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「トイレのバットマン」で稼ぐ超人気の画家はゲームオタク

インドネシアの画家イ・ニョマン・ マスリアディ氏は、シングルモルトのスコッチ「マッカラン」18年物を グラスに注いだ。

インドネシア・ジャワ島の古都ジョグジャカルタにある広大な邸 宅。むせ返るようなジャスミンやフランジパニの芳香に包まれた夕方の プールサイドで、マスリアディ氏(40)は「自分は仕事で成功したと言 えるだろう」と語った。ブルームバーグ・マーケッツ誌別冊の「ブルー ムバーグ・パースーツ」誌2013年ホリデー号が報じている。

マスリアディ氏は控えめに言っているに過ぎない。15年前にはバリ 島で観光客相手にみやげ用の絵を1枚20ドルで描いていたが、今ではギ ャラリーでその作品が25万-30万ドルで売れるようになった。同氏はオ ークションに出品した作品が100万ドル(約1億円)を突破した東南ア ジア初のアーティストとなった。

こだわりが強く遅筆のマスリアディ氏が1年に描き上げるのは8 -10作と寡作だ。同氏の作品が大半の人の目に触れるのは一度に1、2 作で、大抵はオークションに出品される時だ。

マスリアディ氏は押しも押されぬインドネシア美術界の顔となっ た。中国市場が冷え込む中、インドネシアはコレクターにとって現代美 術の次の大きな開拓地となる可能性が高い。

DotA

2008年5月のクリスティーズのオークションで、ピンク色のビキニ 型ブリーフがくるぶしまでずり落ち、ロープで縛られた両手で裸を隠し ているボディービルダーを描いた「Sudah Biasa Di Telanjang」(裸に なるのは慣れている)は、54万ドルで売れた。東南アジアの現代美術と してはオークションでの史上最高値となった。

5カ月後の10月4日、サザビーズのオークションで、バットマンと スーパーマンが隣り合ったトイレの個室に座った姿を描いた「Sorry Hero, Saya Lupa」(ごめんなさいヒーロー、忘れていた)は61万9000 ドルの値を付け、さらに最高値を更新した。

その記録は2日後にまたもや破られた。ボクシングをテーマにした 3部作「The Man From Bantul (The Final Round)」(バントゥル出身 の男、最終ラウンド)は、インドネシアの有名コレクターに101万ドル で売れた。

シャイで小柄なマスリアディ氏は、同氏の絵画の中の筋骨隆々のヒ ーローとは正反対だ。同氏の自宅を最初に訪ねた時、2台のノートパソ コンを置いた大きなチーク机の前に座っていた。ビデオゲーム「ディフ ェンス・オブ・ジ・エンシェンツ(DotA)」に夢中になっていた同 氏は、気が進まなそうに休憩を取って自宅を案内してくれた。

バットマン

マスリアディ氏は1997年、スーパーヒーローを描くという、それま でと全く違ったことを試みた。「バットマンを描くのは本当にわくわく した」と話し、「とても幸せに感じたが、探く追求して作品を描き続け るという罠(わな)に陥ることが心配だった」と振り返った。

この間、ジャワ島出身のアナという女性と婚約し、97年にアジア通 貨危機が起こる中、故郷のジョグジャカルタに帰ることを決意した。だ が、金銭的に余裕がなかったため、マスリアディ氏はバリ島に1年半残 り(この間に息子が誕生)、みやげ用にバリ島の神話上の人物の絵を1 日に2枚のペースで描き続けた。当時でさえ、生まれ持った才能は際立 っていた。

「美術市場で人気を集め、ディーラーが自宅まで訪ねてくるように なった」。ギャラリーで署名付きの絵が100ドルほどで売れるようにな るまで時間はかからなかった。

マスリアディ氏が98年に家族を連れてジョグジャカルタに戻った 時、インドネシアは激動の変革期の最中だった。31年間独裁体制を敷い ていたスハルト大統領が退陣し、改革運動が始まった。

癒しの時間

この時期はマスリアディ氏にとって、かつてないほど生産性の高い 時期となった。翌年に30作以上の絵画を描き上げたからだ。これらの作 品では、同氏の特徴となった風刺的な視点と力強い比喩的なスタイル で、腐敗や社会的不公正、軍の不正といったテーマに取り組んだ。

だが、マスリアディ氏はプロらしさに欠ける国内のディーラーに幻 滅するようになった。これと同時期にオンラインゲームの世界を発見 し、作品の数は落ち込んだ。バーチャルな世界には共感できた。

自宅に高速インターネット接続環境を整えると、中毒はさらに悪 化。「ゲームをしながら絵が描けるようにインターネットのケーブルを 延長した」。現在は5年前ほど頻繁に長時間ゲームをすることはない が、依然はまっている状態だという。「絵を描くことは癒しだが、ゲー ムも癒しの一種だ」と話す。

アシスタントなし

マスリアディ氏の作品は08年に過去最高値を記録した後、アジアの 現代芸術市場が全体的に若干冷え込んでいるにもかかわらず、価格を維 持している。マスリアディ氏はアシスタントなしで働いており、どんな に経済的なインセンティブがあっても、作品の数を増やすことを断固拒 否している。

ガジャー・ギャラリー(シンガポール)のジャスディープ・サンド ゥー氏は、「彼はいつも働いているが、作品を描くことと同じくらい見 ることに時間を費やしているのではないか」と指摘する。海外のコレク ターが訪問する際、中国のスタジオのように取り掛かり中の作品が7、 8作あることを期待するが、現実にはビデオゲームをしているか、裸足 のまま地面に座って絵を描いているマスリアディ氏を発見することにな る。「ふざけているのかと思ってしまうよ」。最近のマスリアディ氏を 評してサンドゥー氏はそう語った。

原題:Superheroes Plus Satire Propel Artist Masriadi Above $1 Million(抜粋)

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