の規模からすれば、まだまだ下振れた水準」としている。

機関投資家も視線

三菱UFJ投信の内田浩二チーフファンドマネジャーはことしの公 開銘柄について、多くが「興味深いビジネスアイデアを持ち、魅力的で 将来の成長に期待できる」と評価する。

6月にジャスダックに上場したリプロセルは、人工多能性幹細胞 (iPS細胞)用の研究試薬を手掛け、ノーベル賞を受賞した京都大学 の山中伸弥教授にも培養液を提供。公開価格3200円の5.6倍に当たる1 万7800円の初値を付けた。8月に上場した訪問看護のN・フィール ド、10月に上場した省電力支援サービスのエナリスも特徴的な事業内容 が注目を集め、初値上昇率は2倍を超えた。

IPO銘柄には中小規模、新興系企業が多いため、おのずと投資家 層も個人中心となっているが、野村証の倉本氏によれば、「数年前なら 動かなかった機関投資家が、最近は規模的に小さい銘柄でも値上がり期 待を持ち、積極的に買ってきている」と言う。ブルームバーグ・データ によると、Nフィルドの大株主にはフィデリティ投信(保有比 率8.67%)、JPモルガン・アセット・マネジメント(同5.76%)が並 び、3月上場のブロードリーフにもニッセイアセットマネジメント、イ ンベスコ投信投資顧問が名を連ねる。

IPOの好調で、ベンチャーキャピタル(VC)も潤う。最大手ジ ャフコの4-9月期売上高は前年同期比2.8倍の157億円、営業利益は14 倍の80億円と急拡大。上場営業投資有価証券の含み評価益が前期末の63 億円から、今上期末は259億円に膨らんだ。松田宏明執行役員は、 「IPOが活況だった06年の3月末(284億円)以来の規模」と言う。

小粒中心、悪役登場に注意

足元のIPO市場が活況、回復との評価に少し違和感があるとする のは東京IPOの西堀氏。全般的に、上場銘柄が小粒という点が背景に ある。大和住銀投信投資顧問の苦瓜達郎シニア・ファンドマネジャー も、ここ数年は新規上場する企業の規模が小さく、投資しても道理にか なう、セカンダリー・マーケット(流通市場)まで粘れるような会社が 減っている、との見方だ。

また、初値高騰の影響で「公開価格が上がり、バリュエーションは 切り上がっている」ため、魅力・妙味が落ちてきたと苦瓜氏。仮条件の 上限なら投資しようと考え、書類を準備していた案件もあったが、「主 幹事が価格を上げたことで、投資をやめた」と明かす。IPOが集中す る12月に、市場からの資金吸収額が必要以上に大きく、公開価格が割高 といった悪役が登場し、公開価格割れを起こせば、「雰囲気が変わり、 その後引きずる可能性もある」と同氏は警戒している。

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